2-16話 集団喪失
葛城康介「は?何でそんな話になってんだ?」
榎宮愷「才原祐一とお前は何かしらの関係がある。そしてお前は才原祐一と俺との間に何かしらの関係があるとも考えている。」
葛城康介「…それで?」
榎宮愷「木崎というアナリストの男に俺の失われた記憶を一部返還してもらった。」
葛城康介「……」
榎宮愷「それは、七次の幸奪戦争が始まる前に俺と才原が会っている記憶だった。」
その言葉に葛城の表情はわずかに歪む。それが都合の悪いことだったからなのか、驚歎によるものだったのかは榎宮には知るよしもなかった。
榎宮愷「お前は俺のことを才原の協力者だと考えた。才原が俺に与えた頼みごとは七次の幸奪戦争が始まる直前の面会の時に伝えられた。だからお前は敵対している才原の目論みを防ぐために俺と接触し、記憶を抜いた。違うか?」
葛城康介「…なるほど、面白い推理だ。」
榎宮の考えに少し感心したのか、落ち着いた声で素直に賞賛している。
葛城康介「だが、残念ながら私はそんなこと一切していない。」
榎宮愷「それを証明できるのか?」
葛城康介「ふむ、そうだな。七次の幸奪戦争が始まって二日目のとき、俺はお前と坂縞樹をさらった。そのとき俺はお前に【わざわざ】尋問をしたんだ。触れるだけで情報を掴めるはずなのに。」
榎宮愷「確かに、、いわれてみれば。」
葛城康介がアナリストであるなら、榎宮愷に触れるだけで情報を探れるはず。それをせずわざわざ尋問した理由とは一体。
葛城康介「あのとき俺はお前に触れたが欲しい情報を一つも得られなかったんだ。」
榎宮愷「…どういうこと?」
葛城康介「俺が才原祐一と敵対していて、才原の目論みを阻止しようと動いていたのは本当だ。だから才原清一にも接触したし、お前のことも探していた。そして俺がお前のことを才原祐一の協力者だと思っていたことも事実だ。お前を拐ったときに才原に何を頼まれたのか探ろうとしたのも本当。だが、さっきもいったようにそれを読み取ることができなかった。」
榎宮愷「うん。だからどういうこと?」
葛城康介「俺が読み取ろうとしたときには既に記憶は他のやつに抜き取られていたってことだよ。」
榎宮愷「俺と才原の会話の内容は誰かが抜き取ったってことか?」
葛城康介「そうだ。アナリストが解析できる記憶はそいつの保有している記憶。記憶の片隅にあるようなわずかな記憶は読み取れるが、誰かがごっそり抜いた【失くなった記憶は】解析のしようもない。俺が接触する以前に誰かが持ち逃げしたってことだよ。」
榎宮愷「…わかった。一旦個人的なことを聞くのはやめにする。」
自分のことを調べるにはまだあまりにも謎が多すぎるためかこれ以上聞くのはやめにし、別の問いに変えた。
榎宮愷「お前が俺たちの記憶をいじっていないのだとしたら、少なくとも複数のやつらが俺の記憶を抜き取っているはずだ。」
葛城康介「というと?」
榎宮愷「【何で俺は五時間前の記憶がないんだ?】」
葛城康介「…それか。」
榎宮愷の個人的な部分的記憶喪失とは別に、木崎や伍代・勝利者である佐藤や管理者にまで及ぼされている集団的な記憶喪失については何か知っているだろうと榎宮は本能的に理解していた。無論、そのことについて葛城も中嶋もある程度のことは把握していた。
葛城康介「中嶋、どこまで話す?」
中嶋芽依「話す必要ないと思いますよ。暴れるなら葛城さんがとめてください。」
葛城康介「だそうだ。あきらめてくれ。」
監視者が行うのはあくまで命令された榎宮愷の保護のみ。情報提供は行わない方針のようだ。
榎宮愷「いや、教えてくれ。話す必要はないんだろうが、黙っとく必要もないんだろ。」
葛城は中嶋に榎宮の質問に答えるか否かの選択を委ねた。そして中嶋はノーと言い葛城はそれに従った。要は葛城は話す話さないのことに関してはどちらでもよかったのだ。話したところで不都合なことがあるわけではない。しつこく押せば話してくれる、そう考えた榎宮は折れずに質問の答えを求めた。
葛城康介「確かに話したところで俺たちには
何のリスクもない。だが、お前ごときにわざわざ話す価値がないんだよ。」
榎宮愷「なら力付くで聞いてもいいか?」
わずかに声は低くなり、威圧的な姿勢になる。
葛城康介「…わからないな。お前という人間に【一貫性】があるように思えない。」
不可解なものを見つめる目で同情に近い言葉を吐いたその男に何の悪意もなく、ただ困惑していた。
葛城康介「力づくというなら消えてもしらんぞ。失格者。ファースト。」
葛城の両手にそれぞれ双剣が投影される。双剣を構えて、榎宮の戦闘の姿勢を改めて無言で確認する。それに応じ、榎宮も武召喚をする決意を固めた。
榎宮愷「ファースト」
榎宮の右手に剣が投影される。剣を構え攻撃にはい、、、、、
入ろうとしたが、それは葛城の圧倒的なスピードによってできなくなった。彼の体は吹っ飛ばされ、積まれていた段ボールの山にダイブし、辺りが散らかる。榎宮は理解できなかった。急に飛ばされたことに対して反応できなかったことにはでない。葛城康介の種性核はアナリスト。ロストイーブンである自身に危害は加えられないはず。そんな疑問を持った彼の表情をみて葛城は語りだした。
葛城康介「お前の種性核はロストイーブン。アナリストである俺は危害を加えられない。ただそれは【純血】である場合だ。」
榎宮愷「…は?」
葛城康介「聞かされてないか?幸奪戦争に参加する度に種性核は追加される。我殺狂助も七次の際、クラッシャーとロストイーブンの二つの種性核を持っていただろ。複数の種性核を持っているものは【混血】とされる。お前はロストイーブンと何かの種性核が混ざった状態、つまりロストイーブンの種性が半端な状態で機能しているんだ。」
葛城によると種性核が追加される際、最初の種性核と新しい種性核が二つとも本来の機能を発揮するわけではなく、半々くらいの割合でしか機能しないようだ。つまり、七次のときに榎宮はロストイーブンの種性を遺憾なく発揮し、アナリストやクリエーションなどから危害を受けずにすんだが、今となってはその効果は半減し、ダメージ軽減程度に止められてしまっている。
葛城康介「ダメージ0ではなく、カットなら当然勝機はある。」
榎宮愷「…やってみろよ。」
負けじと立ち上がり、剣を構える。そこに油断はなく、集中と警戒、感覚の研ぎ澄ましを無意識に行っている。そして葛城は動き出した。スピードはさっきと同等に早く、気づけば背後にいた。葛城から繰り出される双剣を榎宮は回避し、近くにあった段ボールを投げつけることで斬撃をすべて防ぎ、隙を作る。
生まれた隙をついて葛城のもとへ斬りかかろうとしたが、そう簡単にはいかず葛城の自慢の早さで悠々かわされる。
中嶋芽依「お二人とも私に被害が及ばない程度にしといてくださいね。」
そんな二人の様子を気にも留めず、ただ冷静に椅子で作業している中嶋は自身の安全の保障だけ要求した。
葛城康介「中嶋、君は手伝わないのか?」
榎宮の攻撃をかわしながら、そう尋ねてみる。
中嶋芽依「何で私がそんなことしないといけないんですか?神楽さんの頼みならやったかもですけど。」
榎宮愷「…神楽…?」
中嶋の言葉を聞いた途端、榎宮の攻撃が止まり、異変に気づいた。
榎宮愷「神楽士郎はどこにいるんだ…?」
監視者であるはずの神楽士郎。ここが監視者の部屋なら当然、神楽士郎も居合わせているはず。しかし部屋には葛城と中嶋の二人しかいない。
葛城康介「前回の俺と同じだよ。」
そういって葛城は一つのモニターに指を差し、榎宮の視線をそこに注目させた。モニターには桐生亜衣や我殺狂助の姿が映っていた。ここでようやく、神楽士郎の行方を理解する。
榎宮愷「…まさか、、」
葛城康介「神楽士郎は向こうでどんな動きをするんだろうな。」
榎宮愷「ツインサモン!」
自身の身体強化に二つの武召喚数値を振り込む。体に力がみなぎるのを確認したやいなや、即座に葛城のもとへ斬りかかる。葛城は榎宮のスピードに回避はできず、双剣で榎宮の剣を受け止めた。
葛城康介「大して数値を持っていないくせに、本気で勝つつもりか?」
榎宮愷「俺たちは知らないことが多すぎる。お前らから少しでも情報を吐き出させたいだけだ。」
葛城康介「フォースデバイド。」
葛城は4つの武召喚数値を消費し、右腕に二つ、左足に二つの数値を割り当て強化させる。そして左足の膝蹴りを榎宮の腹部に浴びせる。
榎宮愷「ぐふぅっっ!!」
膝蹴りを浴びた直後に右腕に力を込め、拳を榎宮の頬に激突させようとする。だが、この拳は榎宮の手で受け止められてしまった。
葛城康介「数値の差はどうあがいても覆させないものだ。お前の数値はもう5もない。」
榎宮愷「だからなんだ。それが引く理由になるのか?」
葛城康介「やる気のある無能が世の中では一番迷惑であることに気づけよ。」
榎宮愷「いってろ!!」
再び剣を振るう。一撃、一撃、致命打となるところへ狙いを定め、振るうが一度も当たらない。葛城も反撃を試みるが、葛城の攻撃もまたすべてかわされる。そうして拮抗状態が続くばかりであった。
それから二分後に決着の兆しがみえ始める。
榎宮の攻撃は一撃を繰り出したのち、またすぐに一瞬すら間を置かないようなインターバルで攻撃し続けていた。しかし、そんなことを延々と繰り広げられるわけがない。段々と疲れが出始め、次の攻撃に移る間が長くなり始め、ついにその間が二秒ほどにまで増加した際、葛城が反撃に出た。かわすことが多かった葛城の体力は有り余っており、その二秒の隙をついて榎宮を蹴り飛ばしたのだ。榎宮は防御するのに精一杯で回避はできず、飛ばされた。またすぐに葛城が攻撃に移る。榎宮のうえに飛びかかろうとする。それをギリギリ避け、避ける際に剣を上空に向かって切り裂くことで真上にいた葛城の足にわずかなかすり傷を負わす。
葛城康介「しつこいな。そろそろおとなしくしててほしいのだが。」
榎宮愷「はぁ、はぁ、はぁ、、」
息を切らし、焦りを見せ始めた榎宮。数値の差もあり、状況の優劣は明白だった。
葛城康介「だがこのしぶとさもそろそろ終わりだ。安心しろ。消しはしない。」
しかしその瞬間扉が開かれた。監視者の部屋の扉である。光が兆し、その姿が輝いてみえる。中嶋も含めて三者がそれに注目する。全員が見とれていた1秒後、葛城のからだが押し潰されていた。
葛城康介「ぐはっ!!!」
押し潰していたものは人間だった。それもさっきまで扉の前にたっていた乱入者によって。
花城如音「聞きたいことがある。監視者。知ってることすべてだ。」
葛城康介「お、お前は。」
花城は左手の力だけで葛城を押し潰し、尋問する。
葛城康介「…わ、わかった。すべてを話そう。」
明らかに勝機はないと判断し、降参する。花城如音が与えていた左手の力もその降参によって弱まった。
そして葛城康介から話される。榎宮愷だけでなく、管理者にまで及んだ集団記憶喪失の原因を。
一方その頃aの会場にて。
しばらく参加者の減りがほとんどなかったこの状況、4819人の参加者のままで終わっていたもの。それがなぜか突如として500人失格となった。
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残り参加者4319人




