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28.冬の海

(冬の海)


 文化祭も終わり、期末テストも終われば、年も押し詰まって、いよいよ冬休み。

 クラブ活動は、陸上部の場合、自主トレーニング、事実上お休み。

 それでも、中学対抗駅伝の選手は、毎日走るそうだ。

 でも、選手は、陸上部に限らず、学校全体から選抜されるので、愛美たちには、縁のない話だった。

「アミ、冬休みどうするの……?」

 正美が、愛美の席にやってきた。

「もちろん、寝てるわよ部活はないし。正美、また民宿連れていってくれるの?」

 愛美は体を乗り出すように、正美に迫った。

「残念、行きたいのは山々なんだけど、塾で集中講義があるのよ。それに、民宿も冬は、余りお客さん来ないのよー」

「そうよ、アミが行けば、かえって迷惑よー!」

 隣にいた麗子がちゃちゃを入れた。

 でも、正美は愛美をかばうように……

「そんなことは、ないけど、行ってあげれば、おばさんも香奈ちゃんも喜ぶわ。でも、私、塾でAクラスなの。Aクラスは、優先的に集中講義が受けれるわけ。誰もが、みんな集中講義に出られるわけではないのよ……」

「つまり、このお休みで勉強するか、しないかで、大きな差がつくというわけね!」

 麗子が、言いにくそうな正美に代わって解説した。

「でも、三十日には民宿へ行くわ。母の実家だからね。それで、二日には帰ってくるの。三日からまた塾。本当は、集中講義にはお休みないのよー!」

「凄いのねーえー」

 気楽な愛美は、背筋が寒くなる思いで聞いていた。

「だからお正月、よければ家の車で乗せていってあげるよ。みんなで行こうっ!」

「わーあ、本当やったーあ!」

 愛美は一瞬、、顔いっぱいの笑顔で答えたが、すぐさま浮かない顔にもどった。

「でも、お正月はね……」

 愛美がくちごもったあとを、麗子が補った。

「そうねー、お正月くらい、おじ様とおば様のそばにいないとねー」

 続けて愛美も……

「さみしがらせちゃうからねー。それに、山の手のおばあちゃんや恵美ねーえも、お泊りで来るから……」

「そうねー。みんな、簡単に家を開けるわけにはいかないよねー」

 正美は、納得したようすだった。

 でも、まだ未練が残るのか……

「伊豆の冬の海もいいわよ。誰もいなくって、風が強くって、寒くって、でも、波打ち際までいくと、ほのかに暖かいの。暖流のせいかしら。それで、私を呼ぶのよ。さびしいよーお、おいでよーお、さびしいよーお、おいでよーお、て……」

「それじゃーあ、まるで幽霊じゃないー」

 麗子が、笑った。

 でも愛美は、正美の話に引き込まれて……

「うん、うん、わかるわー、海もさびしいのよ。夏は、うるさいぐらいの人だかりだものー」

「そーうなの、夏は私たちが、嫌がる海を捕まえにいく感じだけど、冬の海はさみしがりやさんー、だから、さびしい人や傷ついた人がいけば、同じ気持ちになって、分かりあえるのよー」

「正美、あんた何か傷ついているのかい?」と麗子。

「傷ついているわよ。乙女はいも傷ついているのよー」と正美。

「生理でも始まったかー?」

 麗子は心配そうな顔で正美を見た。

「レイねーえ、あんたにはセンチメンタルなナイーブ、ファンタスティックな心がないの!」

 正美は麗子に、むきになって言い返した。

「そう、そう、デリカシイのないレイは、ほっておいて、私も逢いたいな、そんな海……」

 愛美は正美の手を取って、夏休み前と同じように目をウルウルさせながら真剣に聞いていた。

「それから、初日の出のときなんか奇麗よー。まだ暗いうちから浜辺で待っているでしょう。だから、焚火をするの。その明かりがあちらこちらで、ぽーお、ぽーおと炎だけが浮かび上がるの。それで、焚火の周りでは、大人たちがお酒を飲んだりして、家の民宿では甘酒を持っていくの。それとお餅と。お餅は、笹の竹を切って、先を二つに割って、その間に餅を挟んで焚火で焼いてお醤油を付けて食べるのよ。それを食べたり飲んだりして太陽が上がってくるのを待つの……」

「うん、うん、いいなーあ。初日の出かーあー、一度も見たことないなー」と愛実。

「そんな習慣、忘れていた……」と麗子。

 二人そろって、反応は違うけれども、初日の出を見に出かけたことがなかった。

「一度いらっしゃいよ。新年を迎えたんだっていう気持ちになるからー」

「うん、うん、なる、なる。行きたいなーあー」

 愛美は、じろりと麗子を覗いた。

「ほら、またアミのだだっこが始まった!」と麗子はあきれ顔。


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