第2-6話 忘却の返還
伍代翔地「消えろ。」
伍代がそう呟いた瞬間、榎宮の全身は吹き飛ばされた。吹き飛ばされた全身は壁に強く打ち付けられ、その痛みに悶える。打ち付けられ壁にはヒビが入り、自身の体の骨もまた何本かやられたように感じた。このときにようやく、榎宮は自身の体が伍代によって蹴り飛ばされたのだと分かった。そんな中、彼は一歩一歩殺意を近づけていく。
伍代翔地「お前があの人を失格にしたことは知っている。」
榎宮愷「あの人…」
伍代翔地「仮定の話にはなるが、お前が失格にしなければ、あの人は残りはしなくても有益な情報を掴めたかもしれない。それをお前は台無しにした。」
パート(失格にしたってことは、俺が消したやつのことだろうな。)
榎宮愷(じゃあこの人は何だよ。)
パート(さぁ?お友達とかじゃねえの?)
伍代翔地「お前は消えろ。」
自身の人格の心の会話をしている暇もなく、こちらへ走り迫ってくる。慌てて立ち上がり、もう目の前まできていた伍代から繰り出される右足の蹴りをすんでのところで回避する。その右足は柱へと激突し、その柱は形を失っていく。
榎宮愷(柱を壊すほどの力…)
伍代翔地「ファースト」
絶句する暇もなく、伍代の攻撃は続いていく。伍代の右手にギザギザした刃の短剣が投影される。その刃が榎宮の顔に接近する。刺される直前に顔を避けるが、伍代は避けられることを想定していたのか、すぐに短剣の軌道を変え、榎宮の首へと狙いを定める。
榎宮愷「ぐっ、、!!」
伍代の剣は榎宮の首に浅く刺さった。それと同時に榎宮は伍代の右腕を掴み、これ以上傷が深まらないよう制止させる。榎宮の表現は焦りと恐怖で埋め尽くされていた。
榎宮愷(やばい!!やられる!)
伍代翔地「不意打ちで倒したのか?木崎さんでももう少しやりがいがあった。」
榎宮愷「き、木崎?」
木崎印「榎宮、弁明があるならさっさと言っておいて方がいい。」
そういいポケットに手を突っ込みながら、こちらへ向かってきた。
伍代翔地「弁明ねぇー。木崎さん、そんなのあるんですか?」
榎宮ではなく、木崎にそう尋ねた。口調も榎宮に対する言葉遣いとは明らかに違う。
木崎印「榎宮について少しだけ調べたのはこの前教えたろ。」
伍代翔地「ええ、確か別の人格が紛れているみたいですね。」
木崎印「お前の仲間を消したのはその人格だ。今のそいつとは関係ない。」
伍代翔地「同じ肉体だ。そして次いつその人格が現れるか分からない。仮にその人格を封じ込めることができたとしても彼を残しておくメリットはない。」
木崎印「そうだな。榎宮、俺らがお前を攻撃する理由はわかったろ。それでも何かあるなら自分の口で説明しろ。ないなら消えろ。」
どうやら木崎も味方ではなかったらしい。ただ自分に襲われる理由の説明をせめてもの情けでされただけ。木崎に請うても意味はないだろう。
パート(おい、変われ。)
自身の精神から謎の命令を出された。
榎宮愷(え、はぁ?)
パート(許可の依頼ではない。命令だ。)
その瞬間、自身の体の中で引きずり出されるような感覚がした。
伍代翔地(様子がおかしい。急に力がなくなり、顔も伏せ出した。)
戸惑いの中、その男はまた目覚めた。
パート「よう。お前らが会いたがっているから、きてやったよ。」
伍代の右手を制止させていた手からはまた力が込められる。さっきの何倍かの強さで。
伍代翔地「!?」
パート「邪魔くせぇな。」
浅く刺さったその剣を引っこ抜き、伍代に一発蹴りをかます。蹴られた衝撃で伍代は足と地面の摩擦を起こしながら強制的に後退させられる。
木崎印「人格が変わった。」
パート「普段は大人しくしてるけど、指定されたときには現れるんだよ。」
伍代翔地「指定?私の仲間のときもか?」
パート「あれは偶然だな。たまたま、あいつが1人でいたからチャンスだと思ってやっただけ。もともとあいつが監視者ていうのは分かってたし。」
伍代翔地(それが人格の変わる条件か?なら、こいつは監視者に何か因縁がある…?)
刺された首の傷口に手を当てながら、気だるそうに話すその男はやはりさっきの榎宮愷とは別物だった。
パート「俺が出てきたのはお前らのお仲間さん消したときくらいだな。それじゃ、ファースト」
パートの右手にも剣が投影される。
伍代翔地「木崎さん、私が指示するまで自分のことだけ考えていてください。いずれ、あなたを使います。」
木崎印「了解した。」
そうして、榎宮と伍代の戦闘が開始された。パートの剣と伍代の剣がぶつかり合う。パートは最初に伍代を消耗させることだけを考え、剣を大きく振るうことを重点とした。腹部、頭、足、深く切られれば消滅は免れない箇所を勢いよく、可能な限り早く斬ろうとする。伍代は下手に反撃しようとせず、一打一打の度に一歩ずつ後ろへ下がりながら自身の持つ右手の剣でパートの攻撃をいなしていた。これでは相手の思うつぼだと気づいたパートは攻撃の仕方を変更する。
パート「セカンド」
武召喚数値を左足に2つ割り当てる。
セカンドと叫んだ瞬間、パートは自身の左足を伍代の顔面に向けて蹴りあげる。
榎宮愷(何だよここ。)
カイリ(どこと言われても、君の心のなかとしか言えないよ。)
自分らしい少年が体育座りでそうぼやく。
榎宮愷(パートって、俺とは強さが結構違うもんなの?)
カイリ(彼はロストイーブンの種性によって失われた記憶の具象化的存在。彼の人格は君が幸奪戦争に参加する前は君が持ってた。)
榎宮愷(なら強くないんじゃないか?いつあいつが現れたのか知らないけど。)
カイリ(彼の人格が生まれたのは地下鉄での戦闘を終えたときだね。)
榎宮愷(地下鉄の前って、、俺確かそのとき鉄パイプ持ったやつにボコボコにされたぞ。勝てないんじゃないか?)
カイリ(君よりかは強いと思うよ。地下鉄のときは君という不必要な要素が混じっていた。そういう面では、今の彼が一番勝機かまある。もっとも、、)
パート「ちっ!!くそが、」
伍代の顔面目掛けて蹴りあげたその左足は伍代の右手の中で制止される。
伍代翔地「この程度なのか?」
伍代の右手の握る力が強まっていく。右手の中にあるパートの左足は徐々にその力に圧迫される。
パート「うぁぁあ!!うっ、、ぐぅ、」
左足を掴まれ、身動きが取りづらい。そんなこともお構いなしに伍代の握力は強まる。
パート「ぐ、ぅ、う、あ、ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
伍代の右手の形は完全にグーの形へとなった。パートはその痛みに悶え叫びながら、立つことを忘れ、仰向けに倒れる。
パート(手に武召喚はしていない。それで、この力…?)
左足を握り潰されたパートに逃げることも行動も戦うこともできなくなり、自身の肘を使って、少しずつ後退りしていくしかなかった。
カイリ(僕も勝てるとは思っていない。あの男は見た感じ、我殺狂助よりも強い。)
パート「くっ、あ、あ、」
伍代翔地「くどい。」
パート「ぁぁぁぁあ!!!!」
パートの右足に伍代の短剣が床まで貫かれ、完全に動けなくなる。
伍代翔地「木崎さん。彼に触れてください。こいつが持っている情報は全て抜き取りましょう。」
木崎印「アナリストの解析にも一応制限があるんだが?」
伍代翔地「種性核に対して武召喚をすれば、その種性の質を高めることができます。これをする、しないで天地以上の差がある。」
木崎印「分かった。」
木崎印「ツインサモン」
二つの武召喚数値を種性核に割り当てる。そして、木崎の右手はパートの額へと触れられる。一応パートも足掻きはしていたが、片足を失い、もう片方が拘束されている状態のため、容易に触れられた。そしてまた、木崎の脳内に多くの深い情報が流れ込んでくる。
カイリ(僕のことも調べられるな。)
榎宮愷(え?)
木崎印(またここか。)
榎宮愷(!?)
榎宮愷は精神世界に木崎印が侵入していることに驚きを隠せなかった。
木崎印(確かに、この前よりはもっと詳しく調べられそうだ。)
榎宮愷(なぁ、あまり関わりがないから、適当なことは言えないが、お前そんな人間だったか?)
わずかではあったが、木崎の顔が曇る。
木崎印(…というと?)
榎宮愷(なんかお前、生き生きしさがなくなっているんだよ。初めて会ったときよりも。)
木崎印(当たり前だろ!!俺の仲間はもう誰にも覚えられない消し炭になったんだぞ!)
唐突な叫び。だが、それが本心であり、伍代と手を組んだ理由なのだろうと感じた。
木崎印(俺だって人の人生を歪めてきた。自分の悲しいという感情に文句は言えねぇよ。でも、もういやなんだ…誰かを忘れたくない。失うことの辛さを、思う存分知ったから…)
榎宮愷
木崎印(悪い、お前にいってもしょうがない話だったな。そこの少年。お前から情報をもらう。)
カイリ(…知らないよ。)
そうして、木崎はカイリの情報を抜き取り始める。
榎宮愷(カイリは確か、俺の現界のときの記憶だよな。抜き取れるのか?)
木崎印(この前より時間がかかりそうだ。パートのときとは訳が違うんだろう。)
そしてようやく、木崎の脳内に映像が流れ始める。
榎宮優「愷!!早くこっちこいって!!」
榎宮愷「え、あ、う、うん!!」
小学校低学年か。二人の少年が学校のグラウンドでサッカーをしている。一回り大きい少年の周りには人が集まっている。そして、その少年のことをお兄ちゃんと呼ぶものがいた。
榎宮愷「お兄ちゃん!すごい!また100点じゃん!!」
場面は変わり、今度は学校の教室。担任の教師から国語のテストが返されている。
榎宮優「愷も80点って、めちゃくちゃ頑張っただろ。先生もめちゃくちゃ褒めてたし。」
この二人は同じ学年で同じクラス。つまり、双子らしい。
榎宮愷「う、うん。でも、お母さんが褒めてくれるかな…?」
また場面が変わる。今度は昼。給食の時間だ。小学生が銀色のお盆の上にのせられたパンやスープ、簡単なおかずや牛乳を各々自由に食している。
榎宮愷「う、う、ぅぅ…」
榎宮優「愷?大丈夫か!?」
そんな中、一人の少年は苦しみだし、隣の席にいた兄がすぐに心配し駆け寄った。それに呼応するように、担任の教師や近くの生徒も近づいてくる。
さらに場面が変わる。学校の保健室だろうか?ベッドで休んでいるその少年と教師の二人だけが部屋にいる。そして保健室の扉から私服を着た一人の女性が息を荒くして入室してきた。
榎宮愷「あ、お母さん…」
母親は榎宮愷に早歩きで近寄るや否や、息子のほほを思いっきりひっぱたいた。
榎宮愷「…え?」
訳もわからず、ただ困惑し怯えた声を発する榎宮愷。叩くのはやりすぎだと注意する保健室の教師。だが、母親にはそんなことに聞く耳を持たなかった。
木崎印(!?)
続きを見たかったが、この少年を調べ切るにはまだ足りないらしい。仕方なく調べる対象をパートに切り替えた。
木崎印の脳内にまた情報が流れてくる。
木崎印(……は?)
木崎に流れてくる情報はあまりに断片的なものだった。
木崎印(榎宮愷、これはどういうことだ?)
榎宮愷(…え?何が?)
木崎印(いいだろう、見せてやる。)
そして木崎の右手が榎宮愷の額に触れられる。榎宮の脳内にある記憶が流れ込んできた。
榎宮愷「明日の正午にホテルに集合。才原とは午前中に会う約束していたから、問題はないな。よし、寝るか。」
榎宮愷(…え?どういうことだ?)
場面は切り替わる。翌朝、自分は家を出てある場所へ向かった。正確には見覚えのない、過去の自分が持ってる才原からの手紙に書かれていた場所へ。その場所に才原祐一がいた。
榎宮愷「才原!どうしたんだ?昨日の労働終わりに手紙寄越して、こんな場所連れてきて。」
才原祐一「先輩、いや、榎宮愷。あなたにお願いがあるんです。」
榎宮愷「お願い…?」
才原祐一「それじゃ、頼んだ。」
榎宮愷「あぁ、任せろ。」
当然、榎宮の記憶にはない。
榎宮愷(なんだこれ…?俺は幸奪戦争が始まる直前、才原祐一に会っていた…?」
木崎に映し出された記憶から帰還し、頭を抱え困惑する。
木崎印「お願いの内容だけいくら調べても出てこないんだよ。なぁ、榎宮愷。【才原祐一】って何なんだ?」
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