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奥野、細道へ  作者: 白い黒猫
帰り道

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いま、すべき事

アパートに三人で帰って、ラウンジでお茶をしていたら、松尾が溜息をつく。

春立さんの意見を聞いてみたが、あっちで過ごしたいと言われてしまったのだ。


あちらを選んだというか、夜に一緒にお菓子を食べながら本を読んであげましょうという誘いに惹かれただけのような気もする。

松尾は、少し落ち込んでいるようにも見えた。

俺たちの視線を受けて、松尾は困ったように笑う。


「いや、不甲斐ないなと思って」


「というより、配属ミスなのでは?

あの子を、松尾一人で面倒見るのは無理があったよ」


松尾はまた溜息をつく。


「もう十八歳だというので、ここでも大丈夫だと思ったんだけどね」


「外科医に、産婦人科の患者の面倒を見させようとした感じなだけだろ!

いくら松尾がスゴい奴でも、無理なことはあるよ」


百代の言葉に松尾は少し笑う。


「それに、お婆ちゃんたちの方が、むしろ楽しそうだったよね!

春立さんにとってというか、お婆ちゃんたちにとって良かった気もする。

孫との触れ合いが、こっちの世界でもできるようになったんだから」


百代は笑って頷く。


「俺たちに対しても、すごい勢いで話しかけてきたよな。

でも思ったけど、アイツだけの話じゃなくて、この世界で色んな人との触れ合いっていいよな。

人生のこととか真面目な話から、くだらないことまで話すのが楽しい」


「確かにね〜」


俺は頷いてコーヒーを飲む。


「そういえば、奥野。戻れそうなんだよね。おめでとう」


俺は百代の言葉に首を傾げる。

確かに何かが繋がった感覚はあった。

そして今でも感じる、現世の空気。


「そうなのかな? 俺、今どういう状況なの?」


松尾は俺の方に視線を向ける。

その瞳がまた不思議な色を帯びる。


「現世と繋がりつつある、という感じかな?


どう説明したら分かりやすいんだろう?


本当はポットに乗って上昇するアトラクションなのに、君はポットなしでやってしまった。

だから今は、中間地点でポットが上がってくるのを待っている感じかな?

そこからポットに改めて乗って浮上するために……なんか、うまくない例えだけど」


「……何となく通じた」


百代も状況を頭の中で思い浮かべているのだろう。

じっとマグカップの中身を見つめている。


「ポットはどうやって、奥野のいるところに移動させるの?」


百代は顔を上げて松尾に聞く。


「本来一つのものだから、核にポットは引き寄せられる……はず。


そのためにも、魂自体が元気であることが必要になる。

だから現世からの刺激を受けつつ、今の繋がりを維持すること。

そして焦らず穏やかに過ごしながら、殻が追いついてくるのを待ってほしい」

俺は頭の中で状況を整理してから、松尾に視線を向ける。


「そのポットって視認できるもの?」


松尾は苦笑して顔を横に振る。


「概念的なものだから見えないよ」


「そうか」


条件が抽象的で、なんか難しい。


「楽しく過ごしていたらいいってことだろ?


なら明日また二木荘に行かない?

お婆ちゃんたちと約束したし、春立の様子も気になるし」

百代があまりにも無邪気に笑って誘ってきた。

ここにいられる時間を、大切にしたいとも思ったから、俺は頷いた。

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