第六話 取り返した仲間
配送予定の日。
倉庫には重苦しい空気が漂っていた。俺は煙草を咥えたまま壁にもたれている。
ラモン。
ジャック。
ジェイク。
そして信用できる連中を合わせて十人。
全員が武装していた。
「来ると思うか」
ラモンが尋ねる。
「来るだろ」
俺は短く答えた。
「金は払った」
「随分律儀な殺人鬼だな」
誰も笑わなかった。時計の針が進む。
そして、午前零時。
倉庫の外で車の音が止まった。
全員の緊張が高まる。ジャックが監視カメラを確認した。
「来た」
画面には白い配送バンが映っていた。
どこにでもありそうな車。
それが逆に不気味だった。
男が一人降りてくる。
痩せた中年男、作業着姿。
武器は見当たらない。
「一人か」
ジェイクが呟く。
「怪しいな」
男は倉庫の前まで来ると、何事もないように荷台を開いた。中には大きな樽が積まれていた。
「配送です」
男は事務的に言った。
まるで宅配便だった。その異常さに誰も言葉を失う。
「中を確認する」
俺が言う。
「どうぞ」
男は、嫌になるほど素直だった。
そして蓋を開く。誰も言葉を発しなかった。
俺は一瞬、理解できなかった。
脳が現実を拒絶した。
樽の中、緩衝材のように詰め込まれた布。
その中央に、デイブがいた。
顔は間違いなくデイブだった。
十年以上付き合った相棒だ、見間違えるはずがない。
だが、その姿は人間の形をしていなかった。
「……」
誰も喋らない。
「捕まえろ」
ラモンが言う。
次の瞬間、男は床に押し倒されていた。
数人がかりで拘束される。
「待ってくれ!俺は何も知らない!」
「嘘つけ」
ジェイクが吐き捨てた。
「本当なんだ!頼む!俺は運んだだけなんだ!」
ジャックが睨む。
「誰の指示だ」
「知らない!」
「Dr.Deathはどこだ」
「知らない!」
男は何度も首を振る。
「借金があったんだ!」
その言葉で少し空気が変わった。
「借金?」
「返せなかったんだ!」
男は涙を流し始めた。
「選べって言われたんだよ!」
「何をだ」
「運ぶか、俺が売られるか!」
倉庫が静まり返る。男は完全に怯えていた。
「住所だけ送られてくるんだ!本当にそれだけなんだ!」
嘘には見えなかった。少なくとも、この男は末端だ。ただの捨て駒。
Dr.Deathから見れば道具以下なのだろう。
ラモンが舌打ちした。
「クソッ」
「ハズレだな」
ジェイクも顔をしかめる。
結局、男から有益な情報は何一つ出なかった。
俺は興味を失った。
デイブは虚ろな目で天井を見ていた。
瞬きすら少ない。
まるで壊れた人形だった。
俺は樽の横に膝をつく。
「デイブ」
反応はない。
「おい、俺だ」
沈黙。
「キングだ」
何も起きない。
胸の奥が軋む。
いつも隣にいた男だ。
毎朝ロビーで煙草を吸っていた男だ。
くだらない冗談を言っていた男だ。
それが今は――。
「おい、馬鹿野郎、起きろ」
反応なし。
「酒飲みに行くぞ」
反応なし。
「ハンバーガー奢ってやる」
反応なし。
倉庫の空気が重くなる。
誰も何も言えなかった。
そして、ほんの一瞬だった。
デイブの瞳が揺れた。
微かに。本当に微かに。
焦点が合う。
俺を見る。
「……デイブ?」
「……キング……」
「デイブ!」
瞳に僅かな光が戻る。唇が震える。
必死に何かを伝えようとしている。
「……ジ……」
「何だ?」
「……ジ……ニ……」
声にならない。喉から掠れた音だけが漏れる。
「ジニ?」
デイブの目から涙が流れた。
それで十分だった。
俺はあの男を知っている。
407号室の住人。
奈落のような瞳をした男。
ジニアス。
胸の奥で何かが繋がった。
次の瞬間、デイブの瞳から再び光が消えた。
壊れた人形のように天井を見上げる。
「おい! デイブ!」
返事はない。倉庫は静まり返っていた。




