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第40話 第一収容所

Genesis。


地下。


牢獄。


重い鉄扉が。


鈍い音を立てて開いた。


――ギィィィ……。


薄暗い通路。


等間隔に並ぶ照明が、冷たい床を照らしている。


その中を。


アキラを先頭に。


キリカ。


クナト。


三人が歩いていた。


やがて。


最奥。


一つの牢の前で。


アキラが足を止める。


「…………」


鉄格子の向こう。


椅子に座る少女。


金髪のツインテール。


名切サザメ。


「…………」


サザメが。


ゆっくりと顔を上げた。


そして。


アキラの姿を見つけると。


薄く笑った。


「アキラくん」


「…………」


「おかえり」


以前と比べ。


その声には。


僅かに力がなかった。


目元には。


薄い隈。


頬も。


少し痩せている。


あの頃のような。


無邪気で。


どこか狂気すら感じさせるほどのフレッシュさは。


もうなかった。


「…………」


アキラは何も言わない。


鉄格子を開け。


牢の中へ入る。


その手には。


黒い首輪。


「……なぁに、それ?」


サザメが。


首を傾げる。


「…………」


アキラは答えない。


サザメの前に立つと。


その首へ。


黒い首輪を巻いた。


――カチッ。


「…………」


サザメが。


自分の首元へ視線を落とす。


「アクセサリー?」


「…………」


返事はない。


「似合う?」


「…………」


「ねぇ、アキラくん」


「これから」


ようやく。


アキラが口を開いた。


「お前の錠を外す」


「…………」


サザメの目が。


僅かに開く。


「……いいの?」


「…………」


アキラが。


最初の拘束具へ手を伸ばす。


――ガチャッ。


右腕。


――ガチャッ。


左腕。


両足。


胴。


一つずつ。


サザメを拘束していた錠が外れていく。


「…………」


最後の拘束具が。


床へ落ちた。


――ガシャン。


「…………」


サザメは。


しばらく動かなかった。


自由になった。


自分の両手を。


じっと見つめている。


指を。


ゆっくりと。


開く。


閉じる。


「…………」


アキラが。


手を差し出した。


「…………?」


サザメが。


その手を見る。


そして。


アキラを見る。


「お前に――」


「…………」


「やってもらうことがある」


サザメの瞳に。


アキラの姿が映った。


*


――五日後。


中央都市。


第一ゲート。


巨大な門が。


口を開けていた。


本来ならば。


中央都市へ入ろうとする人々。


車両。


それらが。


長い列を作る場所。


検問所には複数の政府兵が配置され。


中央都市へ入る者の身元。


スペック。


認証情報。


その全てを。


厳格に確認する。


だが。


今日だけは。


違った。


「…………」


誰もいない。


人の姿は。


一つもない。


車両もない。


政府兵すらいない。


ただ。


巨大な門だけが開いている。


まるで彼らを迎え入れるかのように。


「…………」


ジンが。


門の向こうを見つめる。


その横にはアンナとゴウ。


三人が。


ゆっくりと歩き出した。


――コツ。


――コツ。


――コツ。


誰も止めない。


何の認証もない。


検問もない。


そして。


三人は。


第一ゲートを通過した。


中央都市へ。


足を踏み入れる。


「…………」


その数十メートル後方。


何もない空間が。


僅かに揺らぐ。


光学迷彩。


その中。


ヒナタと。


アズサ。


二人が。


音を殺して追従していた。


「…………」


ゴウが。


周囲を見渡す。


「ここが……」


目を見開く。


「中央都市……」


「…………」


「私、初めて入ったわ……」


その声には。


素直な驚きが混じっていた。


ジンは。


答えない。


ただ。


周囲を警戒している。


「…………」


綺麗に舗装されたタイル調の道。


左右には。


大小様々な店。


建物の壁面を。


色鮮やかなホログラムが彩っている。


アクセサリー。


菓子。


軽食。


衣服。


様々な店の看板が。


空中に浮かぶ。


美しい。


整っている。


別世界。


「…………」


だが。


人がいない。


「…………」


これだけの店があるのに。


誰もいない。


笑い声も。


話し声も。


足音も聞こえない。


聞こえるのは。


三人の足音だけ。


――コツ。


――コツ。


――コツ。


「……気味が悪いわね」


ゴウが。


小さく呟く。


「ああ」


ジンが。


短く答える。


「警戒しろ」


アンナは。


何も言わない。


ただ。


前を見て歩く。


アキト。


その名前だけが。


頭から離れない。


その時。


「…………?」


前方。


道の中央に。


何かがいた。


「止まれ」


ジンが。


足を止める。


アンナ。


ゴウも止まる。


「…………」


二人の人影。


派手な衣装。


顔には。


笑ったピエロの仮面。


「…………」


二人の道化師が。


並んで立っていた。


その手には。


色鮮やかな風船。


「…………」


ジンが。


僅かに腰を落とす。


いつでも。


武器へ手を伸ばせる姿勢。


しかし。


二人は攻撃しない。


ゆっくりと。


近づいてくる。


そして。


一人が。


ジンへ。


もう一人が。


アンナへ。


風船を差し出した。


「…………」


「……何の真似だ」


ジンが。


低く言う。


返事はない。


二人は。


一歩下がる。


そして。


同時に。


仮面へ手を掛けた。


――スッ。


仮面が。


外れる。


手放された二つの風船が。


空へと昇っていく。


「…………!」


一人は。


薄いピンク色の髪。


もう一人は。


紫色の髪。


だが。


顔は。


同じだった。


瞳の形も。


鼻も。


口元も。


笑い方さえ。


瓜二つ。


「ようこそ……」


薄桃色の髪の女。


「ユートピアへ」


紫色の髪の女。


そして。


二人が。


声を揃える。


「お待ちしてました」


「…………」


両腕を。


大きく広げる。


挿絵(By みてみん)


「どうぞ」


「こちらへ」


二人が。


くるりと背を向けた。


「…………」


歩き始める。


「……随分と悪趣味な歓迎ね」


ゴウが呟く。


「…………」


ジンは。


二人の背中を睨み、歩き出す。


アンナ。


ゴウも。


その後を歩く。


そして。


さらに後方。


光学迷彩の中から。


ヒナタとアズサも追う。


「…………」


歩いても。


歩いても。


街には。


誰もいない。


店は開いている。


ホログラムも動いている。


街そのものは。


生きている。


なのに。


そこに暮らす者だけが。


消えていた。


「…………」


やがて。


二人の道化師が。


足を止めた。


「…………!」


巨大な門。


その向こう。


真っ白な建造物。


正方形。


装飾らしい装飾はない。


巨大な白い箱を、そのまま地面へ置いたような施設。


《政府第一収容所》


「こちらが――」


薄桃色の髪の女が。


笑う。


「政府管理」


紫色の髪の女が。


続ける。


そして。


二人が。


同時に告げた。


「第一収容所になります」


「…………」


――ゴゴゴゴゴ……。


巨大な門が。


ひとりでに開いていく。


その先には。


綺麗に整備された庭園。


「…………」


二人の道化師が。


門の両側へ分かれる。


そして。


深く。


頭を下げた。


「さぁ」


「どうぞ」


「…………」


ジンが。


一歩。


中へ入る。


アンナ。


ゴウ。


三人が。


庭園を歩いていく。


綺麗に刈り揃えられた植物。


白い石畳。


人工的なほど。


完璧に整えられた景観。


「…………」


その先。


第一収容所。


正面入口。


そこに。


一人の男が立っていた。


「…………!」


アンナの足が。


僅かに止まる。


真っ白な軍服。


一切の乱れがない。


銀白色の髪。


黒い手袋。


口元には。


不敵な笑み。


「…………」


――ファースト。


男がゆっくりと両腕を広げた。


「ようこそ――」


低い声が。


静かな庭園に響く。


「Genesisの諸君」


「…………」


ジンが。


男を睨む。


ファーストは。


その視線を受けながら。


笑みを崩さない。


そして。


自らの背後へ。


片手を向けた。


――シュン。


第一収容所。


巨大な扉が。


音もなく左右へ開いていく。


白い光が。


内部から差し込む。


ファーストが。


微笑む。


「さぁ――」


「中へ」

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