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第34話 捕縛

真紅の翼が――開いた。


「…………!」


アズサの瞳に。


赤い光が映る。


サザメの背後に広がった巨大な血の翼。


それは。


ただの翼ではなかった。


――ギュルッ。


血液が蠢く。


翼の先端が細く伸び。


鋭く尖っていく。


一本。


二本。


三本。


無数の血が。


針のような刃へと姿を変えた。


「いくよ」


サザメが。


巨大なギロチンを肩へ担ぐ。


「――死んじゃえ」


直後。


――シュバッ!!


血の刃が。


一斉にアズサへ襲いかかった。


「……っ!」


アズサが地面を蹴る。


――ガキンッ!


クナイで一本を弾く。


すぐに二本目。


「くっ!」


身体を捻る。


頬のすぐ横を。


真紅の刃が通過する。


直後。


背後の地面へ突き刺さった。


――ドスッ!


「…………!」


速い。


休む暇などない。


右から。


左から。


頭上から。


血の刃が次々と襲いかかる。


「それそれそれぇ!」


サザメが笑う。


さらに。


――ドンッ!!


地面を蹴った。


「……!」


アズサの目の前へ。


一瞬でサザメが迫る。


巨大なギロチン。


「ほらぁ!」


――ブォンッ!!


横薙ぎ。


「っ!」


アズサがクナイを構える。


――ガギィンッ!!


「ぐっ……!」


衝撃。


小さな身体が。


地面を滑る。


「まだまだぁ!」


止まらない。


ギロチン。


血の刃。


サザメ本人と。


背後の翼。


二方向からの攻撃が。


絶え間なくアズサへ襲いかかる。


「…………っ!」


アズサは。


受けない。


いなす。


クナイを刃へ滑らせ。


軌道を僅かに逸らす。


そのまま後方へ跳ぶ。


距離を取る。


「逃げるのぉ?」


「…………」


アズサは答えない。


着地と同時に。


両手を組む。


印。


「秘技――影分身!」


アズサの姿が揺らぐ。


一人。


二人。


三人。


五人。


八人。


十人。


再び。


複数のアズサが現れた。


「またそれ?」


十人が。


一斉に散開する。


右へ。


左へ。


上へ。


サザメを取り囲む。


「…………」


サザメは。


その中心で。


ニィッと笑った。


「もう――見飽きちゃった」


血の翼が。


大きく広がる。


次の瞬間。


――ズババババババッ!!


「……!」


無数の血の刃が放たれた。


一本ではない。


十本でもない。


周囲を埋め尽くす。


真紅の刃。


「…………っ!」


一体のアズサが貫かれる。


消える。


二体目。


切り裂かれる。


消える。


三体。


四体。


五体。


「くっ……!」


分身が次々と消滅していく。


攻撃へ移る暇すらない。


血の刃が。


全方向から分身を狙い撃ちにしている。


そして。


その中を。


巨大なギロチンを持ったサザメ本人が駆け抜ける。


「あはははははっ!!」


――ザンッ!


また一体。


――ザンッ!


さらに一体。


「ほらほらぁ!」


回転。


ギロチンが。


分身をまとめて薙ぎ払う。


「さっきの方が面白かったよぉ!」


「――くっ!」


残された本体。


アズサの表情が歪む。


クナイを構える。


正面にはサザメ。


側面には血の刃。


背後には別の血の刃。


完全に包囲されていた。



第三食品加工工場を見下ろす小高い丘。


そこに、一人の男が立っていた。


セイジ。


その視線の先。


血の翼を広げた金髪の少女。


「…………」


セイジが通信機へ手を当てる。


「ジン」


『どうした』


「敵ナンバーズの能力を確認した」


セイジの目が細くなる。


「――例の装置の起動命令を」



――ガンッ!


「ぐぁっ!」


政府兵の身体が地面へ転がった。


「…………っ!」


ジンが。


小銃を両手で握っている。


空の弾倉を抜き、新しい弾倉をセットする。


迫る政府兵を打ち倒していく。


「わらぁ!」


別の兵士。


「邪魔だ!」


――ガッ!


ジンは小銃で敵の武器を弾き。


腹部へ蹴りを入れて吹き飛ばす。


そのまま。


通信端末を操作する。


音声チャネル。


接続先――アキラ。


「アキラッ!」


『はいはい! 聞こえてる!』


「相手が能力を使った!」


「…………」


ジンが叫ぶ。


「装置を起動しろ!」


一瞬。


通信の向こうが静かになる。


そして。


『ああ――分かった!』



待機用のキャンプで、大量のホログラムがアキラの周囲へ展開されている。


森に配置された。


五台の大型車両。


すべて。


《STANDBY》


「さあ……」


アキラが指を走らせる。


一枚のホログラムを。


手前へ引き寄せる。


そこに表示された。


一本の出力バー。


「仮説通りなら――」


指を置く。


そして。


一気に。


上へ。


《OUTPUT》


10。


30。


50。


80。


100。


《MAXIMUM》


「――これでどうだ!」


起動。



その瞬間だった。


――――――。


音は。


聞こえなかった。


だが。


空気が。


僅かに震えた。


森の中。


光学迷彩によって姿を隠していた五台の大型車両。


その荷台。


巨大なスピーカーが。


同時に最大出力で稼働した。


「……っ!?」


政府兵の一人が。


突然。


銃を落とした。


「な……」


頭を押さえる。


「あ……あぁ……!」


膝をつく。


その隣。


さらに一人。


「ぐぁぁぁっ!!」


そして。


また一人。


「頭が……!」


次々と。


政府兵たちが倒れていく。


「な、なんだ!?」


「通信が……!」


「セントラルに繋がらな――」


――バタッ。


身体が地面へ落ちる。


そして。


「…………?」


サザメの動きが。


止まった。


「…………」


血の翼。


その先端。


アズサへ迫っていた血の刃が。


空中で震える。


「なに……が……」


サザメの瞳が揺れる。


「…………っ」


ギロチンが。


手から滑り落ちた。


――ガァンッ!!


「……え?」


サザメが。


自分の手を見る。


「なに……これ……」


血の翼が。


崩れる。


形を失い。


大量の血が。


地面へ降り注いだ。


「…………!」


アズサが目を見開く。


サザメは。


頭を押さえた。


「あ……」


身体が震える。


「あぁ……」


膝をつく。


「ぁ……あ……!」


両手で。


頭を抱え込む。


「あああああああああああああっ!!」


絶叫。


サザメが。


その場にうずくまった。


「…………」


アズサは。


その姿を見つめる。


数秒。


そして。


目を閉じた。


「秘技――」


目を開く。


「――束縛陣」


――シュシュシュシュッ!!


アズサの両手から。


複数のクナイが放たれた。


「……!」


一本。


サザメの横を通過する。


二本。


三本。


四本。


地面へ。


壁へ。


次々と突き刺さる。


その柄から伸びる。


細いワイヤー。


「……なっ」


――ギュンッ!!


一斉に。


巻き取られた。


「ぐっ!?」


腕。


脚。


胴。


複数のワイヤーが。


サザメの身体を締め上げる。


「ぁ……!」


「…………」


アズサがワイヤーを握る。


「逃がさない」


「あ……あぁ……!」


サザメが暴れる。


だが。


動けない。


「離せ……!」


ワイヤーが軋む。


「離せぇぇぇぇっ!!」


「…………っ」


アズサの額から。


汗が流れる。


それでも。


ワイヤーを掴む手を緩めない。


「ああああああああああああああああっ!!」


サザメの絶叫が。


戦場へ響き渡る。


そして。


「…………ぁ」


突然。


力が抜けた。


「…………」


口元から。


白い泡。


サザメの瞳から。


光が消える。


――ガクン。


糸が切れたように。


その身体が。


地面へ倒れ込んだ。


「…………」


アズサは。


すぐには動かなかった。


金髪の少女を見る。


あの日。


自分を一撃で吹き飛ばした少女。


その少女が今。


自分の目の前で。


倒れている。


「…………」


その時。


通信機から。


セイジの声が響いた。


『ジン』



ジンが。


戦場の中央で通信を受ける。


『敵ナンバーズの確保に成功』


「…………」


ジンが。


僅かに口角を上げた。


『作戦――終了だ』

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