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第16話 成長

――キィンッ!


甲高い金属音が訓練所に響き渡った。


カイとキリカ。


二人の模擬刀が激しくぶつかり合う。


「っ……!」


カイが押し込む。


キリカは表情一つ変えず、その刃を受け流した。


「力むな。次の動作が丸分かりだぞっ」


「はいっ!」


カイが一歩踏み込む。


横薙ぎ。


キリカが身体を反らしてかわす。


そのまま返しの一撃――。


「……っ!」


カイは寸前で身を沈めた。


頭上をキリカの刃が通過する。


「ほう」


キリカの目が僅かに細くなる。


以前なら。


今ので終わっていた。


だが――。


この一か月。


午前はキリカとの訓練。


午後はアキラによる、アカツキ・マークIIとの戦闘実験。


下手をすれば本当に死ぬような攻撃を、何度も何度も避け続けてきた。


結果。


カイの動きは、明らかに変わっていた。


キリカが踏み込む。


突き。


カイは半歩だけ身体をずらす。


刃が頬の横を抜けた。


同時にキリカの懐へ。


「――っ!」


振り上げる。


キリカが模擬刀で受ける。


――キィン!


弾かれる。


だがカイは止まらない。


弾かれた勢いをそのまま利用して身体を回転させる。


もう一撃。


キリカが後ろへ下がる。


さらに。


「はっ!」


カイが一歩踏み込んだ。


キリカの視線が、その刃を追う。


正面。


――ではない。


カイは寸前で手首を返した。


軌道が変わる。


「!」


――スッ。


模擬刀の先端が。


キリカの肩を掠めた。


「…………」


二人の動きが止まった。


静寂。


カイが目を見開く。


キリカの肩。


そこへ視線を向ける。


そして――。


「……届いた」


「…………」


「いま、届きましたよね?」


思わず嬉しそうに笑う。


「キリカさん、いま――」


キリカの眉がぴくりと動いた。


「…………」


むすっ。


「え?」


次の瞬間。


――ドゴッ!!


「ぐふっ!?」


キリカの蹴りがカイの腹へ突き刺さった。


「っ……!」


カイが腹を押さえながら、その場に膝をつく。


「い、いきなり何するんですか……!」


キリカは模擬刀を肩へ乗せる。


「一撃当てた程度で気を抜くな」


「いや、でも……」


「隙だらけだ」


「…………」


「まだまだひよっこだな」


キリカはそう言って背を向ける。


「……はい」


カイは腹を押さえながら立ち上がった。


痛い。


ものすごく痛い。


それでも。


少しだけ嬉しかった。


初めてだった。


ずっと届かなかった相手に。


ようやく――一撃。


背を向けたキリカが、自分の肩を見る。


先ほど。


カイの模擬刀が触れた場所。


「…………」


その口元が。


ほんの僅かに緩んだ。


「……少しはマシになったか」


カイには聞こえないほど、小さな声だった。


     ◆


Genesis地下――実験区画。


「――来るぞ!」


アキラの声が通信機から響く。


――ゴォォォォォッ!!


巨大な機体が動いた。


アカツキ・マークII。


黒い巨体が床を踏み砕きながら、カイへ迫る。


「……っ!」


カイは構えた。


一か月前。


初めてこの機体と戦った時は、逃げ回るだけで精一杯だった。


だが。


今は違う。


マークIIの右腕が持ち上がる。


その肩。


肘。


手首。


駆動する関節をカイは見つめる。


――来る。


巨大な腕が振り下ろされた。


その瞬間。


カイは逃げなかった。


「…………」


意識を集中する。


マークIIを見る。


そして。


頭の中で――描く。


ここじゃない。


俺がいる場所じゃない。


もっと右。


その場所へ。


振り下ろせ。


一瞬。


視界の奥に、何かがちらついた。


数字。


文字。


光のようなもの。


だがカイは追わない。


ただイメージだけをぶつける。


「――そこだ!」


――ゴォン!!


「!」


マークIIの拳が。


カイの横――数メートル離れた床へ叩きつけられた。


床が砕ける。


衝撃が走る。


だが。


カイには当たっていない。


「よし!」


すぐに走る。


マークIIの腕が床へめり込んでいる。


その脇を抜ける。


「はっ!」


地面を蹴る。


そのまま――スライディング。


巨大な脚の間を潜り抜ける。


「っ……!」


背後へ。


マークIIが身体を反転させようとする。


だが――。


遅い。


カイは立ち上がると、その背中へ手を伸ばした。


指先が。


黒い装甲へ触れる。


「――《CODE:ZERO》」


瞬間。


――プツン。


マークIIの全身から力が抜けた。


駆動音が消える。


赤く光っていたセンサーが暗転した。


完全停止。


「…………」


カイはしばらく動かなかった。


やがて。


「……止まった」


息を吐く。


その場へ座り込みそうになるのを堪えた。


「今回は……結構うまくいった気がする」


数秒後。


実験場の扉が開いた。


「カイ!」


アキラが入ってくる。


片手には解析用端末。


いつもの眠そうな目。


その下には深い隈。


だが。


表情だけは明らかに嬉しそうだった。


「今回かなりよかったぞ」


「本当?」


「ああ」


アキラが端末を操作する。


大量のログが表示される。


「マークIIの制御も、かなり精度出てきてる」


カイがマークIIを見る。


「最初みたいに完全に止めるんじゃなくて……動きを変える方?」


「そう」


アキラが画面をスクロールする。


「さっきの右腕。本来の攻撃座標はお前がいた位置だった」


画面をカイへ見せる。


二つの軌道が表示されていた。


本来の軌道。


そして――実際にマークIIが動いた軌道。


「お前が異能を使った直後、ここの数値が変わってる」


「…………」


「命令そのものが書き換えられてる」


アキラの眠そうな目が、少しだけ輝く。


「それと――」


画面を切り替えた。


「この一か月のデータと、今日の戦闘結果から確信したことがある」


「何?」


「どうやら」


アキラが言う。


「少しのデータ改変なら、値を0にするより発動までの時間が短い」


「……短い?」


「ああ」


アキラが過去の実験結果を並べる。


「マークIIを完全停止させる時は、今でもある程度集中する時間が必要だ」


「うん」


「でも攻撃方向をずらすとか、腕の角度を変えるとか……そういう小さな干渉はかなり速くなってる」


カイは黙って自分の手を見る。


確かに。


さっきは。


止めようとはしていなかった。


ただ――。


別の場所へ拳を振り下ろすマークIIを想像した。


「おそらく」


アキラが続ける。


「イメージした動きを、そのまま相手にぶつけてる感じなんだろうな」


「…………」


カイは考える。


そして。


「確かに、その感覚はある」


「だろ?」


「完全に停止させようとすると……なんていうか、頭の中で無理やり全部押さえ込む感じがする」


カイは言葉を探す。


「でも、攻撃を逸らしたりするだけなら……」


拳を握る。


「こう動けって思うだけでいいというか」


「なるほどな……」


アキラはすぐに端末へ入力する。


カイが苦笑した。


「本当に楽しそうだな……」


「当たり前だろ」


即答だった。


アキラの目が輝く。


挿絵(By みてみん)


「自分で組んだマークIIの制御命令が、目の前で直接書き換えられてるんだぞ?」


「そこ喜ぶところなの?」


「最高だろ」


「俺には分からない……」


「だからお前はダメなんだ」


「そこまで言われるんだ……」


アキラは端末を閉じた。


「まあ――」


マークIIを見る。


「これで十分だろ」


「え?」


「ジンの所に行くぞ」


カイがアキラを見る。


さっきまでとは違う声だった。


「…………」


何のためにこの一か月、能力を制御する訓練を続けてきたのか。


その目的を。


カイも分かっていた。


中央都市。


九つの検問。


LEVEL3以上しか入ることのできない場所。


そして、その奥に存在する――。


中央都市第三データセンター。


《GENESIS》


カイは小さく息を吸った。


「……分かった」


二人は並んで、実験場の出口へ歩き出した。


背後には。


沈黙したアカツキ・マークIIだけが残されていた。

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