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第22話 強敵

地下道。


薄暗い闇の中を、無数の足音が駆け抜けていた。


先頭を走るのは――クナト。


そのすぐ後ろを、ガザ。


さらに数人の第四番隊員たちが続いている。


全員がMURAMASAを起動。


強化された脚力で、凄まじい速度のまま地下道を疾走していた。


その後方。


ゴォォォォ――!!


重低音を響かせながら、五機のGenesis車両が続く。


先頭車両にはジン。


キリカ。


セイジ。


そして残りの車両には、武装した数十名のGenesis隊員たち。


誰も口を開かない。


聞こえてくるのは。


車両の駆動音と。


地下道を蹴る、第四番隊の足音だけ。


「…………」


クナトは前だけを見ていた。


脳裏から離れない。


あの金髪の少女。


巨大なギロチン。


そして――。


途絶えた通信。


「ヒナタ……」


小さく呟く。


「カイ……っ」


無事でいろ。


そう願いながら。


さらに速度を上げようとした。


その時。


クナトの目が見開かれる。


「――止まれっ!!」


直後。


ギギギギギッ!!


MURAMASAが唸りを上げた。


脚部から火花が飛び散る。


クナトが地面を滑りながら急停止。


「――っ!」


後ろを走っていたガザたちも次々と足を止める。


後方の車両も急ブレーキ。


甲高い摩擦音が地下道いっぱいに響き渡った。


「……おいおい」


ガザが前を見る。


そして。


乾いた笑いを漏らした。


「こいつは……」


クナトの顔から表情が消える。


目の前。


そこにいたのは――。


政府軍。


一人や二人ではない。


十人。


二十人。


そんな数ですらない。


広大な地下通路を。


埋め尽くさんばかりの大軍。


黒い装甲。


無数の銃器。


整然と並んだ兵士たちが、Genesisの増援部隊を待ち構えていた。


まるで。


ここを通ることまで――。


最初から知っていたかのように。


「…………」


クナトの手が震える。


「ヒナタ……カイ……っ!」


焦り。


腰の刀を一気に抜き放った。


シャキン――!


その背後。


車両の扉が次々と開く。


「全員降りろ!」


ジンが飛び降りる。


キリカ。


セイジ。


続いて数十名のGenesis隊員たち。


全員が武器を構え。


瞬く間に臨戦態勢へ移行した。


ジンが政府軍を見渡す。


「……ったく」


その口元に。


苦い笑みが浮かぶ。


「こいつはまた、手厚い歓迎だな」


「ジン」


キリカが前へ出る。


両手には二丁の拳銃。


視線は、眼前の大軍から一瞬たりとも離れない。


「カイたちが心配です」


二丁の銃口を持ち上げる。


「早く片付けて、先へ進みましょう」


「簡単に言いやがる」


ジンが肩を竦める。


だが。


その手はすでに銃へ伸びていた。


セイジが敵の配置を確認する。


「正面突破しかなさそうだ」


「ああ」


クナトが刀を構えた。


「だったら――」


MURAMASAが唸る。


「全部斬る」


「隊長」


ガザが隣へ並ぶ。


「焦りすぎて死ぬんじゃねぇぞ」


「うるせぇ」


「へいへい」


政府兵たちが一斉に銃を構える。


無数の照準光が。


Genesisの隊員たちへ向けられた。


ジンが前へ出る。


そして。


叫んだ。


「戦闘開始だッ!!」


次の瞬間。


銃声。


爆音。


金属音。


怒号。


静まり返っていた地下道が。


一瞬にして戦場へ変わった。


*


第七物流センター前。


「…………っ」


カイは息を呑んでいた。


状況は。


最悪だった。


いや。


最悪という言葉ですら足りない。


正面。


巨大なギロチンを肩へ担いだ金髪の少女。


サザメ。


その周囲を取り囲むように。


政府兵たちが並んでいる。


十数本もの銃口。


その全てが。


カイたちへ向けられていた。


そして。


その後ろ。


兵士たちが道を開ける。


コツ――。


コツ――。


一人の女が歩いてきた。


「…………!」


カイの瞳が大きく見開かれる。


銀色の髪。


白い外套。


細身の剣。


忘れるはずがない。


通信基地局。


自分を圧倒し。


そして――。


レンの身体を貫いた女。


「……お前」


カイの手に力が入る。


あの女の一撃が。


レンから記憶を奪うことになった。


清水レイ。


レイはカイを見た。


その表情は。


以前と変わらない。


冷たいほど静かだった。


「…………」


その少し後ろ。


ヒナタは倒れたアズサを抱き起こしていた。


「アズサ」


「……隊長……」


辛うじて意識はある。


だが。


まともに戦える状態ではない。


ヒナタはアズサを支えながら。


周囲を見渡す。


サザメ。


レイ。


そして。


大量の政府兵。


「……完全に」


ヒナタの表情が曇る。


「待ち伏せされてたってわけね……」


レイが口を開いた。


「サザメ」


「んー?」


サザメが振り返る。


レイの視線がカイへ向く。


「その男は最優先のターゲットだ」


「…………」


「殺すな」


「えー?」


サザメが不満そうに頬を膨らませる。


そして。


目の上に片手を当てた。


カイをじーっと見る。


「…………」


目を細め。


右へ。


左へ。


まるで珍しいものを見るように、カイを観察する。


やがて。


「あー!」


何かに気づいたように声を上げた。


「マスターが言ってた男の子!」


「…………っ」


カイの眉が動く。


サザメは楽しそうにカイへ近づいてくる。


「そうかそうかぁ。君がそうなんだー」


一歩。


また一歩。


「へぇー……」


赤い瞳が。


カイを舐め回すように見る。


そして。


「でもザンネーン……」


唇を歪める。


ぺろり。


舌が唇をなぞった。


「君の血、美味しそうなのになぁ」


「…………」


カイが刀を握り締める。


次の瞬間。


地面を蹴った。


「――っ!」


一閃。


サザメの首元へ刀が走る。


だが。


ガキィン!!


「わっ!」


サザメがギロチンの柄で刀を弾く。


勢いのまま。


僅かに後ろへ下がった。


「あっぶなーい!」


楽しそうな声。


「いきなり何するのぉ?」


カイは答えない。


刀を構え直す。


サザメが頬を膨らませた。


「でもさぁ」


笑う。


「今はあんまり抵抗しない方が、身のためだよぉ?」


「…………」


「だって――」


サザメが周囲を見る。


政府兵。


無数の銃口。


そして。


ヒナタとアズサ。


「あ」


サザメの顔が明るくなる。


「そうだ!」


レイへ振り返る。


「おねぇさま」


「なんだ」


「後ろの女二人は、殺しちゃっていいんだよね?」


ヒナタの表情が強張った。


レイは。


一瞬だけ二人を見る。


そして。


「ああ」


短く答えた。


サザメの顔いっぱいに。


笑顔が広がった。


「やったぁー!」


ギロチンを構える。


「じゃあ――」


腰を落とす。


「いっただきまーす!」


ドンッ!!


地面が弾けた。


「――!」


ヒナタが目を見開く。


速い。


一瞬で距離を詰めてくる。


アズサを抱えたままでは。


避けられない。


巨大な刃が。


二人へ迫る。


だが。


その間に。


黒い影が飛び込んだ。


ガァンッ!!


「……!」


サザメのギロチンが止まった。


カイ。


刀を両手で握り。


巨大な刃を受け止めている。


「カイ!」


ヒナタが叫ぶ。


「ぐっ……!」


腕が軋む。


重い。


小柄な少女から放たれているとは思えない。


圧倒的な力。


それでも。


カイは退かなかった。


「……やらせない」


「…………」


サザメが瞬きをする。


「あれあれぇ……?」


笑顔が。


少しずつ消えていく。


「ダメだよ、君ぃ」


赤い瞳が。


カイを捉える。


「邪魔は――」


ギロチンを引く。


「ダメだよ」


空気が変わった。


「サザメ」


後方から。


レイの声。


「やめろ」


だが。


サザメには届いていない。


「私の邪魔をするオモチャは――」


ギロチンを大きく振りかぶる。


「壊したくなっちゃうからっ!!」


「サザメ!」


レイの声が強くなる。


「その男は殺すな!」


だが。


すでに。


巨大な刃は振り抜かれていた。


渾身の一撃。


カイの身体を両断する軌道。


「カイ!!」


ヒナタの声。


カイは。


動かなかった。


逃げない。


刀も構えない。


ただ。


迫り来るサザメを見つめる。


「…………」


昨日まで。


何度も繰り返した。


マークII。


腕。


脚。


駆動系。


命令。


右を――左へ。


前を――後ろへ。


そして今。


目の前にいる少女の動きを。


見る。


感じる。


意識を集中する。


「――っ!」


カイが右手を突き出した。


その瞬間。


サザメの身体が。


ビクン――!


「……え?」


振り抜こうとしていた身体。


踏み込んだ右脚。


腰。


肩。


腕。


その連動が。


一瞬にして狂った。


右へ回転するはずだった身体が。


――逆へ。


「えっ?」


サザメ自身が。


自分の身体についていけない。


ぐるんっ!!


強制的に逆方向へ回転する。


巨大なギロチンがカイの横を通過。


完全に。


腹部が無防備になった。


カイの目が見開かれる。


「――今だ!」


踏み込む。


そして。


ドゴッ!!


「ぐっ!?」


カイの蹴りが。


サザメの腹部へ突き刺さった。


小柄な身体が浮く。


「――っ!?」


吹き飛ぶ。


何度も地面を転がり。


最後にはギロチンを地面へ突き立て。


ザザザザザッ!!


強引に勢いを殺した。


「…………」


静寂。


政府兵たちが。


一瞬。


動きを止める。


ヒナタも。


目を見開いていた。


「カイ……?」


そして。


レイ。


その瞳だけが。


明確に変わっていた。


鋭い眼光。


カイを射抜く。


「…………」


カイはゆっくりと足を下ろした。


右手を見る。


震えている。


だが。


できた。


マークIIだけじゃない。


実戦でも。


自分の意思で。


書き換えた。


カイは。


「ふぅ……」


一度。


深く息を吐く。


そして。


右手を強く握り締めた。


レイの声が響く。


「貴様……」


カイが顔を上げる。


銀色の髪の女と。


視線がぶつかる。


「今――」


レイの目が細くなる。


「何をした」

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