第2-5話 aとb
この作品は全三章で構成するつもりです。また、私は意図せず、この作品のタイトルをこの小説家になろうに投稿されているものと全く同じのものに設定してしまいましたが、ご本人の作者様から使用の許可を頂いています。作品を読む際、どうか間違えないようにお気をつけ下さい。
第八次幸奪戦争が始まる五日前のことだった。極楽にある管理者センター、そこはいわば、管理者の職場だ。監視者の職場よりも清潔で洗練されている。そのセンターは高層ビルで最上階にある代表室に一人の男が苛立ちの早歩きで向かっていた。そしてその男を止めようと必死に説得しようとする男もまた一人。
葛西水引「本気ですか?もう今さらやめることはできないですよ。」
伊敷季毎伽「知るか!あの提案を採用されたのが心底気に入らねぇ!」
葛西水引「ちょ、待ってくださいって。」
何とか思い止まらせようとする葛西の抵抗も虚しく、伊敷季の早歩きのスピードについていけず、足を崩し、置いていかれた。伊敷季の歩は緩むことなく真っ直ぐ進んで行く。そして一つの扉をノックもせずに入室する。
伊敷季毎伽「おい、榎宮!」
扉の先には黒い高価な机に両ひじをつき、手を絡ませた状態で椅子に座る管理者ナンバー1の男がいた。
榎宮優「伊敷季くん、ノックくらいしたらどうだ?」
伊敷季毎伽「御託はいい。何で急に八次の幸奪戦争が始まった?」
当然、そんな問いは知っている。その見せかけの問いの理由は神楽士郎が出した提案により、いささか不安な所を残しつつも、ひとまず議論が終結したからだ。その問いをかけた理由は二つ。一つは葛西を守るため。葛西はあの議論にいた桝田小春と接触し、議論の内容を知った。あの議論は極楽の中でのトップの人間だけが知ることのできる内密的な内容。葛西が伊敷季に情報を送った行為は盗聴と同義であり、それがバレた場合、重罪と裁かれる。二つ目は榎宮優に対する揺さぶり。もし、榎宮優がホラを吹き、神楽士郎のことを話に持ち掛けなかった場合、伊敷季は戦闘さえ頭に入れている。管理者ナンバー1として、極楽のことを考え、善人が救われるための決断であると、そう答えるか否やの確認だった。榎宮優を睨みつけ、返答を静かに待つ。榎宮は机に置かれているコーヒーが入れられた白いカップを一口飲み、こう答えた。
榎宮優「七次の参加者の処遇が決まった。それだけだよ。」
伊敷季毎伽「それはどんな結論になったんだ?」
榎宮優「極楽人の悪いようにはしない。安心したまえ。」
伊敷季毎伽「そんな曖昧な答えで俺が納得するとでも?」
榎宮優「納得してもらう必要はない。この極楽の代表である黒田様も石井様も承諾したんだ。」
椅子から立ち上がり、手を後ろへ組み、伊敷季に背を向ける。
伊敷季毎伽「極楽の代表でさえ、承諾した結論なら俺や極楽人にも教えても差し支えないはずだ。」
榎宮優「君らには教える価値がない。教えても、その無能な頭でピーピー喚くだけだ。」
伊敷季毎伽「てめぇ!!」
榎宮優「ほら、今の態度がその証明じゃないか。」
伊敷季毎伽「うっ、、」
ピーピー喚くだけの人種、すぐに感情的になる、それを今の態度で示してしまったことに気づき何も言い返せなくなる。
榎宮優「気が済んだろ?もう出たまえ。君がどれだけ抗議しようと幸奪戦争はもう始まる。」
伊敷季毎伽「……」
榎宮優「あぁ、それと、君には花城如音の監視に回ってもらう。彼には幸奪戦争には参加せず、地下牢で大人しくしてもらうことになった。当然、拒否権はない。」
伊敷季毎伽「ちっ、、」
伊敷季毎伽(俺に自由に動き回せる気はないってことだ。くそがよ。)
無意識に怒りを全身で表現しながら、入室したときと同じ早さで部屋から出る。扉は勢いよく開かれ、扉の前に待機していた葛西は思わずびくっと震えている。勢いよく開いたドアはこれまた勢いよくビックリマークが三つほどつきそうなほどに爆音を奏で、閉じられる。
伊敷季毎伽「葛西、今後お前に面倒をかけるかもしれないが、どうか頼まれてくれ。」
葛西水引「何回優さんと喧嘩するんですか。こちとら毎度毎度ビクついているんですよ?」
伊敷季毎伽「それは…悪いとは思っているよ…」
葛西水引「はぁ、仕方ないですね。頼まれてあげますよ。その代わり、天使飯1ヶ月奢り
です。」
伊敷季毎伽「フッ、、10年くらい奢ってやる。」
自分をここまで慕ってくれている、信用されている、後輩の存在に改めて気づき、思わず笑みがこぼれる。
葛西水引「それで、まず何したらいいんですか?」
伊敷季はその後輩のことを信じて自身の考える計画の全貌を明かそうと決めた。
伊敷季毎伽「お前には、七次の勝利者に会ってもらいたい。」
それから数日後、ついにその日がやってきた。地獄にいる失格者たちは召集の場所に向かい、運営の動きを待つ。召集の場には、合計5人の失格者が集っていた。そして今、最後の一人がその場にたどり着く。
榎宮愷「えっとー、ここでいいん、だよね?」
桐生亜衣「あ!愷くん。久しぶり~!」
黒髪のボブ。自分を気にかけてくれる見知った女性が笑顔でこちらに駆け寄ってくる。
辺りを見渡すと、どうやら失格者は全員揃っているようだった。坂縞樹に、木崎印、第五次からの参加者らしい伍代という人に、自分が一番気がひける相手もいた。
榎宮愷「我殺…」
我殺狂助はこちらを見ようともせず、ただ壁にもたれかかり腕を組んで遠くを眺めているだけだった。彼に話しかけようと一歩踏み出した瞬間、聞き覚えのある嫌な音声がこの場所を包んだ。
???「皆様、お揃いですね。それでは第八次幸奪戦争を始める準備を行います。」
放送越しに流れるその音声は相も変わらず無機質で、機械が音を出していた。その音に全員がスピーカーに注目する。その注目の目は様々だった。睨み付けるもの、怯えるもの、先を見据えた目をしているもの、それぞれが自身の感情を無意識にスピーカーにぶつけていた。
???「それでは皆様、まずは机に置かれている6枚のカードから1枚ずつ引いて下さい。」
6人の意識はスピーカーから机に置かれたカードへと移動する。集合場所のちょうど中央に置かれたその机には同じ面をしたカードが6枚一列に並べられている。
6人の失格者たちはゆっくりとそこへ近づき、カードを引くことができる距離にまでゆく。
全員が恐る恐る無作為にカードを1枚ひき、その伏せられていたカードの面をひっくり返す。
榎宮愷「なんだこれ?」
榎宮の引いたカードにはbと記されていた。
桐生亜衣「何これ?a?」
坂縞樹「俺もaだな。」
どうやら同じカードの人もいれば、違うカードの人もいるらしい。その程度の簡単な情報なら榎宮にも察することができた。
???「カードの面にaと書かれていたものは前へ。」
その指示に、桐生と坂縞が三歩ほど前へ歩き出す。その二人から少し遅れて我殺狂助も前へ歩き出した。aのメンバーは桐生、坂縞、我殺の三人らしい。となるとbは木崎、伍代、榎宮ということになるが。
桐生亜衣「この三人か…」
桐生は少し気まずそうな、不服そうな、不安がった苦い顔を浮かべていた。
榎宮愷(全面的に俺が悪いけど、我殺と気まずくなるもんな。)
そんなことを考え、心の中で桐生に謝罪していた。桐生亜衣が危惧していることとは全く別の問題であると気づかずに。
???「aを引いた皆様には、今から第八次幸奪戦争に参加していただきます。」
どうやらaを引いたものは、自分等が経験したようなバトルロワイアル形式の戦争で戦うらしい。
我殺狂助「2連続aか。…まぁいい。」
我殺は愚痴とも取れるような独り言を溢し、一瞬だけ榎宮愷の方へ目を向けまたそらした。
???「続いてbを引いた皆様、あなた方はしばらく待機となります。本格的なゲームが始まるのは四日後。それまではここに来る失格者たちと仲良くするなり、親睦を深め合っていて下さい。」
bのやつらはしばらく待機と、ただ何もできない無意味な時間を過ごせとそう言われているような気がした。
???「それでは、aの皆様は監視者の出す迎えに…」
桐生亜衣「待ってください!!」
榎宮愷「!?」
坂縞樹「……」
我殺狂助「……」
監視者の言葉を遮り、声を上げている。榎宮は桐生の思わぬ行動に呆気に取られている。
桐生亜衣「aとb、交換できませんか?」
スピーカーに向かって強く訴える。
???「なりません。一度引いたものがすべての結果となります。」
その訴えは二つ返事で切り捨てられる。
桐生亜衣「互いに合意の意思があれば、問題ないはずです!!」
???「なりません。一度引いたものがすべての結果となります。」
NPCかのように、同じことを続けて言う音声に桐生は交渉を諦めるしかなかった。聞く耳は持たれないと再度確認されてため息が出る。
???「皆さんに武召喚数値と種性核の新たな振り込みは既に完了しています。では、aの方は監視者の指示に従い、会場へ。」
それを最後に、スピーカーの音声は二度と音を発さなかった。
現れた監視者に坂縞と我殺は誘導に従い、姿を消す。桐生もまた、それについていくが、榎宮の視界から姿を消す直前に立ち止まり一度振り返った。
桐生亜衣「愷くん、逃げ切るんだよ。」
榎宮愷「…え?」
そう言い捨て桐生亜衣も榎宮の視界から姿を消した。
aのメンバーである桐生、坂縞、我殺は監視者の誘導に従うまま歩き続ける。我殺はただ表情1つ変えず黙々としていた。桐生もまた、うつむき歩いている。そんな桐生を見て坂縞は声をかける。
坂縞樹「桐生、そんなに榎宮と一緒がよかったのか?」
桐生亜衣「ん?いや、まぁ、それもなくはないんだけど。多分、というか絶対、bのメンバーは危ない。」
そう確信している桐生の姿に思わず坂縞は感心した。もし、気づいているのであれば、そんな期待を隠しながら問うてみる。
坂縞樹「なぜそう思う?」
桐生亜衣「あの伍代という人、愷くんに恨みを持っている。 そして、あの人は…」
榎宮愷(それにしても、この伍代という人と話したことないんだよな。一度話しかけてみるか。)
桐生の危惧とは裏腹に全く伍代を警戒していない榎宮は一歩ずつ伍代に近づく。
榎宮愷「あのー、君が伍代くん?」
そんなことを伍代に問いかけ、返ってきた答えは
伍代翔地「消えろ」
抹消宣言だった。
第八次幸奪戦争開始
残り参加者5000人
最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。初の投稿作品ですので、まだ粗削りで不出来なところもあるでしょうが温かい目でこれからこの作品を見守って頂ければ幸いです。作品を読む際に【ハッピーエンドとはどういうものなのか】このことを念頭に置きながら読んで頂ければ、より一層深くまでこの作品を楽しめると思います。これからもこの作品を皆さまに楽しんでいただけるよう、精進して参ります。




