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奥野、細道へ  作者: 白い黒猫
帰り道

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30/36

壮行会

 その夜は、俺の部屋で夜通し百代と松尾の三人で語り合った。

 話す内容は、三里さんのことや、この街での思い出ばかりだった。

 楽しかったけど、寂しさ切なさという色を帯びていた。

 ヘアバンドをしたままの百代はいつもより幼く無邪気で甘えん坊で、いつも以上に俺の名前を連呼していた。

 明け方ソファーで少し寝落ちしてしまい、朝になり松尾の『朝食できたよ〜」という声で起こされ、三人で朝飯を食べる。

 いつものような朝でいて、ほんの少しだけ皆妙にテンションが高くぎこちない。

 三人で着替えて、俺はトランクと寄せ書きボールと百代からもらった本を入れたトートバックをラウンジに下ろす。

 俺の荷物にチラッとだけ視線を向けてから俺に向き直りニヤリと笑う。

「まだフェリーの時間まで三時間あるから、マルコカートやらね?」

 俺は笑い頷く。

「いいね! 今日は負けないよ!」

 カラオケルームで、並んでスクリーンを見つめ、二人でコントローラーを操る。

 その様子を松尾が微笑ましそうに見守っている。

 今日は百代の調子あまり良くなく、十回やって八戦俺の勝利という結果になった。そんなに負けているのに、百代はそんなに悔しそうでもない。

「あれ? もしかして接待マルカ」

 俺が冗談めかしていうと、百代は顔を顰める。

「ちゃうわい、今日は寝不足で調子でてないだけ!」

 そういった時、二木荘の管理人河合さん訪れてきた。

「実は、フェリー乗り場で二木荘の皆が祝宴始めてしまっていて。

 もし良かったら……」

 少し遠慮気味にそう言ってくる。

 フェリー乗り場。


 普通は閉ざされている場所。


 そこに二木荘のみんなが集まって、俺の旅立ちを祝ってくれる。


 そう思った瞬間、胸の奥が少し熱くなった。


 嬉しいのに、なんだか申し訳なくて。


 俺は慌ててコントローラーを置いた。

 百代は、大きく息を吐きコントローラを置いた。


 いつもはロープで封鎖されているフェリー乗り場は今日は賑わっていた。

 ここにきた時も船から降りて松尾迎えられた。

 駅やバスステーションとは異なり、ベンチが配置されていて、普通のフェリー乗り場のようだった。

 今にして思えば、乗客は俺だけではなく、それぞれ誰か迎えにきていて、離れたところで俺と同じように街の説明を受けていた。


 しかし今は、フェリーが既に海に浮かんでいる。

 乗り場の一角に折りたたみ式のテーブルが並べられた空間が作られている。

 そこにラップをかけられた寿司桶とコップが並べられている。


 そして搭乗ゲートの上に来た時にはなかった布がかかげられている。


【祝 奥野君 帰還】


 すごい達筆で墨で力強く書かれている。

 俺がロビーに入ると大きな拍手が起きる!


「正道くんおめでとう!」

 二木荘の皆んなに囲まれてお祝いの言葉をもらう。

「ありがとうございます。

 しかもこんな見事な横断幕まで」

「杉さんは、ちょっと名の知れた書道家だからね! いい感じでしょ」

 杉さんではないと思われる人が何故か自慢げに説明してくれる。

 後ろの方でニコニコ笑っている人が多分杉さん。俺はお礼をいい頭を下げる。

「久しぶりに、こうして仕事として書を書くのもいいものだったよ」

 杉さんは嬉しそうに答えてくれて。

 百代は俺の荷物を代わりに持ち少し離れ、ロビーの端っこにあるベンチのそばに移動させた。

「関さんが寿司握ってくれたのよ? 食べましょう?

 ほら、栖くんも来なさい! 霞ちゃん、お腹空いたでしょ?」

 いつの間にか荷物番のように俺の荷物の横に並んで立っていた百代と春立さんにお婆ちゃんが、声をかける。

 春立さんは今日は向日葵の絵が大胆に描かれたシンプルなラインのワンピースを着ていてショルダーバッグを斜めがけしている。

 どちらも市販のものではなくハンドメイドのようで、春立さんを可愛らしく彩っている。

 春立さんはチラっと百代を見る。百代はそれに気がつき笑みを作り、春立さんの手を引きコチラへ歩いてきた。

「回っている寿司と一緒にするなよ!

 俺が朝からスーパーで目利きして選んだ魚だからな!l」

 関さんと思われる男性が自慢げに声を出す。

 桶に並べられた寿司は色も鮮やかでツヤツヤして、どれも美味しそうだった。

「そういや俺、寿司って食べたことないかも」

 皆がビックリした顔をしたので、百代は少し気まずそうな顔をする。

「胃腸が弱かったから、生のモノ食べられなかったんです。

 本とかテレビとかで美味しそうだなとは思っていました」

 だから嬉しい」

 そう言って、笑顔を作る。

 関さんは笑って頷く。

「坊主の初めてのお寿司が、俺の寿司なのは光栄だ!

 遠慮なく食べてくれ。

 霞ちゃんも初めてか?

 なら玉あたりからいくのがいいかな?

 二人ともアレルギーとかないか?」

 春立さんは首を傾げ、百代は首を横に振る。

「アレルギーは体の反応なので、魂には起こらないので大丈夫よ。

 ただ、トラウマレベルに嫌いな食べ物が好きになる事はないけど……」

 二木荘の管理人河合さん言葉に、皆が「それなら安心ね」と言っても、小皿を用意し始める。 

 俺の両サイドに百代と春立さん。百代隣に松尾。春立さんの隣は春立さんを可愛がってくれているお婆ちゃん

 そして俺の送迎会がスタートした。


「皆様のおかげで、俺は今日、船に乗って旅立つことになりました。


 俺のために、このような席を設けていただき、本当にありがとうございます。


 この街で皆さんと過ごした時間は、俺にとって一生忘れられない、大切な時間です。


 本当にありがとうございました」

 皆の前で「現世に戻る」という言葉は使いにくい。だから俺は、旅立つという言葉で感謝を伝えた。


 大きな拍手が起こる。俺はもう一度、深く頭を下げた。

「おめでとう、めでたいわね〜」

 そう言いながら、皆が紙コップを掲げる。

「奥野くんの旅たちに〜」

 元甲子園球児だったおじいちゃんが、大きな声で音頭をとる。

「乾杯!!」

 隣から、ジュースを持った春立さんの「カァンパイ」という声が遅れて聞こえる。

「坊主、何から食べる?」

「じゃあ……マグロ」

「どうだ?」

「面白い食感で不思議な味。でも美味しいです」

 百代と関さんが話す横で、おばあちゃんが春立さんにお寿司を取り分け食べさせてあげている。

「で、ニイチャンは還ったら、またサッカーやるんか?」

 その間、他の人は俺に話しかけてくる。

「いえ、実は膝をやっちゃって、競技をするには難しくなってしまって……。

 だから今大学で色々やりたいことを模索しているところでした」

 元甲子園球児のおじちゃんは目を細める。過去を振り返るように。

「ニイチャンは、サッカーは好きか? それとも嫌になってしまったか?」

「いえ、好きですよ」

 俺が答えるとおじいちゃんは嬉しそうに笑った。

「なら、ええ! そのまま好きでサッカーと付き合っていけ! いろんな付き合いかたあるからな! 

 そして真剣に何かに向き合ってきたという体験は、人生のいろんな場面で、きっと生きてくるから」

「おっ、譲さんが、珍しく良い事言ってる!」

「ウルセェ!」

 俺の仮存街での最後の時間は、二木荘の皆さんのおかげで賑やかなものになった。

 しかし正午が近づくにつれ、隣で俺に話しかけてきていた百代の口数が少なくなっていった。

思ったよりも物語が、長くなったので章をつけて流を見やすくしておきました。如何でしょうか?

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