第5話:紅蓮の怒りと、震える背中
「……てめぇら、俺の女の家で何をしてやがる」
氷のように冷たく、それでいて血の匂いを纏った蓮さんの声が、玄関に響き渡った。
敵対組織の男たち三人が、一瞬で凍りつく。
私の目の前には、黒いジャケットを血で汚し、息を荒げた蓮さんが立っていた。その眼光は、先ほどまでの穏やかな顔とは全く違う、獲物を狙う猛獣そのものだ。
「なっ……! 若頭、なぜここに……!」
「てめぇらの動きくらい、とっくに読めてるんだよ。俺の目を盗んで、お嬢の住処を荒らそうとした代償は、高くつくぜ?」
彼が懐から黒光りする銃を取り出すよりも早かった。
蓮さんは圧倒的な体捌きで間合いを詰め、敵の腕を容赦なく捻り上げた。鈍い骨の音が響き、男が悲鳴を上げる。
無駄のない、あまりにも残酷で美しい暴力。
私はキッチンの隅で、自分の口元を手で押さえた。
「蓮さん……っ」
「(……怖い。でも、私を助けに来てくれた)」
わずか数分で、敵の男たちは床に転がり、動かなくなった。
蓮さんは乱れた前髪をかき上げながら、ゆっくりと振り返り、私の方へ歩み寄ってくる。
その足取りが少しだけふらついていたことに、私は気がついた。
「……お嬢、怪我はねぇか?」
「私は大丈夫です……! でも、蓮さん、その腕……血が……!」
彼の右腕の袖が赤く染まっている。
私は我慢できずに立ち上がり、彼の胸に飛び込んでしまった。蓮さんの温かい体温と、タバコや火薬の混ざった匂いが全身を包み込む。
「ばか、触るな。汚れるだろ」
「汚れてなんていません! ……本当に、死んじゃうかと思いました」
私が涙ぐみながら蓮さんの背中にしがみつくと、彼の腕がゆっくりと上がり、私の背中をそっと抱き締めた。いつもよりずっと強く、けれどとても優しい力で。
「……泣くな。俺がいるって言ったろ。お前を傷つける奴は、この街のどこの穴に隠れていようが、俺が全部消し去る」
蓮さんの声が、耳元で震えている。
彼は強がっているけれど、きっと私を守るために、ものすごい数の敵と戦ってきてくれたのだ。
「……はい。ごめんなさい、蓮さん」
「……ちっ、まったく。お前は本当に目を離せねぇな」
彼はそう言って、私の頭を優しく撫でた。
裏社会の若頭が見せる、不器用で、誰よりも温かい愛情。私は彼の腕の中で、心からこの場所が自分の居場所だと確信していた。
第5話・完
面白いと思ったら、ブックマーク登録と「★★★★★」の評価をお願いします!
皆様の応援が、ひなたと蓮の危険な恋を後押しします!




