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27.合唱と涙とみんなのおかげ

(合唱と涙とみんなのおかげ)


「校長先生……、これはなんかの余興ですか?」

 交流に来た校長が言った。

「いーやー、そんなことは聞いていないが……」

 当校の校長が戸惑い気味に答えた。

「でもー、変ですよ。あのピアノは何ですか。電気ピアノですか?」

「そうですねー。でも、女子が弾いていたみたいですが……」

 当校の校長は、誰か説明をしてくれないかと、あたりを見回していた。

 そんな、会話を聞いたのか交流中学の音楽主任の先生が校長に告げた。

「私も、なにか引き込まれてしまって、何が何だかわらないのですが、今のが三組の合唱だったようですよ……」

 交流校の校長は、少し慌てたようすで……

「じゃー、余興じゃないのですね。それでは、あのピアノもですか?」

「そのようですねー」

「先生、申し分けない。不覚ながら聴いていませんでした。いったい何点ぐらい付ければいいでしょうねー」

「私も、こまっているんですが、ミスはなかったと思いますが……」

 そんな会話が審査員席では交わされていた。


 麗子が舞台袖に急ぐと、その先で愛美がすでにピアノから離れて麗子を待っていた。

 そして、麗子に向かって手の平を差し出した。

 麗子は、それを軽く手のひらではたいた。

「やったね……」

 愛美は、麗子の瞳を見つめながら囁いた。

「……、……」

 麗子は、言葉が出なかった。

 でも、麗子の気持ちは、愛美には、良くわかっていた。

 愛美が麗子につづいて袖口から出ると、同じクラスの女子が目に涙を浮かべて愛美のところへ駆け寄ってきた。

「アミ、ひどいよーおー、いきなりマリンかを変えるんだから……」

「あーあー、ごめん。昨日の夜、練習していたら急に「ともだち賛歌」が弾きたくなっちゃって……」

「ちがうー、いいのよ。私、舞台であれ聴いたら泣けてきちゃって、涙こらえるの大変だったんだから……」

「わたしもよ……」

 近くにいたクラスの女子も、愛美に寄ってきた。

「ごめん、ごめん……」

「いいのよー、わかっている、わかってるって……」

 クラスの女子も、それ以上の言葉がなかった。

 それを見ていた麗子は、彼女たちとは別の意味で涙が込み上げてきていた。

「正美に感謝しなくっちゃ。あれ、正美は……」

 麗子は、いつもなら真っ先に飛んでくるはずの正美がいないことに気づき、あたりを見回した。

 すると、正美はクラスの後ろから、数人の女子に支えられながら手で目のあたりをこすりながら、ゆっくりとやってきた。

「正美、なにやってんのよー!」

 麗子が声をかけるまでもなく、正美はぐじゃぐじゃになって泣いていた。

 正美が、泣き声で言えない分、脇を支えていた女子が……

「さっき階段の所でうずくまっちゃって、動かなくなっちゃたから、むりやり連れてきたのよ」

「仕方ないでしょーう。急に力が入らなくなっちゃったんだから……」と正美は泣きながらも、支えてくれた女子の手を振りはらい、自力で歩こうとした。

 でも、振り払おうとした反動でよろけて、麗子にしがみつきながら、またうずくまってしまった。

「正美、……」

 麗子は、しっかりと正美を抱き寄せた。

「レイ……、良かった。最高に良かったっ!」

 正美は、そういうとまた涙をぽろぽろさせて泣き出してしまった。

「正美、あんたのおかげだよ。ありがとう……」

「ちがう、ちがう、わたし、何にもしていない……」

「そんなことないよ。正美のシナリオがなかったら、今日の合唱はなかったし、正美が頑張ってクラスをまとめたから、ここまで来れたんだから!」

「そんなことない、私じゃない。みんなのおかげ……、みんなのおかげ……」

「そうだね、正美、みんなの力だねー!」

 正美は、また声をつまらせて泣いた。

 それを見て、さっきの二人の女子がもう一度正美の脇を抱えた。

「正美、もうーわかったから、早く席へもどらないと……」

「正美、しっかり!」

 麗子は、抱えていた女子に代わって、正美の片方の脇を支えた。


 そして、全クラスの合唱が終わり、司会を務めていた一年の音楽主任の総評があり、いよいよ成績発表になった。

「では、まず、準優勝組は、一組……」

「続いて、優勝組は、三組!」

 その発表の瞬間、三組の絶叫が館内を一周した。

 ほとんどの生徒が立ち上がり隣の肩を叩き、中には柄にもなく抱き合う生徒もいた。

 正美は、その中で椅子から立ち上がれず、また泣き崩れてしまった。

 麗子と愛美だけは、あまりにもクラスの喜びようにきょとんとしていた。

「静かにっ!」

 司会を務めていた先生から、すかさず注意が飛んだ。

「静かに……」

 麗子も、慌ててクラスを鎮めに声を上げる。

 そして、審査委員を代表して当校の三年音楽主任の総評ならびに結果説明があった。

「各クラスともに工夫をこらしていて良く出来ていました。その中で、優勝クラスは、アレンジと構成がよく、他のクラスを少し上回っていたと思います。合唱に関しては、各クラスともほとんど差はなく良く練習してきたと思います。みなさん、大変素晴らしい合唱でした。よく頑張りました……」

 愛美は、この総評が不満だった。

「そんなことないよね。うちのクラスがダントツよ。ほかのクラスはただ歌ってただけじゃない。うちとは合唱の質がちがうんだからー」と愛美は麗子に耳打ちした。

「いいのよ。このレベルでは、審査員席まで声が通れば合格なのよ!」

「えー、そんな単純なの……」

 愛美は、一生懸命練習したにもかかわらず、あまりにも簡単な評価でがっかりした。

 そして、表彰に移った。

「委員長、代表で出てよー!」

 麗子は、正美を呼んだ。

「レイ、正美はだめよ。泣いちゃってて……」

「しょうがないなーあ。誰か、代わりにいってよ!」

 麗子は、あたりを見回した。

「レイ、指揮者なんだから、行ってこいよ!」

 後ろの方で、男子がいった。

「レイ、行ってきたら……」

 愛美も、後押しした。

「しょうがないなーあー」

 麗子は、しぶしぶ舞台に上がった。

 そして、表彰のとき校長先生が麗子に話しかけた。

「君のクラスでピアノを弾いた生徒は、どこか特別な人ですか?」

「校長先生、わかります。特別も特別、世界一のピアニストですよ!」

 麗子がそう言うと、校長先生は、にこにこと御満悦だった。


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