第2-9話 探し
そこには何もなかった。ただ何もない砂漠のような、黒い荒野が延々と続くばかりの道。歩いても歩いても同じ光景。かれこれ何日、何週間、何ヵ月歩いたのだろう。誰にも覚えられていない、ただ意志かあるだけの魔物が人の足ではなく、黒く異形な足で。姿で、声で。かつて一人の人間であったものが薄れゆく人の意識の中を懸命に保とうともがき、歪な足跡を残していた。
魔物「ガ、、サ、、イ。」
花城如音「なぁ、伊敷季。悪魔ってなんだ?」
極楽の厳重な地下牢獄、その地下牢に今もなお、手足をくくりつけられている花城は自身の監視の役目を担っている伊敷季に雑談がてら質問してみた。
伊敷季毎伽「それをお前に教える理由はない。まぁ、その悪魔を倒すことが俺たちの目的ではある。」
律儀なのか、ツンデレなのか、ヒントは教えてくれた伊敷季に花城は内心ニヤニヤしていた。
花城如音「悪魔……これは独り言だが、俺の予想ではその悪魔とやらは七次の幸奪戦争が始まったときに初めて存在したものなんじゃないか?」
伊敷季毎伽「…お前やっはムカつく。」
丸で最初から知っていたかのような、口振りに伊敷季の顔は歪む。
花城如音「教えてもいいんじゃないか?同期のよしみだ。」
その言葉に渋々承諾したのか、椅子にかけて話し始めた。
伊敷季毎伽「悪魔という存在は本来生まれない。存在は消えても化け物にはならないのが、この冥界だからだ。」
本来生まれない、つまり、【イレギュラー】なことか起きてしまった。花城はそう考えながら伊敷季の言葉を真剣に、黙って聞く。
伊敷季毎伽「お前のいう通り、生まれたのは七次の幸奪戦争のとき。悪魔は人為的に生み出されてしまった。」
花城如音「人為的…?」
伊敷季毎伽「七次の幸奪戦争、六次までの幸奪戦争と比較して、一つだけ明らかにおかしかった。それは七次のときだけ、初期、間期、終期という分類が施されている点にある。」
花城如音「間期?終期?おい、、まさか…」
初めて聞くその単語に不理解を浮かべながらも、なぜそんな分け方がされているのか粗方見当がついてしまった。そして、何かを察した様子の花城に伊敷季は黙ってうなずき、こう述べた。
伊敷季毎伽「お前も【あのとき】気づいたよな。七次のとき、失格者の移送場所が六次までとは違っていたこと。初期と終期に倒されたやつはその新しい所へ移送された。なら、間期に倒されたやつは? もともと使われていた移送場所だ。そして、その移送場所では何が行われていると思う?」
花城如音「そこで、、悪魔が作られた。そういうことだな?」
伊敷季毎伽「あぁ、そして【二匹の悪魔が脱獄】している可能性がある。」
悪魔の正体は間期に倒された七次幸奪戦争の参加者だった。
榎宮愷「それ、、本当なの…?」
悪魔という新たな存在を聞かせれた榎宮、木崎、伍代、佐藤の4名は明らかに顔色を失っていた。
伍代翔地「何でわざわざそんなことを…?」
佐藤要「なぁ、それ、俺には事前に教えておくべきことだったんじゃない?俺、何も聞かせれていなかったんだけど?」
葛西水引「ご、ごめんなさい。ある人に勝利者を連れて地獄へ行けと頼まれて。」
何も聞かされず、ただ言われるがままに連れていかれた不憫な佐藤に獄人らは少し同情していた。だが、
牟婁星藍「謝る必要などないですよ、葛西さん。獄人に謝罪は不要。いや、禁句と言ってもいいかもしれません。」
ただ一人、管理者ナンバー4の牟婁星藍。彼女だけは違った。
伍代翔地「お前らはそんなに俺たちに情報というものを教えたくないのか?」
さすがに聞き捨てならなかったのか、丁寧な言葉遣いは棄て、明らかな怒りを帯びたその眼は今までの怒りや憎しみが込められていた。だが、その眼を向けられても尚、牟婁星は態度も顔色も変えず、淡々と続ける。
牟婁星藍「あなたたちに情報などという餌を与えては、何が起こるかわかったものではありません。」
伍代翔地「言ってくれるじゃ」
葛西水引「牟婁、謝罪しなさい。」
伍代の言葉を割り切り、謝罪をする価値がないと断言したその女に承知の上で謝罪を求める。
牟婁星藍「話聞いてましてか?私は…」
葛西水引「私たちはお願いをする立場にある。この悪魔探しという点においては、お互い対等な立場であるべきです。」
牟婁星藍「悪魔を見つけたいのは、葛西さんでしょう。そもそも私はナンバー4であなたはナンバー7。経歴が違うとはいえ、あなたは私に命令する権力はない。」
ナンバーの話に持ち出された瞬間、葛西の口元がわずかに緩んだ。かかったと言わんばかりの笑みを。
葛西水引「あぁそうですか。なら、伊敷季さんの命令ならいいんですね?」
牟婁星藍「!?」
ここでようやく、牟婁星も葛西が先ほど言っていた【ある人に頼まれて】という言葉を思いだし、そのある人が自分の上司であることに気づく。
牟婁星藍「はぁ、、そういうことですか。分かりました。私の負けです。」
佐藤要「えっとー、、今何がどうなっているの?」
完全に蚊帳の外である4人は目を点にしながら、二人の会話を聞いていた。
伍代翔地「そっちの目的が、行方不明になった悪魔を捕獲することなのは理解しました。それで、僕たちがそれを手伝う理由は?」
そう。この悪魔探し、獄人には何のメリットもない。悪魔の存在がどんな影響を及ぼすのかも分からない。そんな中で初めて会った憎い管理者の要求に応えるなど、誰がするものか。
伍代翔地「僕たちはまだ幸奪戦争の参加者なんですよ。ここから動くことはできない。そうなるよう仕向けたのもあなたたちのはずだ。そんな中、どう探せというんだ?あ?」
段々隠してきた怒りが表れ始めたが、それを止めるものは誰もいなかった。葛西はその目をただ見つめ、こう答える。
葛西水引「これは皆さんの身を守るためでめあります。」
木崎印「身を守る…だと?」
そろそろ木崎も黙っていられなくなったのか、かの金髪の青年も話に割り込み始める。
葛西水引「えぇ、七次のときに、悪魔が生まれた場所は六次まで使われていた失格者の移送先。そして、今回は【ここなんです。】」
榎宮愷「……え?」
葛西の言葉に伍代は最後の糸がポツンと切れた。
伍代翔地「…ファースト」
彼の右手に短剣が投影される。投影された瞬間、即座に葛西のもとへ飛びかかる。葛西はそれに反応しきれず、飛びかかられた伍代の体重に身体は床へと激突し、葛西の首に伍代の持つ短剣がわずかに当たる。
榎宮愷「やめろ!!伍代!」
伍代翔地「いい加減にしてくれませんか?茶番はいいんです。僕には何か別の目的があるようにしか見えないんですが?」
榎宮愷「何でいきなり、そんなこと…」
木崎印「いや、榎宮。考えてもみろ。突如として現れた管理者と七次の勝利者。開口一番に悪魔探しという謎の依頼。その悪魔についてわかっていることは、作られた場所と行方不明になった個体がいること、そしてその個体は極楽へ行った可能性があることの三点のみ。誰が作ったのか、どのようにして作られたのか、分からないはずなのに、こいつはこの場所が悪魔化する場所と言い出した。こいつの言っていることはめちゃくちゃで、全てがでまかせのように聞こえる。
ま、ただでさえ、地に落ちていた信用だ。このざまも俺は納得できる。」
伍代翔地「もう、こいつの話は聞くに値しない。でも、何か知っていることは確かだ。だから、力ずくで吐かせる。」
伍代翔地(僕の種性核で確かめたいですけど、万が一こいつもアナリストだったら、僕の情報もバレてしまう。拷問しかないか。)
そんなことを考えながら、短剣を突きは刺そうとしたとき、伍代の右腕の動きがなぜか止まった。それと同時に左腕も強制的に腕を肩の高さまで上げられ、脇を誰かの手が通される。それをしていたのは榎宮愷であるとすぐに気づく。抵抗と叫びをする時間も与えられず、榎宮は話し始めた。
榎宮愷「伍代、、いいのか?今ここで拷問、抹消する行為は俺と同じことだぞ?」
伍代翔地「…は?」
榎宮愷「君の仲間を失格にしたのは俺だ。木崎から記憶を返してもらったときにその記憶が含まれていてね。俺は君の仲間を拷問して即座に消した。その結果、君に恨まれ、木崎を敵に回し、かつて一緒に戦った仲間からもの信用を失った。君も俺と同じ末路を辿りたいの?」
伍代翔地「はっ!?」
榎宮愷「今はその剣を収めるべきだ。俺たちが戦うのはまだ先でいい。」
伍代にとって榎宮のその言葉の説得力は計り知れないものだろう。榎宮の忠告を素直に受け入れ、剣を手放し、葛西から離れた。
伍代翔地「すみません、話を戻してください。」
葛西水引「あ、はい。信じてもらえるかどうかは分からないですけど、僕が言ったことは全て本当です。なので、その前提で話を続けます。この場所が悪魔化に使われるというのは、神楽士郎の言葉です。彼が悪魔を作ったのかは知りませんが、関与はしていると思います。神楽士郎曰く、ある成分をこの場所に仕込んだから、それを起動させればすぐに人から悪魔へと移り変われるそうです。」
佐藤要「要は、この場所に悪魔になるための装置みたいなのがあるんだな。」
葛西水引「はい、なので皆さんにはその装置を見つけてもらいたいんです。」
牟婁星藍「私たちを読んだ理由は何ですか?」
葛西水引「二人にはこれから私と共に行動してもらいます。構いませんね?」
佐藤要「別にいいけど、、俺がここに来た意味…?」
葛西水引「伍代さん、あなたの意見はもっともだと思います。私に話せることは限られているので、信用は得られないでしょう。
ですが、どうかお願いします。私たちと一時的にでも、協力してもらえないでしょうか?」
そう深々と頭を下げるその男に伍代は困惑するしかなかった。
伍代翔地(僕は一体、どうしたらいいんだ?)
木崎印「一つだけ条件がある。」
伍代ではなく、まさかの木崎が条件提示を行う。伍代も少し驚き、全員が木崎に注目する。
葛西水引「え、はい。私にできることなら。」
その言葉を聞き、木崎は白衣をまとった女性を指差し、一言。
木崎印「この女、置いていけ。」
牟婁星藍「………は?」
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