目覚め
目を再び開けると、白い天井が見えた。
ピッ ピッ ピッ ピッ
電子音がより大きく聞こえる。起きようとしたが、身体が異様に重く、起き上がれない。相撲取りが身体の上に乗っていると思うくらい重い。
「奥野さん!」
「奥野さん、起きられたんですね。
ここは病院です! わかりますか」
覗き込んできたのは、見たことのある看護師さん。胸のプレートには【生方】と書いてある。どこで見たのだろうか?
走ってきた誰かが俺を呼ぶ。そちらに体を向けようとしたけどそれも辛いほど体が動かない。
「びょう、いん?」
「はい! 奥野さんは事故に合われてこの病院に運び込まれたんですよ!
そして一週間眠られていたんです。
気分はいかがですか? 苦しいところとかありませんか」
「きぶん……」
ぼんやりと答える俺に、看護師さんは優しく微笑む。
「まず、ご自分のお名前は分かりますか?」
「奥野正道 誕生日はーー」
以前怪我で入院していた時の癖で、病院的な返しをして苦笑してしまう。
俺の言葉に看護師さんは嬉しそうな笑顔を返す。
少しずつ意識がはっきりしてくる。
今の状況を伝えなきゃならない人のことを、思い出す。
「家族は」
「ご家族の方はもうすぐいらっしゃると思います!
皆さん大喜びになると思いますよ!
ほら! 面会時間まだなので!」
俺の脇に体温計を挟み、反対の腕で血圧を測りながら看護師さんは答える。
その元気な声で、記憶が少しずつ蘇ってくる。
「UV対策の服で、警備の人に止められた方ですよね?」
少しボーとしていたためか、頭の中で考えていたことがそのまま口に出てしまった。
看護師さんはびっくりしたように目も見開き俺を見て、頬を赤くしバタバタと体を動かし慌てる。
「恥ずかしい! 話聞いてくださっていたんですね!
はい! その看護師は私です。
もう受付の人にも顔を覚えてもらえて、最近は無事通っています。
苦笑いの状態ですけど」
その言葉に笑ってはいけないと思うけど笑ってしまった。笑うと少し胸が痛く体が少しキツくなった。
俺が起きたのは明け方だったようだ。六時過ぎてから廊下も慌ただしくなり新しい一日が動き出す。
8時超えたあたりで、主治医という人がやってきて、俺の今現在の状況と今後の治療スケジュールについて説明を受けた。
医師の指示で、寝たまま足や指を動かしてみたが、自分の身体じゃないみたいに動かすのが難しかった。
普通の生活を取り戻せるのか不安になっている俺に、医師は「リハビリは辛いと思うけど、それを頑張ればある程度は取り戻せるから」と励ましてくれた。しかし同時に、元通りになる保証はないという現実も告げられた。
午前中は水が飲めるかの嚥下テスト、さまざまな精密検査で病院内のあちこちへ移動させられて、かなり疲れてしまった。
疲れて寝たら、うっかり仮存街に戻るのではとも思ったが、夢さえ見なかった。
枕元が騒がしくて目を開けると、両親と兄が病室にいた。
「正道!」
俺が目を開けると、俺の名前を呼び母が俺を抱きしめる。
「ゴメン、心配かけて」
しばらく使ってなかったのか、ずっと俺の声がしゃがれている。
母は首を横にふり、「いいのよ、いいのよ」と言葉を繰り返す。
「やっと起きて良かったよ! お姫様なら王子様が起こしてくれるけど、お前みたいなヤロウが寝てても困るだけだからな」
兄がそう言ってニヤリと笑ってきた。
「ゴメン」
俺は家族にはそんな言葉しか返せなかった。
申し訳ない気持ちから、俺にテンション高めに話しかけてくる家族の言葉を聞いていることしかできなかった。
「あとね、正道」
母が少し言いにくそうに言葉を切る。
「お婆ちゃん、亡くなったの」
俺は頷く。
「分かってる。会ったから。
俺は『戻れ。母さんたちが待ってるから早く帰りなさい』って怒られた」
俺の言葉に母は涙ぐみながら笑った。
「お母さんが、正道を戻してくれたのね」
「正道のことを一番可愛がってたものな、婆ちゃん」
「婆ちゃん、あっちでは元気そうだった」
「お義母さんにお礼しないとな」
父がしみじみとそう言った。
「リハビリ頑張れよ。そして皆んなで墓参りしよう。お婆ちゃんも喜ぶよ」
家族を安心させるためにも頑張らないといけない。
お婆ちゃんだけでなく、仮存街で出会ったみんながくれた想いを胸に。
俺は、リハビリを頑張ろうと心に誓った。




