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第45話 合流

政府第一収容所。


地下。


真っ白な廊下。


「…………」


クナトは、ゆっくりと刀を抜いた。


――シャキン。


乾いた金属音が、白い廊下に響く。


その視線の先。


二人の男。


ナンバーズ――ナナキ。


そして。


もう一人。


長い黒髪の男。


――クキナ。


「…………」


クキナの手には。


一本の大太刀。


その長さは、人一人の背丈にも匹敵する。


異様なほど長い刀身。


クキナはそれを軽々と構え、長い黒髪の隙間から赤い瞳でクナトを睨んでいた。


「…………」


クナトの背後。


第四番隊の隊員たちも、一斉に武器を構える。


ガザがクナトの横へ並んだ。


「隊長」


「…………」


クナトは答えない。


視線を。


クキナから一度も外さない。


そして。


背後にいるキリカへ告げた。


「ここは――俺ら第四番隊が引き受ける、お前らは先に行け」


キリカが僅かに眉をひそめる。


「カイを助けだしてくれ」


クナトが刀を構え直す。


「行けっ!!」


「…………っ!」


キリカはクナトの背中を見つめた。


そして、短く答える。


「死ぬなよ」


「誰に言ってやがる」


「…………」


キリカが前を向いた。


「お前たち、行くぞ!」


残りの全員が一斉に動き出す。


「…………」


クナト。


ガザ。


第四番隊の隊員たち。


そして。


二人のナンバーズ。


その横をキリカたちが駆け抜けていく。


「…………」


ナナキは止めない。


クキナも動かない。


まるで、最初から彼らを通すつもりだったかのように。


「…………」


アキラもサザメの手を引いて。


ナナキの横を通り抜ける。


その瞬間。


「サザメ」


「…………!」


ナナキが小さく呟いた。


サザメの足が僅かに鈍る。


「この先――」


ナナキは前を向いたまま続ける。


「気をつけた方がいいよ」


「…………」


サザメがナナキを見る。


「君の大好きな、あの人が来てるから」


「…………!」


サザメの表情から、笑みが消えた。


「…………」


アキラはその変化を見逃さなかった。


だが、今は何も聞かない。


「行くぞ」


サザメの手を引く。


「…………」


サザメは、一度だけナナキを振り返った。


そして、アキラに引かれるまま、その場を離れていった。


「…………」


やがて、キリカたちの足音が遠ざかっていく。


白い廊下に残ったのは。


クナト。


ガザ。


第四番隊の隊員たち。


そして。


ナナキ。


クキナ。


「…………」


ナナキが遠ざかっていく背中を見ながら。


口を開いた。


「行っちゃいましたね」


「…………」


「行かせちゃって良かったんですか? クキナ」


「問題ない」


クキナはクナトだけを見ている。


「この先には、あの女がいる」


「…………」


ナナキが。


肩をすくめた。


「まあ、それもそうだ」


「…………?」


ガザがナナキを見る。


その時、ナナキが懐へ手を入れた。


「さて、と」


取り出したのは。


掌ほどの奇妙な機械。


「…………」


ガザの表情が変わる。


「なんだ、ありゃ……」


――カチッ。


ナナキが機械の中央へ触れた。


瞬間。


――ガシャッ!!


機械が展開した。


「…………!」


細かな部品が一斉に組み替わっていく。


金属。


ケーブル。


関節。


複数のパーツがナナキの背後へ回り込む。


――ガシャン!!


一本。


二本。


三本。


四本。


四本の巨大な機械腕がナナキの背後に展開された。


「…………!」


第四番隊の隊員たちが。


身構える。


一つの腕には。


高速回転するドリル。


別の腕には。


鋭い刃。


別の腕には。


無数の機械部品。


それぞれが。


まるで生き物のように。


ゆっくりと動いている。


ナナキが楽しそうに笑う。


「今日は何を使おうかな」


「ナナキ」


クキナが低い声で呼ぶ。


「雑魚を頼んだ」


「…………」


大太刀の切っ先が、クナトへ向けられる。


「こいつは――俺がやる」


「…………」


クナトの目が鋭くなる。


「了解」


ナナキが笑った。


――ギュィィィィィン!!


機械腕のドリルが高速回転を始める。


――シャキン。


別の腕から刃が飛び出した。


「さぁて」


ナナキが第四番隊へ向き直る。


「始めようか」


「全員、構えろ!!」


ガザの声、第四番隊が一斉に武器を構える。


その横。


二人の兄弟は。


互いだけを見ていた。


「…………」


クナト。


クキナ。


二本の刀が。


静かに。


向かい合った。


*


同時刻。


政府第一収容所。


最深部。


「はぁ……っ」


「はぁ……っ」


カイは走っていた。


広大な真っ白な空間。


その先にある唯一の出口へ。


あと少しで。


扉へ辿り着く。


その時。


――シュン。


「…………!」


扉が開いた。


カイが足を止める。


「…………」


扉の向こうから。


一人の女が、ゆっくりと入ってくる。


長い銀髪を後ろで束ねた女。


白い肌。


冷たい瞳。


腰には、一本の剣。


「…………」


カイの表情が強張った。


忘れるはずがない。


第七物流センター。


そこで、自分を圧倒し、ここへ連れ去った女。


――清水レイ。


「…………」


レイも足を止めた。


カイを見る。


そして。


その視線がカイの背後へ移る。


「…………」


粉々に破壊された鉄格子。


原形すら。


ほとんど残っていない。


「……驚いたな」


レイが。


静かに呟く。


「まさか――」


腰の剣へ。


手を掛ける。


「檻を破壊して外に出ているとは思わなかったぞ」


剣を抜く。


「天城カイ」


――シュン。


背後。


入ってきた扉が。


閉じた。


「…………」


カイが。


レイを睨む。


「今ならまだ間に合う」


レイが告げる。


「大人しく戻れ」


「…………」


カイはゆっくりと、首を横へ振った。


「そうか」


レイが剣を構える。


「マイロードから直々の命令がある。お前を殺しはしない」


「…………」


冷たい切っ先が。


カイへ向けられる。


「だが――」


「骨の二、三本は覚悟しろ」


直後。


――ダンッ!!


レイが床を蹴った。


「…………!」


速い。


一瞬でカイとの距離が消える。


剣が振り抜かれる。


「っ!」


カイが。


右手を突き出した。


頭に浮かべる。


強く。


明確に。


目の前の女を。


遠くへ。


「――吹き飛べ」


――ドォンッ!!!!


「なっ……!?」


凄まじい突風。


レイの銀髪が激しく舞い上がる。


「くっ……!」


レイが腕を前へ出す。


足を踏ん張る。


だが。


止まらない。


「っ!!」


身体が浮いた。


そしてそのまま凄まじい勢いで、後方へ吹き飛ばされる。


――ドガァン!!


「ぐっ……!」


背中から壁へ激突。


「がはっ……!」


血が、口から飛び散る。


レイがその場に膝をついた。


「……なんだ……」


顔を上げる。


「その力は……」


「…………」


右手をレイへ向けたまま、カイは答えない。


「…………」


もう一度。


イメージする。


地面。


壁。


その形を。


変える。


鋭く。


何もかもを。


貫くように。


「――突き刺せ」


――ゴゴゴゴゴッ!!


「…………!」


レイの目が見開かれた。


床が変形する。


壁が歪む。


そして、次の瞬間。


――ズドドドドドッ!!


床と壁から無数の鋭い突起が槍のように飛び出した。


「っ!」


レイが跳ぶ。


一本。


身体を捻る。


二本。


壁を蹴る。


三本。


次々と白い槍がレイを襲う。


「くっ……!」


頬を槍の先端が掠める。


それでも。


レイは止まらない。


凄まじい瞬発力で。


次々と回避していく。


そして。


一呼吸。


着地。


口元の血を手の甲で拭う。


「…………」


カイを睨む。


「Arts――」


瞬間。


空気が一変した。


「《ゼロ・グレイシア》」


――パキッ。


「…………!」


床に白い霜。


――パキパキパキパキッ!!


それが。


一気に広がる。


レイを中心に。


床。


壁。


空気すら凍りつくような。


猛烈な冷気。


「…………」


レイが右手をカイへ向ける。


「穿て――」


冷気が。


一点へ集まる。


一本。


二本。


三本。


鋭く巨大な、氷の槍。


「――氷槍」


――ズドドドドッ!!


複数の氷槍がカイへ向かって射出された。


「…………!」


迫る。


カイは逃げない。


右手を氷槍へ向ける。


「…………」


頭の中でただ一つイメージする。


存在しない。


何もない。


――ゼロ。


「――消えろ」


瞬間。


――シュン。


「…………!」


氷槍が消えた。


砕けたのではない。


溶けたのでもない。


まるで。


最初から。


そこに存在していなかったかのように。


全てが一瞬で消失した。


「なっ……」


レイの瞳が初めて大きく見開かれる。


次の瞬間。


カイが、消えた。


「――っ!?」


目の前。


「…………!」


カイ。


握られた拳。


レイが反射的に両腕を顔の前で交差させる。


防御。


だが。


「…………」


カイの拳が止まった。


「な――」


視線が下へ、レイの腹部。


顔を守ったことで完全に空いた。


横腹。


「っ!」


カイが身体を回転させる。


――ドゴッ!!!!


「がっ……!」


回し蹴り。


レイの身体が真横へ吹き飛ぶ。


――ドガァン!!


壁へ激突。


「かはっ……!」


鮮血。


レイが床へ落ちる。


――ドサッ。


「…………」


動かない。


「……っ……」


それでも。


僅かに顔を上げる。


ぼやける視界。


その先。


カイが立っている。


「…………」


レイが震える手を伸ばした。


「待……て……」


指先がカイへ向かう。


だが。


――パタッ。


手が床へ落ちた。


「…………」


カイはレイへ背を向ける。


そして。


目の前の白い壁へ手を触れた。


「…………」


向こう側。


そこへ行く。


ただ、それだけを強くイメージする。


――ドォォォォォンッ!!!!


「…………!」


白い壁が粉々に吹き飛んだ。


巨大な穴。


その瞬間。


――ビィィィィィィィィィッ!!!!


警報。


「…………!」


真っ白だった空間が、赤い警告灯に染まる。


――ビィィィィィィィィィッ!!


「…………」


カイが壁の向こうを見る。


長い白い廊下。


その先。


およそ百メートル。


複数の人影。


「…………!」


全員がこちらを見ていた。


その中。


一人の少女が目を見開いた。


「…………」


黒い髪、見慣れた顔。


「カイッ!!!!」


「…………!」


レン。


「レン……?」


レンが走り出した。


「カイ!!」


「…………!」


全力で一直線に。


そして。


そのまま。


――ギュッ。


カイへ抱きついた。


「…………!」


カイの身体が僅かによろめく。


「カイ……」


「…………」


レンの腕が。


強く。


カイの身体を抱き締める。


「よかった……」


小さく、震える声。


「本当に……」


「…………」


カイは、しばらく動かなかった。


そして、ゆっくりとレンの背中へ腕を回す。


「……ごめん」


「…………」


「心配かけた」


「いいえ……」


レンがカイの胸元で首を横へ振る。


「大丈夫です……」


「…………」


少し離れた場所。


キリカ。


アキラ。


第二番隊の隊員たち。


彼らが。


二人を見ていた。


「…………」


何人かが。


僅かに笑っている。


アキラも口元を緩めた。


キリカは何も言わない。


ただ小さく息を吐いた。


その中で、一人だけ笑っていない者がいた。


「…………」


サザメ。


その目は、カイではない。


その向こう。


破壊された壁。


白い部屋の中を。


見ていた。


「…………」


サザメの顔色が変わる。


アキラが。


サザメを見る。


「おねぇさまは……?」


サザメの声が震える。


「どうしたの……?」


「…………」


その声に。


カイが反応する。


レンから僅かに身体を離した。


そして。


サザメを見る。


「…………!」


目を見開く。


「お前……!」


カイが反射的に身構えた。


「なんでここに……!」


「安心しろ、カイ」


アキラが二人を繋ぐ手錠を持ち上げる。


――ジャラッ。


「こいつには今、何もできない」


「…………」


カイが。


サザメを見る。


その首には。


黒い首輪。


腕には。


アキラと繋がれた手錠。


「それより……!」


サザメがカイを睨む。


「おねぇさまはどうしたの!?」


「…………」


カイが。


眉をひそめた。


そして。


ゆっくりと。


左を見る。


「…………」


サザメもその視線を追う。


破壊された壁の向こう。


赤い警告灯に照らされた。


白い部屋。


その壁際。


「…………!」


銀髪の女が倒れている。


「…………」


サザメの瞳が大きく見開かれた。


「おねぇさま……?」


一歩。


前へ。


「おねぇさまっ!!」


「っ!」


サザメが。


駆け出そうとする。


――ジャラッ!!


手錠が。


強く張った。


「離して!」


アキラが。


腕を引く。


「落ち着け!」


「離して、アキラっ!!」


「おねぇさまが!!」


「サザメ!」


「離して!!」


「――安心しろ」


「…………!」


カイの声。


サザメが振り返る。


「気を失ってるだけだ」


「…………」


サザメがもう一度レイを見る。


微かに胸が上下している。


「…………」


サザメの肩から力が抜けた。


「……よかった……」


小さく息を吐く。


「…………」


アキラがその横顔を見た。


だが。


何も言わない。


「せっかく会えたところ悪いけどな」


アキラがカイを見る。


「話したいことは山ほどある」


「…………」


「けど、ここで悠長に話してる時間はないぞ」


「ああ」


キリカが続ける。


「この先では、クナトと第四番隊がナンバーズ二人と交戦している」


「…………!」


カイの表情が変わる。


「それだけじゃない」


キリカが。


さらに続けた。


「上では――」


「ジンとアンナ、ゴウがナンバーズと対峙してる」


「ジンたちが……?」


「…………」


レンもカイを見て頷いた。


「…………」


カイが拳を握る。


ジン。


ゴウ。


アンナ。


クナト。


そして、自分を助けるために。


ここまで来た仲間たち。


「…………」


迷っている時間はない。


「――急ごう」


カイが言った。


「…………」


キリカが頷く。


「ああ」


レンがカイの隣へ並ぶ。


アキラがサザメの手を引く。


そして、カイたちは、


赤い警告灯が明滅する廊下を走り出した。

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