第2-12話 異質
保田冷無「種性核はスレイブリー。以後お見知りおきを。」
我殺狂助「それで、お前は何しに来たんだ?」
保田冷無「別にどうも?私はただ平和的にこの現状を打開したいだけです。」
平和的に解決、まぁその言葉は新規の参加者にとっても失格者にとっても思っていることだろう。特に新規の参加者は訳もわからず言われるがままここへ来た。前回の参加は任意で危険を冒す心の準備くらいはしてきたはず。今回とは訳が違う。普通に考えれば彼の言動に何らおかしいところはない。
我殺狂助(こいつが普通なら、だけどな。)
彼の種性核がスレイブリーだとするなら、彼の自己紹介の言葉には違和感しかない。前回初参加だった桐生や坂縞、榎宮は種性核やその種性の詳細を掴むのに有識な同盟相手が必要だった。自力でそれを掴むのはまさに雲を掴むような話。しかし目の前にいる保田という男は単身でここへ来て、自身の種性核をなぜか把握している。
我殺狂助(少し試してみるか。)
我殺狂助「ツインサモン。」
我殺は二つの武召喚数値を自身の身体能力に割り当てる。
そして地を蹴り、一瞬で保田と荘重のもとまで向かう。その光景を見た桐生には少し違和感が生じた。
桐生亜衣(我殺くんが強いのは置いといて、そんな早かったっけ?)
我殺は二人の真上にまで近づき、保田目掛けて剣を振り下ろそうとする。
保田冷無「バウンド」
我殺狂助「!?」
保田の言葉が放たれた瞬間、保田と我殺の間に簡単には越えられない紫紺の境界線が生成される。我殺は自身の持つ剣を結界に突き刺し、我殺の全身は結界によって弾かれる。なんとか着地に成功し、我殺の疑念は確信に近いものへとなった。
我殺狂助「何がスレイブリーだ。クリエーションじゃねえかよ。」
保田冷無「流石ですね。4つの武召喚数値を使用しているのに、たった一刺しでもう壊れました。」
彼が話せば話すほど、我殺の彼に対する不審は増していく。
我殺狂助(こいつ、絶対普通じゃない。)
武召喚もできる。数値のことも把握している。スレイブリー以外の種性核のことも認知済。明らかにおかしい。
荘重飯嶌「あ、あのさ、、とりあえず先輩のとこ行ってもいい?」
保田冷無「あぁ、すみません。どうぞ彼女のもとへ。」
そうして、荘重の肩に置いていた手を離し、一歩だけ後ろへ下がる。
荘重飯嶌「ありがと、よ!!」
その瞬間を待っていたかのように、荘重の拳が保田の腹部へ激突する。
保田の体は海老反りになり、言葉にならない声が発せられる。殴り終えた瞬間、颯爽と桐生のもとへ走り桐生の後ろへ隠れ出す。
荘重飯嶌「さすかに俺もそこまで馬鹿じゃねえ。アンティワーム以外の種性核者が短時間でそこまで知っているのは明らかにおかしい。」
桐生亜衣「荘重くん、それを私の後ろで言わなかったら100点だったよ。」
荘重飯嶌「だって、、怖いんですもん。絶対ただ者じゃない。」
桐生亜衣(私に襲いかかったときは私のことはただ者だと思ってたんだ…)
心の中で不満を抱きながらも桐生も保田に対して警戒を強める。
桐生亜衣「それで、君のその早すぎ 情報獲得の裏に何があるのかな?」
保田冷無「随分と無礼な方たちですね。実に不愉快だ。」
よろけたからだを無理やり立ち上がらせ、怒りを顕にする。
我殺狂助「お前は誰と繋がっている?」
保田冷無「それを答えるつもりはありません。それに、答えられないようになっているので。」
桐生亜衣(答えられないように?)
保田という男の裏で何かが動いてる。答えられない、この言葉に桐生は一つ辻褄が合う仮説が浮かぶ。
桐生亜衣(この人、誰かの奴隷?)
保田冷無「あなた方を残す価値はなさそうですね。さっさと消え…」
我殺狂助「うるせえよ。」
保田冷無「え?」
いつの間にか背後に我殺がいるその事象に脳が一瞬機能を失う。その一瞬に決着はついた。
保田冷無 失格
桐生・荘重「え?」
その場にいた桐生や荘重も理解が追い付いていない。
桐生亜衣「え、ちょ、ちょ、ちゃ、ちょっと!!何で倒したの?」
呂律があり得ないくらい回っておらず、それほどまでに錯乱していると我殺でさえ感じられた。
我殺狂助「あいつは誰かの奴隷で、情報を話さないよう命令されている。やつから何かを聞き出すことはまず無理だ。」
桐生亜衣「い、いやそうかもだけど。」
我殺狂助「こいつの数値は8。まぁ、そんなもんか。」
武召喚数値が増えていることを確認し、保田は間違いなく失格になったと確信を得る。
我殺狂助「これでお前の仮説の信憑性はかなり増した。とりあえず、まずは裏で糸を引いているスレイブリーを探さないとな。お前らはどうする?」
桐生亜衣「……え?」
荘重飯嶌「…え?」
急に問われたその質問に戸惑ずにはいられない。どうするかって?何がだよ。
我殺狂助「俺と行動するかどうかだ。俺のことを危険だと思うなら、それでもいい。」
荘重飯嶌「え、あの、、僕は見逃してもらえるんですかね…?」
恐る恐る桐生の背中にしがみつきながら質問してみる。
我殺狂助「お前が使い物にならない、もしくは既に奴隷にされている、俺は最初そのどっちかに当てはまると思っていたんだが、どうやら違うようだ。すまなかった。」
荘重が黒幕の奴隷と既になっているのなら、同じ奴隷であった保田と何らかの面識はあるだろうし、保田との戦闘の際、荘重は保田側に就いたはず。だが、そんな行動はなく、保田の言動からも荘重はシロであると証明された。使えないわけでもないことを自ら証明していたし。
そんなこんなで我殺に認められた荘重は若干照れつつも、目配せで桐生に判断を求めた。
【自分にはどっちが正しいか判断できません。】
そんな目で見つめられて桐生も内心迷っていた。そして僅かにムカついていた。
桐生亜衣(大前提、何か上から目線なのむかつく。)
そう思いながらも桐生は我殺の強さをこの数分間で身をもって知った。
桐生亜衣「わかった、またよろしくね。我殺くん。一応自己紹介しとこうか。」
我殺狂助「それもそうだな。俺の名前は|我殺狂助《がさいきょうすけ』。種性核はクラッシャーとロストイーブン。説明は不要だな?」
桐生亜衣「じゃあ次。桐生亜衣って言いまーす。種性核はクラッシャーと何か。よろしくねー。」
荘重飯嶌「えーと、節操は荘重飯嶌と言いまする。種性核はアンティワームをやらせてもらってます。」
桐生亜衣(その節操ってやつ、はまってるのかな?)
我殺狂助(節操…?)
両者、言葉は飲み込んだ。
それから一時間後、三人は旅館らしき存在へと足を運び、拠点をみつけたときのことだった。そしてその一時間を経験して三者同一の意見を述べた。
桐生・荘重・我殺「明らかにおかしい。」
三人は一時間歩き続けた。少なくとも5、6キロは歩いている。その道中に誰一人として遭遇しなかった。4820人もいるなかで。
桐生亜衣「会場は前回と同じにしか見えない。」
我殺狂助「つまり、参加者が増えてからといって範囲の拡張がされているわけではないを」
問題はどこにいるか。だが、そんなことわかるわけもなく、ただ思考と時間が消費されていくばかりだった。
荘重飯嶌「あ、あの!ちょっと気になってたんですけど。」
2、30秒してしびれをきらしたのか無理やり話題を転換する。
荘重飯嶌「我殺さん、その時計何ですか?」
荘重が指摘したのは我殺の右腕に装着されている腕時計。これは桐生や荘重も全参加者がつける時計。見た目に何ら違いはない。だが、荘重は我殺の時計に本能的に違和感を覚え、問うことにした。そして、その違和感は本物だったんだ。
我殺狂助「あぁ、そういえばいい忘れてたな。俺の時計、bのやつらと連絡取れるんだ。」
桐生・荘重「…は?」
教えるの遅ぇだろ!!と言いたくなる気持ちを一旦、封じ込め冷静に詳細を聞くことにした。
桐生亜衣「え?それって、メール的なもの?」
我殺狂助「いや、通話ができる。」
桐生亜衣(まじでもっと早く言ってよ。)
荘重飯嶌(多分それ、真っ先に伝えることだったでしょ。)
そんな二人の目線をよそに我殺は続けた。
我殺狂助「三時間前に伍代という五次からの参加者と連絡をとったんだが、何か【奇妙なことがあったらしい。】」
荘重がいるためか、多少伍代という男について紹介し、奇妙なことというのを話そうとする。
荘重飯嶌「奇妙なこと?」
我殺狂助「あぁ、正直その奇妙なことを俺らがどうこうできるわけじゃないが一応言っておくか。」
そして桐生は我殺の言葉を聞き、この八次の幸奪戦争の異質さをより、鮮明に感じさせられることとなった。
我殺狂助【なぜかbの場所に佐藤要がいるらしいんだ。】」
三時間前 極楽での最高刑務所通称クローズの最深部の地下牢にて。
花城如音「なぁ、ずっと気になっていたんだが俺の処遇はどうなるんだ?」
八次の幸奪戦争が開始が遅れた理由として、七次の失格者や花城如音という危険物質をどう対処するか、その議論が白熱していたためだったが。花城如音に対する結論は聞いた限り、出てきてない。極楽のやつらは何を考えているのだと心配になり始め問わずにはいられなかった。
伊敷季毎伽「それが特になにもいわれてないんだよな。あむっ。お前の武召喚数値は1つしかないから、武召喚はできない。かといって、生身の力でこのクローズを抜け出せるわけもない。そう考えたみたいだ。あむっ。」
唐揚げ弁当を椅子にまたがりながら摂取し、そのついでかのように説明している管理者ナンバー2の男がそこにはいた。
花城如音(まぁ、生身でお前には勝てないしな。)
一応筋が通った放任であったと一旦納得し、一眠りつこうかと考えていたそのときだった。伊敷季のズボンのポケットからバイブ音が鳴り響く。その振動に伊敷季は唐揚げ弁当を一度机の上に置き、携帯を手に取った。
伊敷季毎伽「葛西か、どうした?」
伊敷季が唯一心から信頼している管理者ナンバー7の男。彼の名前が挙げられ、花城も少し懐かしさを感じる。そして、携帯越しに葛西水引の声が聞こえる。伊敷季がスピーカーにしたのだろうか。だが、二人はその葛西の言葉に絶句させられた。
葛西水引「何のようだじゃないですよ!!何なんですか?僕今、地獄にいるんですけど!?」
伊敷季・花城「…ん?」
この男は何を言っているのだろう。地獄に行けとお願いし、葛西本人は了承した。どうして地獄にいるのか?お前が行ってやると言ったからだ。無論、そんな単純な話ではないのは周知であり、だからこそ花城も伊敷季も混乱を極めた。そんな中、伊敷季は1つだけあることを聞くことにした。
伊敷季毎伽「葛西、お前が自分で地獄に行くって言ったんだぞ?」
葛西水引「え?いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ!何で僕がそんなことするんですか?え、もしかして僕見捨てられた…?」
明らかに会話が成立していないこの現状に伊敷季も困惑の表情を隠せなくなってきた。
伊敷季毎伽「お前、、覚えてないのか?」
葛西水引「覚えてないもなにも僕は地獄に行くことはしてません。というわけで、【今から牟婁星さんと戻りますね。】」
伊敷季毎伽「牟婁星もいるのか、てことは佐藤要も?」
恐る恐る聞いてみる。この質問だけは自身の予想通りの返答を心から期待していた。
葛西水引「は?え、ちょっ、ほんとに何いっているんですか?疲れてます?【獄人を極楽に連れていくわけないじゃないですか。】」
この言葉に伊敷季も花城も言葉が出なかった。
間違いない。葛西水引は記憶が抜かれている。いや、佐藤要の監視の役割を怠っている時点で牟婁星でさえも。なんなら、佐藤要本人も自身が勝利し、極楽への移住を許されたことすら覚えていないのかもしれない。
この二人にそれを疑う余地は一切なく、突如として突きつけられたその現状に頭を悩ませるしかなかった。
伊敷季毎伽「最後にもう1つ質問がある。」
葛西水引「ん?はい、何ですか?」
どこまでの記憶が抜かれているのか分からない。だが、せめてこのことはまだ覚えておいてほしい。そう祈り、問う。
伊敷季毎伽「悪魔の件は、、どうなった?」
しかし、伊敷季のその祈りが成就することはなかった。
葛西水引「何ですか…?悪魔って…。」
ゲーム開始から十一時間
残り参加者4819人




