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第31話 再起

訓練場。


広い空間に、二人の女性が向かい合っていた。


一人はキリカ。


そして、その正面にはレン。


レンはプロトタイプの外骨格に身を包み、一本の模造刀を構えていた。


「…………」


レンが静かに息を吸う。


キリカもまた、模造刀を握ったまま動かない。


張り詰めた空気。


一呼吸。


その直後――。


――ガンッ!!


二本の模造刀が激しくぶつかった。


「っ!」


先に動いたのはキリカ。


鋭い踏み込みから、レンの肩口へ刃を振り下ろす。


だが。


――ヒュッ!


レンの身体が横へ滑る。


紙一重。


模造刀が鼻先を通過する。


「……!」


キリカの目が僅かに見開かれた。


速い。


以前よりも――明らかに。


レンはそのまま踏み込む。


一撃。


二撃。


三撃。


――ガッ!


――ガンッ!


――ガッ!


外骨格がレンの動きを補助する。


だが、それだけではない。


キリカの刃が動くより先に。


まるで次の軌道が分かっているかのように、レンの身体が反応している。


「はぁっ!」


模造刀が横薙ぎに振るわれる。


キリカは上体を反らして回避。


直後。


レンが刀を返す。


下から上へ。


さらに斜めから。


息をつく暇もない連撃。


「……やるな」


キリカの口元が僅かに上がる。


――ガッ!


一撃を受け。


――ガンッ!


二撃目を逸らし。


三撃目。


キリカは身体を半歩だけずらした。


レンの模造刀が空を切る。


「えっ――」


その瞬間。


キリカの左手が懐へ伸びた。


引き抜かれたのは、模造のナイフ。


右手の模造刀。


左手の模造ナイフ。


二本の刃が。


レンの模造刀を挟み込む。


――ガキンッ!


「わっ!」


手から模造刀が弾き飛ばされた。


「しまっ――」


体勢を崩したレンへ。


キリカが一歩踏み込む。


模造ナイフの切っ先が。


レンの首元で――止まった。


「…………」


レンが固まる。


キリカは静かに告げた。


「私の勝ち」


「…………」


数秒。


レンはその場にへたり込んだ。


「また負けたぁ……」


「当たり前だ」


キリカが模造ナイフをしまう。


「まだ負けるつもりはない」


「今回こそは、ちょっといけると思ったんですけど……」


「残念だったな」


キリカは小さく笑う。


そして。


レンへ手を差し伸べた。


「かなり反応速度が上がってきている」


「……?」


「少しずつ、勘を取り戻してきているようだな」


レンは差し出された手を握る。


キリカに引かれ。


立ち上がった。


「そうなんでしょうか……」


レンは自分の手を見る。


記憶は戻っていない。


今でも。


自分が以前どんな戦い方をしていたのか。


何を考え。


何を感じながら刃を振るっていたのか。


何も分からない。


それでも。


「でも……」


レンは少しだけはにかんだ。


「確かに前よりも、キリカの動きが見えるようになった気がします」


「私の動きが?」


「はい」


「…………」


キリカが僅かに眉を上げる。


そして。


ふっと優しく微笑んだ。


「それは――私もうかうかしていられないな」


キリカは訓練場の奥へ歩いていく。


荷物の中から水筒を取り出すと。


振り返る。


「レン」


「はい?」


――ヒュッ。


「わっ!」


水筒が飛んできた。


「わっ、わっ、わっ!」


レンが慌てて両手を伸ばす。


一度。


手の中で跳ね。


「わっ!」


もう一度。


「よっ……と!」


どうにか抱きしめるように受け止めた。


「…………」


キリカが無言でレンを見ている。


「……なんですか?」


「いや」


キリカが少しだけ笑う。


「戦っている時との落差がすごいと思ってな」


「休憩にしよう」


レンは水筒を開ける。


そして。


静かに水を口へ運んだ。



Genesis本部。


第五番隊宿舎。


その廊下を。


一人の少女が歩いていた。


短い青髪。


小柄な身体。


第五番隊副隊長――アズサ。


「…………」


歩みはまだ。


ほんの僅かにぎこちない。


だが。


自分の足で歩ける。


あの日に比べれば、随分と良くなった。


やがて。


一つの扉の前で足を止める。


《第五番隊・隊長室》


「…………」


アズサは一度だけ深く息を吸う。


――コン、コン。


「どうぞ」


中から声がした。


「失礼します」


扉を開ける。


部屋の奥。


大きめの黒い椅子に腰掛けている女性がいた。


ヒナタ。


第五番隊隊長。


その目の前には、複数のホログラムが展開されていた。


《第三食品加工工場》


一か月後に予定されている作戦。


施設内部の構造。


周辺地形。


侵入経路。


Genesisの配置候補。


ヒナタはそれらを真剣な眼差しで確認していた。


「アズサ」


ヒナタが顔を上げる。


その表情が少しだけ和らいだ。


「もう怪我はいいんですか?」


「はい」


アズサは頷く。


「もう、かなり良くなりました」


「そう」


ヒナタが微笑む。


「良かった」


「…………」


アズサは。


無意識に左腕へ視線を落とした。


第七物流センター。


そこで対峙した敵。


金色の髪。


小柄な身体。


そして。


その身体には到底似つかわしくない。


巨大なギロチンのような武器。


あの巨大な刃が振るわれる光景が。


一瞬。


脳裏を過ぎる。


「…………っ」


アズサの右手が。


左腕を掴んだ。


ぎゅっと。


指に力が入る。


「アズサ?」


「……大丈夫です」


アズサは顔を上げる。


ヒナタはしばらく彼女を見つめ。


それ以上は聞かなかった。


「本当に……良かった」


ヒナタが静かに言う。


「あなたが無事で」


「…………」


そして。


再び作戦資料へ目を向ける。


「カイには――大きな借りができてしまいました」


「……はい」


あの時。


カイがいなければ。


自分たちはどうなっていたのか。


アズサにも分かっている。


だからこそ――。


「隊長」


「?」


アズサが一歩前へ出た。


「次の作戦」


ヒナタが彼女を見る。


「私も参加させてください」


「…………」


ヒナタの視線が。


アズサの左腕へ向く。


「アズサ」


「お願いします」


「…………」


アズサは拳を握った。


ヒナタは何も言わない。


アズサは真っ直ぐに彼女を見つめる。


やがて。


「……分かりました」


ヒナタが答えた。


「ジンには、私から言っておきます」


「ありがとうございます!」


「でも――」


ヒナタの声が少しだけ強くなる。


「無理はしないで」


「…………」


「怪我が治ったことと、無茶をしていいことは別です」


「それだけは約束してください」


アズサは。


力強く頷いた。


「はい」


ヒナタも小さく頷く。


そして再び。


二人の視線が。


作戦資料へ向けられた。


ホログラムの中央。


《第三食品加工工場》


その文字が。


静かに浮かんでいた。

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