持って帰るモノ
俺はアパートで自分の部屋を見渡す。
旅立ちのためのパッキング中。
なぜか百代と松尾に見守られながら、俺はその作業をしていた。
クローゼットから出したトランクを開き、荷物を詰めていくが、意外にトランクに入るものは少ない。
複数人部屋の寮生活をしていた影響か、あまり私物を部屋に持ち込むということをしていなかったようだ。
この部屋にいたのはコチラの街時間で十日程。家具家電付きというのもあって、持ち込んだものが少ないのもあるのかもしれない。食器も元々この部屋にあった。
皆の寄せ書きボールはバッグに入れるとして、ランニングウェアにスニーカーを入れたとしてもトランクは半分埋まっただけ。
「荷造りもう終わったの?」
部屋のソファーに座っていた百代が声をかけてくる。
「そうみたい……部屋に置いていた荷物、思ったよりも少なかったみたいで」
百代は立ち上がり、俺のトランクを見下ろしてくる。視線を椅子に座っていた松尾へと向ける。
「モノを何か記念にもらうって出来るの?」
松尾は頷く。
「問題ないはず。当人同士の了解があれば」
百代は俺に視線を戻す。
「ヘアバンドでもいいから、俺に何かくれない? 俺のモノも渡すから!」
「良いよ」
俺はトランクから青いヘアバンドを取り出して渡す。
「コレ、俺の高校のチームカラーって事もあって、一番使ってたお気に入りのヤツなんだ。コレで良かったら」
「えっ、お気に入りなんだろ?」
「だから」
百代は受け取り、手に取ったヘアバンドをジッと見つめた。
おもむろにヘアバンドを付けて、俺に向かってニカリと笑う。
「似合う?」
青みを帯びた髪にブルーのヘアバンドの相性が良く、結構良い感じだった。
「良いじゃん! コレを機にランニングする?」
俺の言葉に苦笑して顔を横に振る百代。
「いや、ゲームする時、邪魔な前髪を上げるのに使わせてもらうわ」
その様子が想像できて笑ってしまう。
「松尾もいる?」
「え? 俺もいいの?」
松尾は驚いたように目を丸くする。
「松尾には散々お世話になったし。
逆にショボいもので申し訳ないけど」
松尾は少し照れたように笑った。
「ありがとう。嬉しいよ」
そう言って受け取ってくれた。
いつの間にか自分の部屋に走って戻っていた百代が、本を手に戻ってきた。
「コレ、俺が子供の時から持っている本でボロいけど受け取ってくれ」
そう言って百代が俺に手渡したのは【星の王子さま】の文庫本だった。
本の端は捲れていて、読み込んでいるのが分かる本だった。
「名作文学だから気取って渡すんじゃないぞ。
本当に好きなんだ。昔は気にしてなかったけど、コレってファンタジーであり、SFであり、哲学書であり、なんか深いっていうか。
それで……病室にいつも置いていたんだ」
そう言いながら表紙に視線を向け、愛おしそうに目を細める。
「そんな大事なモノいいの?」
「現世の病室に、現物あるし! これコピー品だから」
そう言って、百代はニヤリと笑う。
逆にこの本、俺が現世に持ち込めるものなのかどうなるのか分からない。
百代が大切にしてきた時間ごと託されたような気持ちで、俺は両手で受け取った。
お疲れ様と、松尾が用意してくれたお茶を飲む。
急須で入れるお茶ってあまり飲まないけど、ここでは松尾が結構いれてくれる。それが美味しい。
「ところでいつも、思っていたんだけど」
少し猫舌の百代は湯呑みの中を見つめながら聞いてくる。
「旅立ちが決定してから、半日から一日時間がかかるのは何故? まあ出発の時間が決まっているからっていうのもあるんだろうけど、午前中に決定した人がいても、その日の午後に旅立ちってことにはなってないよね?
それは気持ちの整理のため?」
松尾は首を小さく傾ける。
「まぁ、旅立ちの準備のためというのもあるけど、一番の理由は事務手続きの問題かな」
「は?」
俺と百代は同時にそんな声を上げてしまう。
そんな俺たちの反応に、松尾は恥ずかしそうに笑う。
「現世でも、異なる土地に行く時は手続きとかするだろ? 転居届とか。魂でもそれが必要なんだ」
「俺、何か書類が必要? サインとかするけど」
そう言って気がつく。ここに来る時に何かしたかと。
「ここに来る時、何も手続きしてないような」
松尾は安心させるように笑う。
「俺が役所に報告したら、手続きはそこの職員がしてくれるから大丈夫」
「はぁ」
俺は抜けた返事を返してしまった。
俺の旅立ちはもう決定的で、あとは時間を待つだけの状況なようだ。
俺は大きく深呼吸をした。
申し訳ありません。
実は先週寝込んでいて更新がおくれまそた。
そのため執筆も出来ず更新がゆるくなると思います。
ラストまで構想は出来上がっていますので今月中には必ず完結いたしますのでお見守り頂けると嬉しいです。




