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第18話 新たな作戦

「……内通者?」


カイは動揺した面持ちで、ジンを見た。


突然、作戦室へ呼び止められたかと思えば、聞かされたのは予想もしなかった話だった。


Genesisの作戦情報が、政府側へ漏れている可能性がある。


「その可能性があるって話だ」


ジンが答える。


「まだ確定したわけじゃねぇ。だから――」


「いや」


割り込む声。


カイがそちらを見る。


クナトだった。


先ほどから不機嫌そうに顔をしかめていたクナトが、鋭い目でカイを見ている。


「必ず内通者はいる」


「クナト」


ジンが低い声で名前を呼ぶ。


だが、クナトは止まらなかった。


「それにな」


その視線が、カイを射抜く。


「俺はお前が一番怪しいと思ってる」


「……え?」


「天城カイ」


一瞬。


カイは言葉の意味を理解できなかった。


「いや……」


遅れて声が出る。


「俺は違いますよ!」


「どうだかな」


「クナト隊長」


今度はアキラが前へ出た。


普段の眠そうな表情は消えている。


「それはさすがに失礼じゃないですか。カイはGenesisのために、死ぬ気で努力してますよ」


「努力してりゃ疑われねぇのか?」


「そういう話じゃ――」


「じゃあ聞くぞ」


クナトが遮った。


そして再び、カイを見る。


「西条レン」


「……!」


その名前に、カイの身体が強張った。


「あの女はなんだ」


「レンが……?」


「聞けば、元政府軍の女って話じゃねぇか」


作戦室の空気が変わる。


「カイ」


クナトが一歩近づいた。


「お前が内通者じゃないとしても――」


鋭い視線が突き刺さる。


「西条レンが内通者って可能性はあるんじゃないのか?」


「それは……!」


カイは反射的に否定しようとした。


だが。


声が詰まった。


「レンは……記憶がないんです」


「…………」


「今は、自分が政府軍にいたことすら覚えてない。だから……」


拳を握る。


「そんなこと、できるわけがない……」


そう言い切った。


言い切った――はずだった。


それでも。


胸の奥に、小さな何かが引っかかった。


レンのことは信用している。


疑いたくなんてない。


でも――。


あの日。


政府に操られたレンは、カイに刃を向けた。


赤く染まった瞳で。


『カイ。死んで』


そう告げた。


通信基地局でも。


自分の意思と、セントラルからの命令との間で苦しんでいた。


ワクチンを投与し。


記憶を失い。


今はもう、あの頃のレンとは違う。


分かっている。


それでも――。


もし。


まだセントラルの干渉が完全に消えていなかったとしたら。


本人すら気づかないうちに、何かを送っていたとしたら。


「…………」


カイは押し黙った。


否定したい。


なのに。


完全に否定できる根拠を、自分は持っていなかった。


「――それはない」


アキラが言った。


クナトの視線が向く。


「西条レン。俺も、あの女を完全に信用したわけじゃない」


「おい、アキラっ……!」


カイが思わずアキラを見る。


「最後まで聞け」


「…………」


アキラが続ける。


「元政府軍。それもホルダー。しかもセントラルから直接干渉を受けていた」


端末を取り出す。


「警戒しない方がおかしい」


クナトの目が細くなる。


「だから、あの女には俺の監視プログラムを仕込んである」


「…………え?」


カイが固まった。


「……監視プログラム?」


「ああ」


「そんなもの、いつから……」


「ここに来てから」


「初耳だぞ……」


「言ってないからな」


「…………」


今それを問い詰めるべきなのか。


カイは少し迷ったが、やめた。


アキラが端末を操作する。


「外部との通信。セントラルへのアクセス。暗号化された信号。その他、不審なデータの送受信があれば、こっちですぐ分かるようにしてある」


クナトが尋ねる。


「それで?」


「何もない」


「…………」


「少なくとも西条レンがGenesisに来てから現在まで、外部へ不審な通信を送った記録は一度もない」


アキラは、はっきりと言った。


「彼女は白だ」


沈黙。


「……ちっ」


クナトが舌打ちする。


そして、そっぽを向いた。


「だったら誰なんだよ……」


小さな呟きだった。


怒りというより。


焦りに近かった。


これ以上、仲間を失いたくない。


その感情だけは、カイにも伝わった。


「この件は」


ジンが口を開く。


全員の視線が集まる。


「まだ、ここだけの話にしておいてくれ」


「…………」


「確証もねぇ段階で話を広めれば、余計な不安を生む」


ジンは作戦室にいる全員を見渡した。


「無駄な心配をさせたくねぇ」


「……分かった」


アキラが答える。


その場にいる者たちも、それぞれ小さく頷いた。


カイは少し迷ってから、ジンを見る。


「……ジン」


「あ?」


「どうして俺たちにも話したんですか?」


ジンがカイを見る。


「やっぱり……」


言いづらそうにしながらも、カイは続けた。


「レンのことを疑ってるんでしょうか」


「…………」


ジンはすぐには答えなかった。


少し考え。


「そうだな」


正直に認める。


「俺も、一番怪しいのは彼女だと考えてた」


カイの表情が曇る。


「だが」


ジンはアキラを見る。


「アキラがそこまで調べた上で白だって言うなら、そういうことなんだろう」


「…………」


「また少し考えるさ」


ジンはそう言って、話を切った。


そして。


ふと思い出したように、カイとアキラを見る。


「――そういや」


「?」


「お前らがここに来たってことは」


ジンの目が変わる。


「完成したのか?」


アキラの口元が上がった。


「……ああ」


不敵な笑み。


「カイの異能について、色々分かった」


クナトも振り返る。


キリカたちの視線も、カイへ向けられた。


「制限はある」


アキラが端末を作戦卓へ接続する。


空中に実験データが展開された。


アカツキ・マークII。


その戦闘記録。


そして、カイの異能が発動した瞬間のログ。


「以前みたいに偶然発動するだけじゃない。ある程度なら、自分の意思で使えるようになった」


「ほう」


ジンが画面を見る。


「それだけじゃない」


アキラが別のデータを開く。


マークIIの腕が、本来設定されていた攻撃地点とは異なる場所へ振り下ろされる。


「ジンが言ってた仮説」


アキラが笑う。


「データの改ざんについてもな」


ジンの表情が変わった。


「……それは本当か?」


「ああ」


即答だった。


「間違いない」


アキラが画面を指す。


「カイは、ただシステムデータを壊してるわけじゃない」


本来設定されていた攻撃座標。


その数値が。


別の値へと書き換わっている。


「システム上に存在する情報そのものを書き換えられる」


「…………」


作戦室にいる者たちが画面を見る。


ジンは腕を組んだ。


しばらく何も言わず、表示されたログを眺める。


やがて。


「……分かった」


顔を上げる。


「なら、まずは実戦でその力を確かめたい」


「実戦……?」


カイが聞き返した。


「ああ」


ジンが作戦卓を操作する。


マークIIのデータが消えた。


代わりに現れたのは――。


巨大な施設の立体図。


いくつもの倉庫。


巨大な搬入口。


整然と並ぶ輸送車両。


施設の各所に配置された監視設備。


「一週間後、次の作戦を実行する」


ジンが言う。


「お前たちにも参加してもらう」


「……次の作戦って?」


「政府の輸送基地への潜入だ」


「輸送基地……」


カイが立体図を見る。


「今回は奪いも、壊しもしねぇ」


「……じゃあ、何をするんですか?」


ジンが立体図の一角を指した。


そこに表示されたのは、一台の大型輸送車両。


「郊外にある第七物流センター。この施設は、中央都市へ物資を送り込むための中継地点だ」


別の情報が開く。


車両識別情報。


積荷情報。


運転者認証。


そして――。


《中央都市通行認証》


「毎日、ここから何十台もの輸送車両が中央都市へ入ってる」


ジンが、その認証情報を指した。


「俺たちが欲しいのは――こいつだ」


カイが画面を見る。


「これがあれば……」


「中央都市の検問を突破できる可能性がある」


アキラが答えた。


その目は、すでに表示された大量の認証情報を追っている。


「車両認証、積荷データ、通行許可……必要な情報を全部揃えられれば、正規の輸送車両として中央都市へ入れるかもしれない」


そこでアキラが僅かに眉を寄せる。


「ただし、認証情報をそのままコピーするだけじゃ危ない」


「どうして?」


「同じ認証情報を持つ車両が二台存在することになる」


アキラが二つの車両データを並べた。


「セントラル側で照合されたら、異常を検知される可能性がある」


「そこでだ」


ジンが笑った。


視線がカイへ向く。


「…………」


嫌な予感がした。


「カイ」


「……何ですか?」


ジンが認証データを指す。


「お前には、政府システムに新しい認証情報を書き込んでもらう」


「…………」


カイの表情が固まった。


訓練ではない。


アキラが用意したマークIIでもない。


本物の政府システム。


「それと――一つ条件がある」


「条件?」


「何があっても、お前の異能でシステムを止めるな」


「……!」


カイがジンを見る。


「監視装置も、警報も、認証システムもだ」


ジンは施設全体を指した。


「何か一つでも不自然に停止すれば、政府に侵入を悟られる可能性がある」


「今回は潜入作戦よ」


ヒナタが壁から背を離した。


「私たち5番隊が同行する」


カイがヒナタを見る。


「戦うことが目的じゃない」


ヒナタは立体図に映る監視設備へ目を向けた。


「入って、目的を果たして、出る」


そして。


カイを見る。


「私たちがそこにいた痕跡すら残さずにね」


「…………」


カイはもう一度、立体図を見る。


これまでとは違う。


壊すのでも。


止めるのでもない。


動いている政府のシステムに侵入し。


気づかれないまま――情報を書き換える。


自分にできるのか。


不安はある。


それでも。


カイは小さく頷いた。


「……分かりました」


ジンが煙草を咥える。


「作戦は一週間後だ」


火を点ける。


「5番隊は潜入準備。アキラは基地のシステムを可能な限り洗い出せ」


「了解」


「分かったわ」


最後に。


ジンはカイを見た。


「カイ」


「はい」


「お前は――」


煙を吐き出す。


「その一週間で、できる限り異能の精度を上げろ」


「…………」


カイは一瞬だけ黙り。


やがて。


「……分かりました」


そう答えた。


作戦卓には。


中央都市へと向かう輸送車両のルートが、一本の光となって伸びていた。

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