第2-8話 渇望
桐生が目覚め、アンティワームの荘重と話すこと小一時間。荘重は状況の把握と幸奪戦争のシステムを粗方理解する。
荘重飯嶌「えっとー、整理すると、幸奪戦争に勝利すれば極楽に行ける。その条件は前回、前々回の例から考えると8日間残ること。逆に敗北となるのは、二回殺されること。敗北となった場合、その存在が消される。」
桐生亜衣「うん。前回は8日間残った二人は極楽に行くことができた。前々回の参加者から話を聞いたけど、そのときの勝利条件も同じだった。」
荘重飯嶌「先輩、8日間残ればいいのは分かったんですけど、二つほど疑問がありまして?」
実年齢でいえば、明らかにパーマ男が年上だろうが、そのツッコミを心の中にしまいこんで置き、彼の続ける疑問に耳を傾ける。
荘重飯嶌「一つ目は、何で最初、アンティワームの数を聞いたんですか?」
桐生亜衣「あーそれか。幸奪戦争には8つの種性核があるのは知ってるよね。」
荘重飯嶌「えぇ、それは最初に知らされました。」
桐生亜衣「アンティワームの種性はなんだった?」
そんな質問をアンティワーム本人に質問する。桐生もあらかたアンティワームの種性について知ってはいるが、全ては知らない。荘重の疑問に対する話の展開ついでにアンティワームの全貌を明かそうという意図を交えて問いを投げた。
荘重飯嶌「えっとー、アンティワームはゲーム開始と同時に目覚めることができて、アンティワームにのみ種性核や武召喚のことを教えられる。あとは、、アンティワームは時間がたつごとに弱体化する…あ!!」
話している途中に桐生がアンティワームについて危惧している理由を察したのか、思わず声を張り上げた。そして再び桐生の説明ターンに戻る。
桐生亜衣「気づいた?この幸奪戦争、最初はアンティワームがすごい有利に見えるの。武召喚も種性核もアンティワームしか知らないから、アンティワームが襲ってきたとき、他の参加者は丸腰。勝ち目は圧倒的に薄い。勝利条件は伝えられていないけど、人を傷つける方法については教えられたから、それが勝利に繋がると思い込んでしまう。だから、アンティワームのみんなは時間が経たたないうちに他の種性核者を消そうとするの。」
荘重飯嶌「確かに、俺も最初は先輩を見た瞬間に襲おうとしてました。」
そんな荘重にたいし、桐生は呆れ気味に薄目で見つめる。
桐生亜衣「ていうか、君もアンティワームだよね。考えなくても分かってたことだよ?何なの?喧嘩売ってるの?」
荘重飯嶌「い、いやーすみません。いわれてみればそうでしたねー、そ、それより!これから俺たちどうすればいいんです?アンティワーム探すにしても範囲が広すぎません?」
慌てて話題を無理やり切り替え、この8日間をどうするかを尋ねている荘重の言葉を軽く耳にとめ、桐生は時計を眺めていた。
桐生亜衣「うーん、どうしよっかなー。」
荘重飯嶌「前回と同じ行動をとってみるのはどうですか?アンティワームの僕がいますし、前回よりも動きは楽だと思いますよ。」
桐生亜衣「ん?いや、そうじゃないの。この幸奪戦争、前回より参加者が5倍くらいあるんだけどさ、、」
荘重飯嶌「それがどうかしました?」
桐生亜衣「幸奪戦争が始まって六時間、その時間があれば、500人は失格になっているはずなの。」
しかし、現実はそうではない。アンティワームが目覚めて六時間、荘重を除く49人には殺戮の意思しかないだろう。そして、アンティワーム以外の参加者もアンティワームや他のやつらに傷つけられる可能性があるという恐怖、その恐怖により「やられるよりやる側に立つ」という自己防衛の本能が芽生え、争いはどんどん促進されていく。本来であれば、桐生の推測の通り、500人、いやそれ以上の数が失格になっていたはずだ。だが、、
桐生亜衣「残り参加者が4820人、180人だけ。明らかに少ない…」
この失格者の少なさが桐生の脳に深く違和感として結びつかれていた。
桐生と荘重がそんな会話をしているなか、ある男は二人の後輩?を引き連れてあるホテルへと向かっていた。そのホテルはある男にとって、とても印象深い、忘れもしない場所だった。
坂縞樹「リアータホテル…どうやら会場は前回と同じみたいだな。」
メガネをかけているかの青年は、ホテルの変わっていない惨状を目にし、確信を持つ。前回の戦いと全く変わっていない内装に少し笑いがこぼれるほどだった。
喜村牟礼「坂縞さん!急に俺たちを連れ出してどうしたんですか?というかここどこなんですか?」
迦楼羅雅「落ち着け喜村、訳が分からないの
は同感だが、冷静さを欠いていてはもう救いようがない。」
坂縞についていったこの二人の名前はそれぞれ喜村牟礼と迦楼羅雅。二人とも桐生と坂縞と同じ職場に配属されており、よく桐生と坂縞に助けられている。坂縞はこの二人が幸奪戦争に参加していることに、二時間前に直接会ったことで気づき、強制的に行動を共にさせた。
坂縞樹「その前にお前らに一つ聞いておきたい。お前らはどうやってこの戦争に参加した?」
坂縞樹(俺も桐生も同じ職場のやつらに招待状が渡されることは危惧していた。だから、ある程度人数を絞って確かめた。こいつらもその絞った人数のうち。なのになぜだ?誰が招待したというんだ?)
喜村牟礼「いや、あのー、分かんないす。」
坂縞樹「…は?」
喜村牟礼「そのー、俺たちその案内人に無理やり連れていかれたので、そのこうだつせんそう?てのは微塵も知らないです。」
迦楼羅雅「私も喜村と同じく。」
二人の言葉に坂縞は絶句した。前回、前々回と明らかに違った参加者の集め方、あまりに多い参加者の人数。目覚めてから感じていた違和感や不穏感は次第に恐怖と謎へと変貌していく。
坂縞樹「その案内人って誰か分かるか?」
喜村牟礼「えー?誰だっけ?何か名乗ってはいたけど…覚えてないっす。」
迦楼羅雅「全く、お前ってやつは。どこまで頭が飽和しているんだ?私は覚えていますよ。確かその案内人は女性だったはずです。名前は、、心音表魅と言ったはずです。」
坂縞樹「…そうか。」
坂縞はその人物に心当たりと因縁があるが、わざわざそれを説明する必要はないと判断し、それ以上心音表魅という人物について触れることはなかった。
坂縞樹「とりあえず、生活できるものがあるかどうか、それだけは見ておこう。」
餓死や老衰などの自然死はないにせよ、睡眠を怠れば、眠気は襲ってくる、酒を飲みすぎれば二日酔いは必然的。そういう日常的に起こり得るちょっとした苦痛は現界と同じように感じられる。その苦痛を回避するため、三人はベッドや飲食物、明かりになるものを探し始めた。そして五分後、彼らに大きな出来事が起こり始める。
喜村牟礼「けほっ、けほっ、何ここ、埃すごすぎるでしょ。」
ホテルの倉庫の古びた扉を開け、誰も使われていなかったであろう、埃まみれの寝具やアメニティなどの消耗品が置かれている。
喜村牟礼「使えるもんはなさそうだな…」
そうぼやき、倉庫の扉へ向かおうと振り返ったときだった。喜村の背後にドタドタドタドタと走るような足音が聞こえてくる。喜村が疑問に思い、振り向き直した直後、次はバタン!!という大きな音がした。喜村の目の前には一人の少女がうつ伏せで倒れている。さっきの足音も大きな音もこの少女から生じた音だろう。
白崎糊塗「うーー、いたーい。」
倉庫の棚に足をぶつけて盛大にこけたらしいその少女を喜村は無言で見つめるしかなかった。
喜村牟礼(よし、閉めよう。)
白崎糊塗「あーー!!待ってまってまって、お願い、置いてかないでーー!!」
扉に手をかけた瞬間に、泣き叫ぶような勢いた駄々の強さでそう呼び止められる。喜村は仕方なく、会話してやることにした。少女のもとへしゃがみこむ。
喜村牟礼「お嬢ちゃん。名前は?」
白崎糊塗「白崎糊塗。年齢は19。このきったない場所で目覚めたんだけど、何なのここ?」
喜村牟礼「俺もよくわかってないんだよな。幸奪戦争?ていう存在を奪い合うデスゲームってうちの先輩が言っているけど、いまいち恐怖や危機感がわかねぇ。」
白崎糊塗「幸奪戦争?あー、なんか聞いたことあるかも。」
喜村牟礼「え、そうなの?お前、経験者?」
白崎糊塗「んなわけないじゃん!!そういえば、数ヵ月前にそんな単語を言っている先輩がいたんだよね。もう名前とか顔を覚えてないし、しばらく会ってないけど。」
喜村牟礼「しばらく会ってない…?」
白崎のその言葉に喜村は違和感を覚える。労働から逃げることもできない、冥界では擦り傷を作ることさえ困難な場所。そんな場所でしばらく会っていないというのはさすがにおかしかった。
白崎糊塗「んー、最後にその先輩と会ったときに、【私はある人を助けに行きます。だからあなたと会うのはこれで最後かもしれません。】って言われて、それ以来見てないの。いなくなった最初の五日辺りはずっと気になってたし、たぶん覚えてたんだけど、二週間くらいしたら名前も顔もわかんなくなっちゃって。」
喜村の脳内に一つの推測が浮かび上がる。その白崎の先輩は、前回の幸奪戦争に参加し、敗北した。そして存在を消されたのではないかと。
喜村牟礼(もしかして、今俺が巻き込まれてるのって、相当やばいものなんじゃ…?)
少しずつ恐怖が浮かび上がり、増幅される。そして、もっと情報が欲しいと彼女の言葉に続きを求める。
喜村牟礼「他には!!何か言ってなかったか?」
喜村牟礼(その先輩が幸奪戦争に参加してたなら、こいつの言葉が生き残る上で重要な鍵になるはず。)
そんな期待を膨らませ、真剣な眼差しで訪ねる。白崎もそれを感じ取ったのか、思い出すことに集中し始める。目を閉じ、う~んという呻き声に近いものを発しながら、過去を振り返る。
白崎糊塗「う~~~~~ん、、あ!!何か誰かの名前?言ってた気がする。」
喜村牟礼「な、名前?」
白崎糊塗「そうそう。助けに行きたい人の名前!確か~~【我殺狂助。そう言っていたはず。」
ゲーム開始から六時間
残り参加者4820人




