第2-11話 非合理
才原清一「…は?」
彼女の口から発せられて事実に、才原は思わず立ち上がり、期待と困惑の声がこぼれた
才原清一「兄ちゃんが、参加者…?」
坂縞雷火「これから話すのは、私が彼について知っていることの全て。質問は最後。私はそう長くないしね。」
才原清一(長くない…?)
老衰という概念は冥界にはない。なぜ、自分のを身を案じたような発言をしたのか、才原にはまだわからなかった。
坂縞雷火「第二次の幸奪戦争。彼と私は共に戦い、8日間を生き抜いた。私も彼も、極楽の生活を享受する権利を得られたの。」
才原清一 「じゃあ、兄ちゃんは極楽に…」
そんな期待の声をカットインし、女は続けた。
坂縞雷火「いいや、彼はその権利を放棄したの。」
才原清一「……は?」
坂縞雷火「彼は極楽には向かわず、地獄に残る決断をした。」
才原清一「!?」
もう我慢ならなくなったのか、彼女の首に右手を置いた。いつでも武召喚はできる、いつでもお前を消せると。そんな脅しに坂縞は一度言葉を紡ぎ、才原が荒く叫ぶ。
才原清一「いい加減にしやがれ!!俺をおちょくってんのか?そもそも俺の自慢の兄は地獄になんかいかねぇんだよ!!もし、地平線の彼方まで、何かの手違いで幸奪戦争に参加することがあっても、そんな訳の分からねえ行動を俺の兄がするわけねぇ。俺が一番分かってるんだ。軽々しく全てを語るとか言うんじゃねえ。」
坂縞雷火「…すまない、言葉が過ぎたようだ。本題に入ろう。君にこの世界を変えてほしいんだ。」
才原清一「…は?」
またまた意味不明なことを言っている坂縞の姿に才原も段々殺意に近い怒りが込み上げてきていた。
坂縞雷火「不思議に思わないか?なぜ、私たちのような何の反省もしていない罪を重ねたものが極楽で平然と生活できているのか。」
才原清一「……」
坂縞の提示した疑問は才原清一も考えたことだった。口ぶりから彼女はその答えを知っているようで、続きを求める。
坂縞雷火「このままなにもせず、過ごせば君は私と同じ存在するだけの屍になる。」
才原清一「どういうことだ?」
坂縞雷火「私がこんな無惨な状態になっているのは、楽人のせいなんだよ。」
才原清一「楽人?この極楽の住人が?」
坂縞雷火「花城如音に…会いに行け。」
才原清一「…は?」
それ以来、彼女からの返答はなかった。話すことができない状態と化したわけではないから、もう才原清一に対する用は済んだのだろう。忠告と自身のこれからを守るためのヒントを教えるために呼んだのだと理解した才原は桝田とともにアパートから出ることにした。桝田に車椅子を押してもらい、玄関のところまでたどり着き扉を開ける直前、才原は一つ質問した。
才原清一「なぁ、山禰。」
山禰一美「ん、なぁに?」
才原清一「あの坂縞雷火は、いつから精神が壊れた?」
山禰一美「大分前からだよ。かれこれ4年は経つね。」
才原清一(4年前からあんな精神状態になったのか。)
坂縞雷火、彼女の体には無数の傷が切り刻まれていた。刺し傷、切り傷、精神的な苦痛。
多分、全て楽人がやったのだろう。彼女の右腕にある時計、数値が1しかなかった。つまり、彼女に武召喚はできない。治癒を早めることも抵抗することもできない。補充してくれる味方もいない。そんな生活を何年も経験してたのだ。
才原清一もその姿をみて、さすがに同情し、今までの怒りも和らいだ。冷静に考え、彼女の言葉を思い出せるほどに。
才原清一(仮に、あの女の言葉が本当なら
兄ちゃんは監視者か管理者になっているということだぞ。なぜそんなことを?いや、まずは花城如音に聞いてみよう。)
そうして、才原と桝田は家を後にした。
幸奪戦争のメイン会場 現界と似た景色が広がるその場所に一人の女と一人の子分があった。
桐生亜衣「むーー。さすがにおかしいよね。」
荘重飯嶌「どうしたんですか?そんな深刻そうにして。」
顎に手をおき、うめきながら悩むその先輩の姿に後輩は若干引いていた。
桐生亜衣「ん?あぁなんでもないよ。」
荘重飯嶌(何でもないならもっとやべぇよ。)
桐生亜衣「とりあえず、移動しようか。拠点となる場所は見つけておきたいし。」
荘重飯嶌「確かに、それもそうですね。行きましょうか。」
あくまで、不審に思っている点については話さず、一人で考え込むことを選択する。彼はまだ信用に足る人物ではないから。
桐生亜衣(おかしい。前回の幸奪戦争と相違点が異質すぎる。)
前回の幸奪戦争はアンティワームを代表として、至るところで殺戮が繰り広げられていた。勝利条件も知らされず、殺すことに関する知識だけを植え込まれ、そのアンティワームの種性が時間経過による弱体化である以上、自己防衛のためにその行動に出るのは当然といえば当然だろう。しかし、今回は違う。前回の合理的な行動とはうってかわり、参加者の減りがあまりにも少ない。本来の勝利条件を考えれば決して悪手ではなく、むしろ最良に近いものだが、たった数時間でその最良に全アンティワームがたどり着けるわけがない。
桐生亜衣(何が関与している?まさか、、)
ここで桐生に一つの仮説が浮かぶ。だが、その仮説一つではこの状態に説明がつききらないとも同時に理解する。
桐生亜衣(少なくとも10人、いやそれ以上の数が関わっているはず。でもどうやって?)
そんなことを考えながら歩いて数分、桐生の体は急に前進を止めた。正確には何かにぶつかり体をこけてしまったのだ。
桐生亜衣「あいた!!すみません、、前見てなくて。」
視界に意識を向け、前を見つめた際に桐生の仮説に関係する人物が目の前に映り込んでいた。
我殺狂助「桐生…」
桐生亜衣「我殺くん…」
荘重飯嶌「えーと、、先輩。お知り合いですか?」
桐生亜衣「うん、えーと、この人は…」
そんな二人の会話に耳も傾けず、颯爽とどこかへ行こうとする。
桐生亜衣「ま、待って我殺くん。」
その言葉もと届かず、一人で歩き続けている。
桐生亜衣「今の現状てさ、、我殺くんが関係している?」
その言葉は届いたようでこちらに振り向きはしなかったものの、足は止められた。
荘重飯嶌「え?どういうことですか?」
桐生亜衣「彼は六次の参加者。私たちより先輩。」
我殺狂助「それで、なぜ俺が今の失格者の抑制状態に関与していると考える?」
桐生亜衣「まず、この幸奪戦争、勝利条件を知らなかったら、自己防衛のために殺し合いをすることを選ぶ。」
我殺狂助「そうだな。前回も前々回も十時間もあれば2割は失格になっていた。」
桐生亜衣「今、アンティワームが殺し合いを促進していないのは、誰かがこの幸奪戦争の罠を伝えたか、無理やり従わせたのかのどちらか。」
我殺狂助「無理やりというのは?」
桐生亜衣「スレイブリー。その種性核があれば可能なんじゃない?」
我殺狂助「……」
荘重飯嶌「えーと、つまり先輩はこの人の種性核がスレイブリーで、あらかじめアンティワームを奴隷にしたと?」
桐生亜衣「というよりかは、複数の犯行なんじゃないかな?」
荘重飯嶌「はい?」
桐生亜衣「我殺くんは今回で三回目。目覚める時間はほとんどアンティワームに近いところまで早くなっている。我殺くんは最初、2.3人を奴隷にして、その奴隷たちにまたゾンビみたいに奴隷を作らせた。」
我殺狂助「…惜しいな。」
桐生に感心した声を漏らしながら、推理を認めたようなことを言う。桐生の警戒心は増幅される。
我殺狂助「ファースト」
我殺の右手に剣が投影される。投影されるやいなや、我殺の狙いは一点に定められ、目にも止まらぬ早さでそれに向かう。
桐生亜衣「!? ファースト」
桐生も我殺の狙いを理解し、即座に武召喚を行う。桐生の右手に巨大な槍が投影される。
さしてその槍を荘重の前までもってくる。
荘重飯嶌「え?」
我殺の剣と桐生の槍がぶつかり、このときにようやく荘重は自分が狙われていたことに気づく。
桐生亜衣「どういうつもり?私ならまだしも、無害な初対面の人に敵意を向けるような人だっけ?」
我殺狂助「お前の推理は多少当たっていると思う。」
桐生亜衣「は?」
思うとかいう他人事のセリフに半ばイラつきながら、一文字の返答で説明を促す。
我殺狂助「今のこの現象のやり方自体はお前の推測通りだろう。ただそれをしたのは俺じゃない。」
桐生亜衣「じゃあ、この剣は何?」
我殺狂助「考えてもみろ。俺がしていないんだとしたら、誰がやっているんだ?坂縞とお前は目覚める時間は早いにしてもそれはゲーム開始すぐじゃない。」
失格者の選択肢が抹消され、桐生の脳に今度は新規の参加者が候補に上がる。だが、これもまたすぐに抹消される。新規の参加者はアンティワーム以外、武召喚や種性核を理解していない。ここで最後の選択肢が浮かび上がる。
桐生亜衣「まさか、監視者…?」
我殺狂助「そうだ。そして、監視者がなぜ俺たちを失格にさせまいと動く?四日後の先に【何かある】はずだ。」
その何かが四日後に行われ、その何かを行うのに利用するのが、この莫大な参加者であると我殺は予想したのだ。
桐生亜衣「つまり、、我殺くんは四日以内に参加者を失格にする、そういうことだね?」
我殺狂助「そうだ。邪魔をするならお前も消す。」
そうして、我殺の剣が桐生の槍が大きく弾く。桐生の手に槍が放された瞬間、我殺は桐生に横蹴りを入れ込み、桐生の全身は大きく吹き飛ばされる。
荘重飯嶌「てめぇぇ!!ファースト!!」
なぜか怒りに染まっているその男は右手に鎖が結び付いた鉄球が投影される。そしてその鉄球を我殺にめがけて投げつける。が、それはあっさりと回避され、鉄球に結び付いた鎖を引っ張られる。
荘重飯嶌「え、おお ぉぉぉぉ」
鎖を持っていた荘重もその引っ張られる力に全身が誘導され、気づけば我殺の目の前にまで動かせれていた。
荘重飯嶌(やばい、、やられる…)
そう覚悟して思わず目を閉じ、その時を無意識に待っていた。
「そこまでです。」
桐生でも我殺でもない謎の凛々しい声が聞こえてくる。我殺の剣は止まり、荘重の首根っこを掴み、人質をとるようなかたちでその謎の声の持ち主と面会する。
保田冷無「殺しはいけません。我々悪人はこれ以上罪を重ねてはならない。」
我殺狂助「誰だお前。」
保田冷無「私の名前は保田冷無。」
名乗りを終えた瞬間、気づけば我殺のすぐ横に保田はいた。
我殺狂助「!?」
慌てて、剣を保田に向けるも既に遅い。保田の何かの攻撃が我殺を吹き飛ばす。
荘重飯嶌「え?」
訳もわからず呆然としている荘重の肩にそっと手を置き、一言。
保田冷無「種性核はスレイブリー。以後お見知りおきを。」
ゲーム開始から十時間
残り参加者4820人




