第2-3話 信用
この作品は全三章で構成するつもりです。た、私は意図せず、この作品のタイトルをこの小説家になろうに投稿されているものと全く同じのものに設定してしまいましたが、ご本人の作者様から使用の許可を頂いています。作品を読む際、どうか間違えないようにお気をつけ下さい。
榎宮と坂縞は酔っぱらいと化した桐生が大惨事を起こす前になんとか桐生を抱え、自宅まで放り込み、難を逃れることができた。
榎宮愷「はぁ、、はぁ、、今までで一番疲れた、、」
坂縞樹「もう二度と、、あいつに酒は飲ませない。」
息を切らし、桐生の自宅の玄関の扉に背を持たれかけ、疲労感をあらわにしていた。桐生は自宅のトイレに駆け込み、現在も自身の三半規管と格闘中だ。
榎宮愷「というか、坂縞くんって亜衣と一緒の現場なんだね。」
坂縞樹「まぁな、、たまたま早めに仕事が終わって居酒屋誘われたらあの有り様だ。【なにこれ!?飲んだことなーい。】とか言って酒バカのみしやがって。」
榎宮愷「あはは、、大変だったね。」
坂縞樹「お前の方が大変なんじゃないか?」
榎宮愷「え?」
坂縞樹「才原祐一とかいうやつ、結局いたのか?」
榎宮愷「いや、初めからいなかったみたいに姿がどこにもなかった、、」
坂縞樹「真相知りたいなら、今のうちかもしれないぞ。いつ自分の存在が消えるか分からないんだからな。」
榎宮愷「そう、、だね。」
幸奪戦争はまだ終わってはいない。今はただのインターバル。いつ召集があってもおかしくない上に、いつ自分の存在を消されるかわかったものじゃない。幸奪戦争の脱落条件、いわば存在が消える条件は幸奪戦争の間期に倒される、または冥界で二度消滅すること。つまり、榎宮たちにもうあとは残されていない。一度消滅した彼らには勝ち残る以外の選択肢がないのだ。
坂縞樹「それより、お前に聞きそびれていたことがあった。」
かしこまった口調で本題に入ろうとする。榎宮もまた、覚悟を決めて息を整え、少しだけ体勢を変える。
榎宮愷「何から聞きたい?」
坂縞樹「お前は七次の幸奪戦争で我殺の仲間を消した。そうだな?」
榎宮愷「…うん。」
坂縞樹「それは始まってから二日も経っていなかったときのことだ。お前は平然と仲間を消し、あたかも自分はやっていませんという顔を浮かべ、俺たちのもとへいた。あれは、何だ?」
榎宮愷「……」
坂縞樹「答えろ!!」
立ち上がり、声を荒げ尋ねる。榎宮は坂縞の表情を見るのが怖くて、うつむいたままであった。
坂縞樹「あのとき、お前を信じて失格になった俺は、、何なんだよ…」
榎宮愷(答えられない。坂縞くんにだけは。記憶がないですなんて、そんな言い訳を坂縞くんに言いたくない。あのとき坂縞くんは自分の身を省みず、正真正銘身を呈して俺たちを勝たしてくれた。失格になったらどうなるかなんて不安で怖くてたまらなかったはずなのに。)
坂縞樹「桐生はお前を信じると言ってた。俺も桐生のことは信じると決めた。お前はどうなんだ?返答次第では俺はクラインドを使ってでもお前を消す。桐生にこれ以上甘えるな。」
榎宮愷(そうだ、俺には説明する責任がある。例え覚えてなくても、自分の言葉で坂縞くんと向き合わないといけない。)
ようやく、しゃべるつもりになった榎宮は顔をあげて口を開き始めた。
榎宮愷「…多分、あのときの俺は何の躊躇いはなかったと思う。」
坂縞樹「……」
榎宮愷「そのとき、俺がどんな気持ちで我殺の仲間を消したのかは覚えていない。坂縞くんたちのもとに平然といれたのはその記憶が曖昧だったからだと思う。いや、、違うな。
開き直ってたんだよ。どこかで自分がやったという事実を分かっていながらも。」
坂縞樹「なら、もうお前と話すことはなさそうだな。お前のことは信用しない。」
榎宮を睨んでいた視線はいつの間にか鋭さを忘れ、玄関の扉の方へと視線を向ける。榎宮には見向きもせず、そのまま扉の前まで向かう。扉を開けようとする寸前で立ち止まり、一言こういった。
坂縞樹「桐生に聞いておけ。」
榎宮愷「ぁ、ま、、」
引き留める言葉が見つからなかった。どんな言葉をかければいいのか何一つわからなかった。言葉は詰まり、引き留めようと伸ばしたその右手は徐々に自信を失くし引っ込められた。そうして、坂縞樹は榎宮の前から姿を消した。
榎宮愷「……」
パート(随分と傷心されているご様子で。)
うつむき、ただ床だけを眺めている榎宮の心のなかにパートが茶々を入れる。
榎宮愷(我殺の仲間を消したのは俺だが、人格はお前だろうが!!)
パート(そうだ。あのときの人格は確かに俺だった。そしてお前は我殺の仲間を消したのちに、その記憶をごっそりロストイーブンの代償として引き抜かれたわけだ。)
榎宮愷(素朴な疑問なんだが、何で人格が入れ替わったんだ?)
パート(…それは答えられねえな。少しだけヒントを与えるとするなら、人格が入れ替わったのは我殺の仲間だからなったことだ。)
榎宮愷(もう本当に意味がわからん…)
パート(才原祐一のことも、俺やカイリのことも、謎が多くて大変だな。)
榎宮愷(もう、とりあえず黙ってくれ。)
心のなかでの自分同士の痴話喧嘩をしていると、トイレから一人の女性がふらついた足取りで出てきた。
桐生亜衣「うぅ、、もう絶対、おしゃけ、のまなぁい。」
榎宮愷「おお、、っとと!!!」
倒れそうになる桐生をすんでのところで榎宮が抱え、ベッドまで連れて行く。
桐生亜衣「うぅぅ、、あたま痛い…」
榎宮愷「水持ってくるから、少し待ってて。」
桐生亜衣「なんか、、ごめんね。」
榎宮愷(明日、坂縞にも言え。)
その言葉を心の中で叫びながら水を取りに行く。その水を桐生に手渡し、ボーッととした表情をした桐生はそれを飲み干した。少しだけ桐生の顔色はましになったように見える。
桐生亜衣「ありがとう、少し落ち着いた。」
まだ声にふらつきがあるが、ある程度の会話はできそうだった。
榎宮愷「なぁ、亜衣。坂縞から何か言われたか?」
桐生亜衣「ん?何が?」
榎宮愷「いや、坂縞が帰る直前に桐生に聞いておけって言われて。」
桐生亜衣「あー、今日言われたあのことかな。」
榎宮愷「あのこと?」
桐生亜衣「うん。あのね、坂縞くんと飲んだときに、ちょっと気になること言ってたの。坂縞くんは失格になったあと、脱落者決定戦ていう幸奪戦争とは別のデスゲームをさせられたらしいんだけど、そのゲームが終わった後に一人行方不明になったらしくて。」
榎宮愷「行方不明?実は監視者だったとか?」
桐生亜衣「存在は覚えているし、その人が監視者とは思えない行動をしているからその可能性は低いって言ってた。」
榎宮愷「まって、、俺たち会ったことある?」
記憶の中から幸奪戦争の参加者の名前を絞り出す。桐生亜衣、坂縞樹、我殺狂助、才原清一、そのつぎに心当たりのある人物が一人浮かばれてきた。
榎宮愷「花城如音…?」
桐生亜衣「そう。花城如音だけ、なぜかどこにもいないの。」
死後の世界には地獄と極楽がある。地獄はまさに奴隷レベルの扱い、極楽はまさに神の扱い。地獄に堕ちた人間に幸せを求めることは許されない。徹底的に不幸になって存在を抹消されるべき。その考えが極楽には古として定着されている。その考えに一人の極楽人は苦言を呈した。誰も否定しなかったことに対して唯一声を上げた。人々は現界で洗脳でもされたのだろう、優しすぎるあまり、価値のないゴミのことを人間と同じ扱いしてしまったのだろうと同情し、管理者といわれる職業にその男を就かせた。男の技術や才能、努力の成果は凄まじく、あっという間に管理者のトップにまで昇りつめた。
花城如音「人の過去をペラペラ話すのやめてくれるか?」
そこは一応極楽だった。極楽で起こった犯罪者を収容するための施設、その最深部の地下牢に手足を鎖で繋がれ、椅子に座った状態から動けないでいる。その地下牢の前には一人の男が椅子を置き、背もたれに自分の腕を乗せるように座っている。
伊敷季毎伽「久しぶりの再会なのに、随分冷たいな。」
花城如音「二ヶ月ぶりに会う人間がお前とは、よっぽど暇なんだな、可哀想に。」
花城如音の目の前にいるのは伊敷季毎伽。花城如音と同じ管理者であり、一時期は仕事を共にしていた。現在は管理者ナンバー2の称号を持っている。
伊敷季毎伽「黙れや!!今は幸奪戦争に関わる会議がいつまでも議決されないだけだ!」
花城如音「八次が始まらない理由はそれか。何がそんなに白熱してんだ?」
伊敷季毎伽「半分はてめえのせいだよ。脱落者決定戦で派手にやってくれたみたいで。お前の処遇をどうするかも会議の内容に入っているんだよ。」
花城如音「なるほど、だから俺は拘束されていると。じゃあお前が来たのは何のためだ?」
伊敷季毎伽「…救いの手を差し伸べにきてやったんだよ。」
一呼吸、大きなため息と深呼吸を置き、言葉を出した。
伊敷季毎伽「悪いことはいわねぇ。管理者に戻れ。」
本気の願い、花城にはそう感じ取れた。
伊敷季毎伽「お前は管理者のトップだった。お前に救われた極楽人は数えきれないほどにいる。一度地獄行きを言い渡されたからって、その恩と昔の信用はまだ売れるものなはずだ。俺はお前を忘れたくない。だから戻れ。今ならまだ引き返せる。」
花城如音「伊敷季、俺が幸奪戦争に参加させられるようになった理由は何だ?」
伊敷季毎伽「それは…」
花城如音「俺はまだ納得いかないんだよ。この世界の在り方に。」
伊敷季毎伽「管理者のトップになっても尚、そんなことを言うから、極楽人はお前に獄人がどういう存在であるかを身をもって分からせたかったんだよ。」
花城如音「ならなぜ、脱落者決定戦の際に俺をここへ連れてこなかった?声をかけなかった?」
伊敷季毎伽「お前が獄人と楽しそうに過ごしていたからだろう。参加者を倒しまくっていたら、すぐに戻れたさ。」
花城如音「そこだよ。俺はどうしてもお前らのその考えが気に入らない。お前ら極楽人は差別など断固として許さない、認めない、そんな正義感を持つことができる人間なのに、なぜ獄人を差別する?」
伊敷季毎伽「差別じゃない、区別だ。」
花城如音「…どうやら無駄な議論だったらしい。」
少しずつヒートアップしていき、お互い感情が高ぶりながら議論をしていたが、花城は理解してもらうことを諦めた。
花城如音「話を変えよう。俺が管理者に戻らない場合、何が起こるんだ?」
花城のその問いに伊敷季はほんの僅かに目を瞑り、葛藤の目を開ける。そしてこう言いはなった。
伊敷季毎伽「七次の幸奪戦争参加者、そいつらを一人残らず抹消する。」
最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。初の投稿作品ですので、まだ粗削りで不出来なところもあるでしょうが温かい目でこれからこの作品を見守って頂ければ幸いです。作品を読む際に【ハッピーエンドとはどういうものなのか】このことを念頭に置きながら読んで頂ければ、より一層深くまでこの作品を楽しめると思います。これからもこの作品を皆さまに楽しんでいただけるよう、精進して参ります。




