↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/63

第29話 偽りの刃

Genesis本部。


その一室。


アンナは椅子に腰掛け、小さな通信機を握りしめていた。


掌に収まるほどの、小さな黒い端末。


三年前。


ファーストから渡されたものだ。


これを使って、アンナは何度もGenesisの情報を政府へ流してきた。


通信基地局への襲撃も。


第七物流センターでの作戦も。


そして――カイが捕らえられる原因となった情報も。


「…………」


アンナの指が、僅かに震える。


その背後では。


ジンとアキラが声を潜めて話していた。


「準備は?」


「問題ない。こいつから出る信号は全部拾える」


アキラは複数のホログラムを展開しながら答える。


「ただし、向こうに気づかれないように見るだけだ。こっちから余計な干渉はしない」


「ああ」


「通信経路も同時に追う。どこまで分かるかは……やってみないと何とも言えねぇけどな」


「十分だ」


二人の会話を聞きながら。


アンナは、作戦室でジンから告げられた言葉を思い返していた。


*


『アンナ』


作戦室。


ジンが全員を見渡した。


『これまで通り――内通者を続けろ』


『…………え?』


アンナが目を見開いた。


『ちょ、ちょっと待って……』


『もちろん、本当に情報を流せって意味じゃねぇ』


ジンは腕を組む。


『向こうはまだ、お前が俺たちに正体を明かしたことを知らない』


『…………』


『だったら、それを利用する』


ジンが作戦卓へ手をつく。


『今まで俺たちは、アンナを通して情報を抜かれてきた』


その目が鋭くなる。


『今度はそのパイプを――こっちから利用する』


アキラがホログラムを展開する。


『まずアンナには、今まで通り定期的に政府側へ報告してもらう』


『その通信を俺が横から拾う』


アキラが続ける。


『ただし、絶対に向こうには気づかせない。通信そのものには手を加えず、流れてる情報だけをこっちで複製する』


『そして――』


ジンが口を開く。


『一か月後』


作戦卓の上に、一つの施設が表示された。


《第三食品加工工場》


『ここをGenesisの主力が襲撃する』


『……本当に?』


アンナが尋ねる。


『ああ』


ジンが頷いた。


『ただし、襲うためじゃねぇ』


ホログラムの表示範囲が広がる。


工場。


その周辺を囲むように、複数の印が現れた。


『俺たちは事前に周辺へ戦力を潜ませる』


さらに。


巨大な装置が表示された。


『それと――ヤクに作らせる例の装置だ』


『通信妨害装置……』


ヒナタが呟く。


『そうだ』


アキラが説明を引き継ぐ。


『LEVEL1の俺たちと違って、ナンバーズの連中はブレインアーツをセントラルと深く連結することで膨大な演算支援を受けてる』


『…………』


『だからこそ、あいつらのブレインアーツは異常な出力を発揮できる』


第七物流センターで見た。


銀髪の女。


清水レイが使用した謎の力。


周囲を一瞬で凍結させた、あの力。


あれもブレインアーツによる力。


そうアキラは考えていた。


『なら――』


キリカが呟く。


『セントラルとの接続を切ればいい』


『正解』


アキラが笑う。


『ヤクさんに作ってもらう装置は、前回俺たちが食らった妨害を解析して、逆にセントラル側の接続へ干渉できるよう調整する』


『完全に切れる保証はまだねぇ』


アキラはそう付け加える。


『でも接続を乱せれば、少なくとも本来の力は出せなくなるはずだ』


ジンが頷く。


『そこを――叩く』


作戦卓に表示された工場を。


Genesisの印が取り囲む。


『敵は、俺たちの主力が来ると思ってナンバーズを送り込んでくる』


『そこを大勢で包囲する』


『そして――』


ジンが拳を握る。


『殺さずに捕らえるだと...?』


クナトが眉を寄せた。


『ああ』


ジンがアキラを見る。


『ナンバーズの一人を生け捕りにする』


アキラが口元を上げる。


『そいつのブレインアーツを俺が解析する』


『政府の中枢と直接繋がってる奴らなら、普通の兵士とは持ってる情報が違う』


『通信履歴』


『認証情報』


『接続経路』


『そのどれか一つでも抜ければ――』


アキラの表情から笑みが消える。


『カイがどこに連れていかれたのか、辿れるかもしれない』


『…………!』


アンナが息を呑む。


ジンは。


ゆっくりと彼女を見る。


『だからアンナ』


『…………』


『お前の力を貸してくれ』


*


「…………」


アンナは。


手の中の通信機を見つめた。


――ピッ。


突然。


端末が震える。


「……!」


アンナの肩が跳ねた。


アキラがすぐにホログラムへ向き直る。


「来た」


ジンも黙る。


「…………」


アンナは一度だけ深く息を吸い。


通信を繋いだ。


――ザッ。


微かなノイズ。


そして。


『――アンナ』


「…………」


聞き慣れた。


低い声。


脳裏に浮かぶ。


白い軍服を身に纏った男。


政府軍。ナンバーズの一人。


――ファースト。


『近況を報告してくれ』


「…………」


アンナは。


すぐには答えなかった。


その横顔を。


ジンとアキラが静かに見つめている。


やがて。


アンナが口を開いた。


「カイは……」


『…………』


「カイは……どうしているの」


僅かな沈黙。


そして。


『お前のおかげで』


ファーストが答える。


『我々は最優先目標――天城カイを確保することができた』


「…………カイっ」


アンナの指に力が入る。


『礼を言う』


「最優先……目標……?」


ジンの目が僅かに細くなった。


アキラも。


ホログラムを操作する手を止める。


「カイが最優先目標って...どういうこと……?」


『お前には関係のないことだ』


即答だった。


『それで』


ファーストの声色は変わらない。


『近況はどうなんだ、アンナ』


「…………」


アンナは目を閉じる。


大丈夫。


言われた通りに。


いつも通りに。


「……一か月後」


アキラの指が動き始める。


「第三食品加工工場」


『…………』


「そこを……Genesisが襲撃する予定よ」


『規模は?』


「十人程度」


アンナは答える。


「主力メンバーも……何人か参加する」


『……そうか』


短い沈黙。


『分かった』


「…………」


『引き続き――励むことだ』


――プツッ。


通信が切れた。


「…………」


部屋に静寂が戻る。


アンナは。


しばらく通信機を見つめていた。


「……ふぅ」


ようやく。


張り詰めていた息を吐く。


「よくやった」


ジンが静かに言う。


「…………」


アンナは小さく頷いた。


その横で。


アキラは猛烈な速度でホログラムを操作していた。


「…………」


指が走る。


複数のウィンドウが開く。


信号経路。


暗号化情報。


通信時間。


送受信量。


「……なるほど」


「何か分かったか?」


ジンが尋ねる。


「ああ」


アキラが一つの画面を拡大する。


「発信元は――中央都市のど真ん中」


「…………」


「セントラルヒルズだ」


ジンの表情が変わる。


「セントラルヒルズ……」


「ああ」


アキラが頷く。


「プライベート通信に使われてる暗号化方式についても、大体分かった」


さらに別の情報を表示する。


「トラフィック情報から、もう少し何か拾えるかと思ったんだけどな……」


アキラが頭を掻く。


「さすがに一回じゃ情報が少なすぎる」


「場所の特定は?」


「セントラルヒルズまでだ」


「…………」


「その先は何重にも経路を偽装されてる」


アキラが椅子へ深く座る。


「でも――」


その目が。


アンナの通信機へ向く。


「一回でここまで分かれば十分だ」


「…………」


「これからは」


アキラがアンナを見る。


「お前と政府側の通信は、全部俺に確認させてもらう」


アンナは。


少しだけ通信機を握りしめる。


それは。


三年間。


弟の命を繋ぐ唯一の糸だった。


同時に。


Genesisを裏切り続けた証でもある。


「……ええ」


アンナは。


ゆっくりと頷いた。


「分かったわ」


「…………」


ジンが二人を見る。


「とりあえず――」


壁に表示された日付へ視線を向ける。


「敵は一か月後」


《第三食品加工工場》


「ここに来る」


「…………」


ジンの目が鋭くなる。


「それまでに――出来る限りの準備をするぞ」


「ああ」


アキラが頷く。


「……ええ」


アンナも。


通信機を握ったまま頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。