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第35話 拘束

巨大な貨物用エレベーターが。


ゆっくりと地下へ降りていく。


――ゴゴゴゴゴゴ……。


Genesis本部。


武装倉庫。


作戦に参加しなかった住民や団員たちが、エレベーターの到着を待っていた。


やがて。


――ガコン。


重い振動。


巨大な扉が左右へ開いていく。


その向こうから。


一台目の車両が姿を現した。


「帰ってきたぞ!」


誰かが叫ぶ。


直後。


「おおおおおおおおっ!!」


大きな歓声が上がった。


一台。


また一台。


作戦へ向かったGenesisの車両が、次々と武装倉庫へ入ってくる。


扉が開く。


戦闘員たちが降りてくる。


傷を負った者。


仲間に肩を貸されている者。


疲れ果てた顔をしている者。


それでも。


彼らは帰ってきた。


そして、最後に車両から降りたジンが一言。


「作戦成功だ!」


その声を聞きながら。


一人の女が。


人混みの後ろに立っていた。


アンナ。


「…………」


胸の前で。


両手を強く握っている。


今回の作戦は。


自分が流した偽の情報から始まった。


第三食品加工工場。


一か月後。


少人数。


その嘘を。


政府は信じた。


もし。


少しでも計画が狂っていたら。


もし。


政府に自分の裏切りが見抜かれていたら。


「…………っ」


アンナの瞳から。


涙が溢れた。


「良かった……」


手で口元を押さえる。


「本当に……良かった……」


笑顔で肩を組む仲間たち。


その姿を。


涙を流しながら見つめる。


少し離れた場所では。


「っしゃあ!!」


ラックが。


勢いよく拳を突き上げた。


「やったな!」


その隣いるヤクもニカっと笑う。


「おう」


巨大な拳を突き出す。


「親方!」


ラックも拳を出した。


――ゴツッ!


二人の拳がぶつかる。


「すげぇな親方っ!」


ラックが興奮した様子で車両に乗ったスピーカーを指差して、ヤクを見る。


「あのデカい装置、本当に効果あったんだろ!?」


「当たり前だ」


ヤクが鼻を鳴らす。


「誰が作ったと思ってやがる」


「へへっ、さすが親方!」


「お前も手伝ってくれただろーが、そうじゃなきゃ納品に間に合ってなかったかもしんねぇ」


「へへっ!」


二人が笑う。


だが。


今回、Genesisが持ち帰ったものは。


勝利だけではなかった。


「…………」


一台の車両。


その周囲だけ。


空気が違った。


複数の武装した団員が。


厳重に取り囲んでいる。


その中央。


拘束された。


小柄な少女。


金髪を二つに結んでいる。


ツインテールが静かに跳ねた。



Genesis地下深部。


普段。


住民たちが立ち入ることのない区画。


その最奥。


分厚い鉄扉によって隔離された牢獄。


中央には。


椅子が一つ。


そこに。


サザメが座らされていた。


「…………」


両腕。


両脚。


胴体。


首。


何重もの金属製拘束具が。


その小さな身体を椅子へ固定している。


当然。


あの特徴的な巨大なギロチンはない。


その前には。


七人。


ジン。


キリカ。


セイジ。


クナト。


ヒナタ。


ゴウ。


そして。


アキラ。


「…………」


サザメは。


すでに意識を取り戻していた。


七人を。


鋭い目で睨みつけている。


「ねぇ……」


誰も答えない。


「私をこんなところに連れてきて……」


サザメの口元が。


僅かに歪む。


「何がしたいのさ」


「…………」


「早く殺しなよ」


その瞬間。


クナトの目が見開かれた。


「…………」


一歩。


前へ出る。


誰も止めない。


サザメの前まで歩く。


「……なに?」


次の瞬間。


――ガッ!!


「――っ!」


クナトの拳が。


サザメの右頬を殴りつけた。


拘束された身体が大きく揺れる。


「…………」


サザメが。


ゆっくり顔を戻す。


口元から。


赤い血。


「ぺっ……」


床へ吐き出す。


そして。


クナトを見る。


「痛いなぁ……おにぃさん」


「…………」


「ダメなんだよ」


サザメが笑う。


「女の子のお顔を、そんなに思いっきり殴っちゃ……」


「…………」


クナトの拳が。


もう一度握られる。


――ガッ!!


今度は左。


サザメの顔が反対方向へ弾かれた。


「……っ」


「その辺にしとけ、クナト」


ジンの手が。


クナトの肩を掴む。


「…………」


クナトは。


しばらくサザメを睨んでいた。


やがて。


拳を下ろす。


「……チッ」


一歩下がる。


ジンは。


アキラへ視線を向けた。


「アキラ」


「ああ」


「準備はできてるか」


「できてる」


アキラが。


大きな機械を持ち上げる。


「…………?」


サザメが。


少しぐったりとした顔でそれを見る。


「今度は……」


虚ろな目。


「何をされるのかな……?」


「悪いけど」


アキラが。


サザメの前へ立った。


「ちょっと頭の中、覗かせてもらうよ」


「…………」


サザメの頭へ。


機械を被せる。


ヘルメット型。


表面には無数の端子。


そこから。


何本ものケーブルが伸びている。


――ガチャ。


固定。


「…………」


アキラが。


空中へ手を伸ばす。


――ブンッ。


一枚。


二枚。


三枚。


複数のホログラムが展開された。


《CONNECTION》


《BRAIN ARTS》


《ACCESS》


《AUTHENTICATION》


「…………」


アキラの指が動き始める。


凄まじい速度。


流れるコード。


膨大な数値。


暗号化された通信記録。


接続情報。


「…………」


アキラの目が。


そのすべてを追う。


十秒。


二十秒。


そして。


「……やっぱりダメだな」


「どうした?」


ジンが尋ねる。


「強力なプロテクトが掛かってる」


アキラが。


さらに数回キーを叩く。


《ACCESS DENIED》


《ACCESS DENIED》


《ACCESS DENIED》


「深いところへ入ろうとすると、全部弾かれる」


「解除できねぇのか」


「今のままじゃ無理だな」


アキラが。


ジンを見る。


そして。


一言。


「ワクチンを使う」


「…………」


キリカの表情が僅かに変わった。


レンにも使われた。


セントラルの支配を断つワクチン。


ジンは。


サザメを見る。


数秒。


「……分かった」


そして。


「ゴウ」


「…………」


「やってくれ」


「分かったわ」


ゴウが静かに前へ出る。


その手には一本の注射器。


「……へぇ」


サザメがそれを見る。


「私、注射は嫌いなんだけどなぁ......」


「…………」


ゴウは答えない。


サザメの腕を乱暴に掴んだ。


「痛っ、ちょっと!」


「…………」


ゴウの目には。


普段の柔らかさがなかった。


「あなたたちが……」


低い声。


「アンナを……」


「…………?」


「私は絶対に――」


針を。


サザメの腕へ突き刺す。


「許さない」


――プシュ。


薬液が。


体内へ注入されていく。


「…………」


針が抜かれる。


数秒。


「……なに...?」


その瞬間。


「――っ!?」


サザメの目が。


大きく見開かれた。


「ぁ……」


身体が。


小刻みに震え始める。


――ガタガタガタッ!


拘束具が鳴る。


「あ……ぁ……!」


「アキラ!」


「ああ!」


「あああああああああああああああっ!!」


絶叫。


サザメの身体が。


激しく痙攣する。


「なに……これ……!」


「ぁぁぁあああああああっ!!」


同時に。


アキラの周囲。


大量のホログラムが。


一斉に展開された。


《CONNECTION UNSTABLE》


《PROTECTION ERROR》


《AUTHENTICATION――》


「……!」


アキラの目が見開かれる。


「開いた!」


指が走る。


一枚。


二枚。


三枚。


通信履歴。


接続経路。


ナンバーズの専用ネットワーク。


認証情報。


次々と。


新しい情報が表示される。


「…………」


アキラが。


その中から一つの経路を追う。


「これか……?」


さらに深く。


「…………」


ジンたちは。


黙ってその背中を見ている。


そして。


アキラの指が。


止まった。


「――見つけた」


「……何をだ」


ジンが尋ねる。


アキラが。


一枚のホログラムを拡大した。


《中央都市》


さらに。


一つの施設名。


《政府第一収容所》


「政府第一収容所……」


セイジが呟く。


アキラが。


振り返る。


「カイは――」


全員を見る。


「ここにいる」


「…………!」


ジンの目が。


鋭くなる。



セントラルヒルズ。


最上部。


白い空間。


その中央。


巨大な長机が置かれている。


周囲に座るのは。


十二人。


ナンバーズ。


十三ある席。


そのうち。


一つだけが――空席。


――バンッ!!


「バカな……!」


机を叩き。


一人の女が立ち上がった。


レイ。


銀色の髪が揺れる。


「サザメが捕まっただと……っ!?」


「落ち着け、レイ」


静かな声。


「……っ」


レイが睨む。


長机の奥。


白い軍服。


ファースト。


「どうやら――」


ファーストが言う。


「密偵が我々を裏切ったようだ」


「…………」


十二人の視線が。


彼へ集まる。


「それに」


指を動かす。


――ブンッ。


巨大なホログラム。


そこに映し出されたのは。


森に設置された。


巨大なスピーカー状の装置。


「これは、現場にいた兵士のブレインアーツから採取された映像だ」


映像が動く。


森。


戦場。


空気が震える。


木々が揺れ。


鳥たちが一斉に飛び立つ。


直後。


政府兵たちが。


次々と倒れていく。


そして。


最後に映る。


ワイヤーで拘束されるサザメ。


「…………」


一人の男が。


勢いよく立ち上がった。


「まさか……っ!」


緑色に染まった。


強くカールした髪。


小柄な男。


「そのまさかだ――ナナキ」


ファーストが答える。


「お前が作ったLEVEL1の通信妨害装置」


「…………!」


「おそらく、あれと類似したものがLEVEL1たちの手にある」


「あり得ない……」


ナナキが。


ホログラムへ近づく。


「あり得ない……あり得ないぞ……」


画面を。


食い入るように見つめる。


「あれは……」


「…………」


「特定のブレインアーツにのみ干渉するよう、極めて緻密な計算を行う必要がある……」


指が。


僅かに震える。


「それに……この装置」


巨大なスピーカーを指す。


「ただのスピーカーじゃない」


「…………」


「人間の耳では感知できない領域の超高周波を発生させる装置だ」


ナナキの表情が。


歪む。


「あれを完成させるまで……どれだけの開発期間を要したと思ってる……」


「…………」


「それを――」


拳を握る。


「LEVEL1ごときが作っただと……?」


「ナナキ」


ファーストの声。


「…………っ」


ナナキが黙る。


「今回の件」


ファーストが十二人を見渡した。


「マイロードは――酷く悲しまれた」


「…………」


空気が変わる。


「これ以上――」


冷たい声。


「失態を重ねることは許されない」


沈黙。


その中。


「だが」


一人の男が口を開く。


筋肉質な大男。


「どうするつもりだ、ファースト」


「…………」


「密偵とやらも、もう使えないんだろ」


「問題ない」


ファーストが答える。


「奴らの目的は――概ね予測できる」


「天城カイか」


別の声。


燃えるような。


真紅の長い髪。


一人の女。


「そうだ」


ファーストが頷く。


「奴らは何らかの方法を使い」


サザメが拘束される映像を見る。


「サザメのブレインアーツを解析するつもりだろう」


「…………」


「そして――」


ファーストの瞳が細くなる。


「天城カイを救出しに来るはずだ」


「…………」


「そこを――叩く」


沈黙。


その時。


「だが」


腕を組んだ。


金髪の男が口を開いた。


「そもそも、あそこは中央都市の中だろ?」


「…………」


「敵もそう簡単には入り込めないんじゃないか?」


「いや」


ナナキが答える。


「おそらく……奴らの中に、かなりできる奴がいる」


「…………」


「今回の装置を作り上げた奴つだ」


ナナキが。


ホログラムを見る。


「そいつらなら――気づく」


「何にだ?」


「サザメのブレインアーツを解析すれば」


ナナキの目が細くなる。


「必ず――認証キーに辿り着く」


「…………」


「そのキーがあれば……」


金髪の男が。


小さく呟く。


「中央都市へ入れる、か」


「そういうことだ」


「なるほど……」


金髪の男が頷く。


ファーストが。


ゆっくりと椅子から立ち上がった。


「今は――」


全員の視線が集まる。


「奴らが動くのを待つ」


「…………」


「そして」


ファーストの口元に。


僅かな笑みが浮かぶ。


「その時が来たならば――」


十二人を見渡す。


「ナンバーズの恐ろしさを」


その笑みが。


僅かに深くなる。


「奴らに――知らしめてやる」

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