第2-17話 オーナー
花城如音の予想外の協力により、葛城から情報を吐かせることに成功した。葛城の口からは記憶喪失の原因について語られる。
葛城康介「まずは、榎宮の質問から答えようか。榎宮だけでなく、管理者たちまでに及んだ記憶喪失。」
花城如音「葛西や牟婁星も記憶がなかったな。」
牢獄での伊敷季の通話のことを思い出す。
葛城康介「記憶がないのは【ある三人】に記憶を抜かれたからだ。」
榎宮愷「ある三人?」
葛城康介「花城如音、お前なら心当たりがあるんじゃないか。お前と同じように極楽から地獄へ追放された三人の事件、当時お前がそれを担当し、倒し損ねたやつら。」
それをきき、花城如音の表情が曇る。心当たりがあるのか、目線は横に、眉間は狭まった。
花城如音「ちっ、あいつらか。」
同刻 bの会場にて
伍代翔地と木崎印、佐藤要の三人は辺りを捜索していた。自身の記憶喪失に何か手がかりがあるかもしれないと僅かな可能性を懸けて。
木崎印「まさかお前とまた会うことになるとはな。」
佐藤要「俺も驚いているよ。まさか地獄に帰ってくるとは。」
木崎印「もう覚えていないが、あの毒を耐え抜いたんだな。」
もう存在が消されてしまったものによって為された毒の攻撃。その手に触れれば、消滅はほぼ免れないそれを幸奪戦争が終わるときにまで耐えきり、見事勝利者となった。毒の苦しみは覚えているのか、それを成し遂げたことに素直に賞賛する。
佐藤要「いや、多分耐え抜いてはいない。」
木崎印「?どういうことだ?」
佐藤要「幸奪戦争が終わるときまで耐えれはしたけど、幸奪戦争が終わっても解毒はされなかったんだよ。だから俺はあのあと失格になった。」
木崎印「解毒がされない?幸奪戦争に生じた外傷は幸奪戦争が終わった瞬間に回復されるものじゃないのか?」
伍代翔地「それが少し違うんですよ。」
木崎の疑問に伍代が答える。
伍代翔地「幸奪戦争が終わった瞬間に回復されるものは【武召喚】による攻撃だけです。」
木崎印「俺たちが投影する武器による攻撃のことか?」
伍代翔地「ええ、どの種性核でも使える武召喚、例えば剣による切り傷や刺し傷は幸奪戦争が終わった瞬間に回復されます。」
佐藤要「じゃあ回復されないのは?」
伍代翔地「【種性核】の攻撃です。」
木崎印「なるほど、大体わかった。」
区別して説明された種性核の攻撃と武召喚の攻撃の違いに気づき、ある程度理解を得られた様子の木崎。しかし、佐藤はそうではなかった。
佐藤要「え、俺まだわかんないんだけど。」
伍代翔地「佐藤さん、クラインドについて説明できますか?」
佐藤要「え、く、クラインド?」
急に投げ掛けられたその質問にあわてて佐藤はなんとか自身の種性核の詳細を思い出すように語った。
佐藤要「えっと、、クラインドは確かクラッシャーにしか使えない必殺技みたいなもので、、あ!」
ここでようやく理解できたのか、声を漏らす。
伍代翔地「理解されたようですね。種性核の攻撃というのはその種性核にしかできないオリジナルの攻撃のことです。」
佐藤要「クラインドとかエスケープの種核醒とかそういうのか。」
木崎印「さっきのポイズンもクリエーションにしかできない、いや多分やつにしかできなかったオリジナルの攻撃だから幸奪戦争が終わったもその効果が続いたと。」
伍代翔地「種性核の攻撃は一度消滅しないと効果が延々と持続するので佐藤さんはもう失格になっているでしょうね。」
佐藤要「もうあとがない、か。」
自身の境遇をつきつきられ、少し深刻気につぶやく。佐藤要は現界からの友人と共に七次の幸奪戦争に参加したが、その友人は脱落した。その存在はほとんど思い出せないものとかわり、顔はおろか名前さえも浮かばない。確かにその友人がいた、という事実だけはかろうじて残っているがそれも時間の問題だ。
存在が失くなる恐ろしさを身近の人の喪失によって身をもって知っているため、その深刻な表情と声には必然さがあった。
伍代翔地「それにしてもやっぱり手がかりなんかないですね。」
ダメもとの探索だったが、案の定なにもなくどうすればいいか頭を悩ませていた。
木崎印「この場所から出ることは許可されてないからな。もうこの場所にはいないのかもしれない。」
佐藤要「じゃあ俺たちは一方的に記憶を徴収されただけかよ。」
そう落胆する二人だったが、伍代はかすかながら感じ取っていた。他の誰かの気配に。
伍代翔地(…誰かいるな。)
正確な場所はわからない。しかし、確実に何かがいる。それは恐らく自分たちが探しているものの…
伍代翔地「!?」
その瞬間、潜んでいた何かが動き出した。それに反応できたのは伍代翔地ただ一人。その何かが狙っていたのは佐藤要だった。伍代は佐藤の背中の服をつかみ、自身の後ろの方へと投げる。
佐藤要「お、ぉぉぉぉぉぉ」
投げ飛ばされた佐藤は自身のからだが宙を舞うことに驚嘆と危機感を声に出して表し、やがて地面に全身がつく。
???「あーーおっし!!!あともうちょいだったのに!!」
半ば楽しそうに半ば悔しそうにそう叫ぶ青年の姿がそこにはあった。
伍代翔地「何者ですか?」
米舞生異渚「俺の名前は米舞生渚。ちょっとそこの佐藤ってやつ消したくて。」
伍代翔地「なぜです?」
米舞生異渚「いやー、こいつ勝利者じゃん?流石に勝利者が地獄にいるっていう事実を管理者側が黙っている気がしないなーって思って。だから抹消して事実を揉み消そうかなと。」
そこに何の悪意もなくただ純粋な心での発言に伍代を含め、この男の狂気の沙汰を感じた。伍代はもしやと思い、問いをかける。
伍代翔地「あなた、私たちの記憶を抜き取ったものをご存知ですか?」
これも正直ダメ元な質問だった。記憶を抜いて行方をくらますやり逃げ方式が合理的だからだ。記憶を抜きたかっただけなら、わざわざ戻ってきて再度襲う意味は皆無。それでも可能性は0ではないため、聞いてみることにした。
米舞生異渚「おん。それ、俺の仲間。」
即答だった。悪びれる様子もなく平然と答えた。伍代も一瞬意表をつかれたが、すぐさまある決断に出た。
伍代翔地「ファースト。」
伍代の右手にキザ刃の短剣が投影される。そして米舞生異に向かって飛びかかり、短剣を振りかざす。
米舞生異渚「ファースト」
米舞生異の右手には槍が投影される。伍代から振りかざされる短剣を槍で受け止める。
米舞生異渚「少しは楽しませろよ?」
伍代翔地「まずは口から斬られたいのか?」
互いの挑発を終えた瞬間、激しい攻防が始まる。短剣を目で追うには酷な程のスピードで斬り続け、米舞生異もまたその酷なスピードに食らいつく。互いの攻撃速度は互角。速さで決着はつかないと双方理解し、即座に力の押し合いと攻撃の駆け引きへと発展した。
一撃ももらわないように互いに高速で頭を回転させ、攻撃の箇所を即座に決断し、かわされた場合はすぐさま次の攻撃に移る。力の差は伍代の方が上ではあるが、耐久力は互いに芳しくない。そのため互いの攻撃は当たればなかなかの有効打となってしまう。その警戒からかこの数分の間、お互い一撃ももらわず拮抗状態が続いていた。
佐藤要「あいつら武召喚せずにあのスピードだしてんのか?」
木崎印「みたいだな。」
人間離れした二人の攻撃速度に感心しながらも、佐藤と木崎は米舞生異以外の存在に勘づき始めた。
木崎印「それでこそこそ隠れているお前は何なんだ?」
物陰に隠れ身を潜めている存在に遠くから語りかける。すると、姿を現し始めおどおどしながら話し出した。
伊美鳥瞰「え、えと、あ、あの…」
怯え、足を震わせ、びくびくしながら言葉を絞り出そうとしていた。
佐藤要「怖いのは帰った方がいい。その様子だと無理やり戦わされてそうだしな。」
伊美鳥瞰「い、いや、そ、そうじゃ、なくて…」
佐藤要「ん?じゃあ何?」
佐藤は伊美鳥瞰という人物に警戒や敵対心はなく、ただ誰かに無理やり戦わされてそうという偏見のもと優しい声で伊美のもとへ近づき出した。そして伊美は言葉の続きを話しだす。
伊美鳥瞰「やりすぎないようにって、【オーナー】から言われてて。」
伊美は佐藤の腹部に手を触れる。8割ほどの力を込め、佐藤を押した瞬間、佐藤の身体は吹き飛んだ。壁に激突し、爆音と埃を舞わせる。
佐藤要「く、ぅ、うぅ、」
油断し、吹き飛ばされながらも受け身はとり、持ち前の身体能力で幸い軽傷で済んだ。すぐさま立ち上がり、警戒の目線を向ける。
伊美鳥瞰「え?消えてない…?」
まさかの残在に驚きを隠せず、体がまた震え始める。
伊美鳥瞰「え、う、うそ…え、てことは、【もっと本気でやっていいの?♥️】」
興奮もし出した新たな襲撃者の姿にしばらく静観していた木崎も動き出した。
木崎印「はぁ、何で俺の周りはイレギュラーしかいないんだよ。ファースト。」
ため息をつきながらも、戦闘の覚悟を決め武召喚を行う。木崎の右手には刀が投影される。
佐藤要「ファースト」
佐藤も加勢し、右手には巨剣が投影される。
伊美鳥瞰「壊れないでください、ね。中々出会えないんですから。」
信愛に近い目をしながら、期待を込めて全力を出すことを決意した伊美。武召喚はせず、ありのままの力だけで戦うようだ。
佐藤要&木崎vs伊美の戦いが開始されようとしているなか、榎宮と木崎はまさにその二人のことを聞かされていた。
榎宮愷「伊美鳥瞰と米舞生異渚。この二人は【オーナー】と呼ばれる人物の手下であると?」
葛城康介「あぁ、オーナーの本名は俺も知らない。」
様子からみて、花城如音も知らない様子。極楽にも地獄にも判書に記されていない謎の人物。
榎宮愷「そのオーナーという人とお前は戦ったことがあるんだろ?」
花城如音「いや、戦ったことがあるのは伊敷季という俺の仲間だ。そいつは白髪の老人で片目が見えていないらしい。」
葛城康介「そしてそいつが【お前らの記憶を奪った張本人。】お前らはオーナーという男に手も足も出ず、記憶を抜かれた。これでわかったか?」
榎宮愷「……」
原因はわかったが、それでもまだ釈然としていない様子の榎宮。それを見かねて葛城も尋ねる。
葛城康介「なんだ?まだ何か不満が?」
榎宮愷「理由がわからない。俺たちの記憶を奪う理由がどこにあるんだ?」
そのオーナーという人物は素性が全くわからない謎に包まれた存在。極楽から地獄へ追放されたところまでは理解しよう。だが、そもそもなぜただの獄人がbの会場にいるのか?記憶を抜くメリットは?唐突な登場と不可解な行動。榎宮が疑問に思うのも無理はないだろう。その二つの疑問に葛城は後者の方の疑問に答えを示した。
葛城康介「…まぁ、教えてやるか。お前たちの記憶を奪ったのは頼んでおいたからだ。】
榎宮愷「…は?」
葛城康介「神楽士郎がオーナーに頼んだんだよ。お前らの記憶を消すように。」
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