道は前に続いている
百代のお葬式は、親族だけで静かに執り行われる、小さな葬儀だった。
俺は祖母のお葬式用に準備していた喪服に、こちらのお葬式で初めて袖を通すことになった。
白い棺に横たわる百代を見て、俺は違和感しかなかった。
仮存街での葬送に慣れすぎていたせいもあるのかもしれない。
一か月の間に、祖母を亡くし、三人の友人が亡くなった。冷静に考えれば、こんなことは異常な出来事なんだと思う。
笑顔でお別れできたあの街とは違って、無言の別れは思った以上につらかった。
何とか松葉杖で歩けるようになった足で棺に近づく。
魂のない百代の身体は、白くて小さく、空っぽという印象を受けた。
俺は受け取った花を百代の顔の横に置き、そのあとポケットから取り出したヘアバンドを畳んで、その近くに置いた。このヘアバンドは、もう俺にとっては百代のものだから。
ふと胸元の方を見ると、あの『星の王子さま』の本が置かれていて、不思議な気がした。
俺と介助で付き添ってくれた兄は、親族だけのお葬式では部外者で、居心地はあまり良くない。
百代の親戚たちは、百代の死を悲しむというより、看病を頑張った末に子供を失うことになった夫婦を慰める空気だった。
葬式とは、死者のためではなく遺された人のための儀式だと聞いたことがある。きっと、これが正しいのだろう。
だから俺は車椅子に座り、ただ祭壇に飾られた百代の写真を見つめ続けることしかできなかった。
はにかんだような笑顔で遠慮がちに笑う百代の表情が、どこか百代らしくないのもあるのだろう。
俺も、この葬式という空間が百代とのお別れの場には思えなかった。
葬式が終わったあと、棺の百代に「またな」とだけ声をかけて、俺は式場をあとにした。
「またな」と言ってはみたけど、その言葉の意味が心にしっくりきていない。
互いに転生して会えたとしても、それは俺と百代なのだろうか。
松尾は「関係は続く」と言っていた。
でも俺にとって百代は、あの百代しかいない。
別の姿になった百代なんて、まだ想像できなかった。
「大丈夫か?」
隣で運転している兄が、俺に話しかけてくる。
「うん。こういう形でも、話をして、お別れできて良かった。
兄貴、ありがとう」
「そっか」
兄はそれ以上何も言わなかった。
「……リハビリが済んだらさ……俺も免許取ろうかな。そしたらもっといろんな所に行けるし……」
「いいね。そしたら俺は助手席で楽できる」
その言葉に、気持ちが少し楽になる。
「そのためにも頑張らないと!」
俺の背中を押してくれた仮存街の人たちのためにも、心配ばかりかけた家族のためにも、まずは一歩ずつ前に進もう。
「退院したら……髪、赤く染めようかな」
「何だそれ! お前、なんかハジけようとしてるか?」
「俺の青春は、これからっ! ってね」
「おぉ、今を楽しめ若人よ」
兄がふざけてそんな言葉を返してきたので、思わず笑ってしまった。
俺はフロントガラスの向こうを流れていく景色を見つめながら、そっと目を細めた。
この後、後書として簡単な物語の説明をさせていただいております。
ご興味があればどうぞ。




