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407号室の男  作者: 黒瀬雷牙


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8/11

第七話 407号室

 デイブを倉庫へ運び込んだ翌日。


 俺達は倉庫に集まっていた。


 机を挟み、ラモン、ジャック、ジェイク、そして信用できる連中が数人。


 誰も冗談を言わない。


 空気が重い。


「そのジニアスで確定だな」


 ラモンが言った。俺は煙草の煙を吐く。


「ああ」


 異論はなかった。


 407号室。

 深夜の異音。

 黒い袋。

 奈落のような瞳。

 そしてデイブの言葉。


 全部が一本に繋がっている。


「今夜行く」


 俺が言う。ラモンが頷いた。


「何人連れていく」


「多すぎても邪魔だ」


 俺は周囲を見回した。


「俺とラモン」


「おう」


「それから腕の立つ奴を四人」


 全員が頷く。


 六人、十分だった。

 だがジャックが口を開く。


「俺は反対だ」


 皆がそちらを見る。


「理由は?」


「こんなことを一人でやってるとは思えない」


 ジャックは真面目な顔だった。


「仲間がいる可能性がある」


 確かにそうだ。


 ダークウェブの販売所。

 施設、運び屋、そしてダルマ作り。


 あの弱そうな男一人で全部処理するには無理がある。


 ジェイクも頷いた。


「俺もそう思う」


「ならどうする」


 ジャックは机を指で叩いた。


「俺とジェイクは外で待機する」


 ラモンが眉をひそめた。


「ビビったか?」


「違う」


 ジャックは即答した。


「逃げる奴を見張る」


 その言葉に反論はなかった。


「何かあれば突入する」


「了解だ」


 計画は決まった。


 その夜、俺達はマンションへ戻った。

 時刻は午後十一時過ぎ。


 住人のほとんどは寝ている時間だった。

 一階のロビー、管理人の老人が俺達を見る。


「お、お前達……」


「話がある」


 俺はそう言った。


 老人は青ざめた。事情を説明すると、管理人は顔色を失った。


「まさか……」


「407号室の鍵を開けろ」


 老人の手が震えていた。


「本当にやるのか」


「ああ」


 しばらく沈黙。

 そして老人は諦めたように頷いた。


「分かった……」


 鍵束が取り出される。

 古びた階段を上る。


 二階、三階、四階。

 廊下は静かだった。


 407号室、そこだけが妙に暗く見えた。


 管理人が鍵を差し込む。


 カチリ。小さな音。


「開いた」


 老人の声が震える。


 俺はドアノブを握った。


「下がってろ」


 そして扉を開く。部屋の中は静まり返っていた。


 誰もいない。


「……」


 俺達は中へ入る。

 その瞬間だった。

 全員が足を止める。


「なんだよ……これ」


 誰かが呟いた。


 普通の部屋じゃなかった。

 床は異様なほど綺麗だった。

 金属製の棚。

 大量の薬品。

 医療器具。

 ライト。

 ステンレスの作業台。


 まるで病院だった。

 いや、病院の手術室。


 その言葉が真っ先に浮かんだ。


 ラモンが顔をしかめる。


「気持ち悪ぃ……」


 部屋の奥。


 白い光が漏れている。そこに人影が見えた。


 一人、椅子に座っている。

 黒縁眼鏡、白衣、細い身体。

 ガスマスク。その瞬間、嫌な予感が背筋を走った。


 男はゆっくり顔を上げた。


「よう、ジニアス」


 俺は圧力をかける。だが男は動じない。

 まるで予想していたかのようだった。


「不法侵入だぞ」


 静かな声だった。感情がない。


「デイブの仇だ」


 俺が言う。


「知らないな」


「嘘をつけ」


「証拠は?」


 その瞬間、俺は異変に気付いた。

 何か臭う。甘いような、妙な臭い。


「……待て」


 言い終わる前だった。

 視界が揺れる。


「キング?」


 ラモンの声。

 遠い、足に力が入らない。


 まずい。罠だ。


「逃げ――」


 言葉が最後まで出なかった。

 膝が崩れる。仲間達も次々と倒れていく。

 誰かが銃を抜こうとしていた。


 だが間に合わない。

 視界が暗くなる。


 最後に見えたのは、ガスマスク越しにこちらを見下ろすジニアスの姿だった。


 そして、男は初めて笑った。


 真っ黒な笑みだった。

 そこで俺の意識は途切れた。

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