みんなの孫
俺たちはアパートにも戻らず、二木荘を訪れている。
ここは以前来た時と変わらず、縁側で談笑している人、集まって編み物をしている人、将棋や囲碁を打っている人――それぞれ自由な時間を楽しんでいるようで、何ともゆったりとした時間が流れている。
「あら、松尾くんこんにちは。どうしたの?」
祖母の旅立ちの連絡をくれた河合さんが、俺たちを見て不思議そうな顔をする。
「春立さんを、お風呂に入れさせてもらいたくて」
そう言いながら、俺と百代に両手を繋がれている春立さんに視線を向ける。
「春立霞です。誕生日は……」
そんな春立さんに、河合さんは温かい笑みを返す。
「あら、初めまして。私は河合暮です。誕生日は今はヒ・ミ・ツね。
かなりお転婆してしまったのね。びしょ濡れじゃない」
一人でお風呂やシャワーができなさそうな春立さんを、男の俺たちが洗ってあげるのは少し悩ましい。相手が子供っぽいとはいえ、18歳の女性となると尚更である。
「あら、どうしたの。可愛い子」
「濡れちゃって、服が張り付いて気持ち悪いわよね?」
「綺麗、綺麗にしましょうね〜」
「そうだ! こないだカズちゃんが縫った浴衣、似合いそうじゃない!」
俺たちが話をしていると、お婆ちゃんたちが集まってくる。
「河合さん、私たちがお風呂に入れるわよ」
そう言って、あっという間に春立さんを連れて行ってしまった。
その様子を河合さんは笑って見送る。
「助かった。あの子、一人でお風呂とか入れないみたいなんだ。
着替えも一人ではちょっとな感じで」
松尾の言葉に、ふーむと河合さんは声を出す。
「それはアパートでの生活はキツいかもね〜」
春立さんは、一人暮らしには明らかに向いていない。
「とはいえ、コロコロ環境を変えるのも春立さんには負担だし」
松尾は春立さんの消えた方に視線を向ける。
リモートで河合さんと松尾と杉風理事長が会議を始めたので、俺と百代は少し離れることにする。
「あら、笠緒ちゃんのお孫さんじゃない。髪染めたのね。若者はいいわね。かっこいいわ!」
知らないお婆ちゃんたちが話しかけてくる。
「祖母がお世話になりました!」
「いえいえ、こっちがお世話になっていた方よ! 今日はどうしたの?」
「同じアパートの仲間が海ではしゃぎ過ぎてびしょ濡れになってしまったので、ここでお風呂を借りにきました」
俺の言葉を聞いて楽しそうに笑う。
「海で! いいわね! 青春って感じで。波に向かって叫んだりしたの?」
俺と百代は苦笑して首を横に振る。
「それはしていないけど、水切りをしていました」
百代の言葉に、うんうんとお婆ちゃんは頷く。
「楽しそうね。明日私たちもしてみようかしら」
「コイツ、水切り上手いので、講師としてつけましょうか?」
百代の言葉に、お婆ちゃんたちはきゃっきゃと喜ぶ。
「イケメン講師付きの海遊び、いいわね!」
そんな他愛ない会話を楽しんでいたら、先ほど春立さんを連れて行った集団が戻ってくる。
春立さんは青い大きな花模様の浴衣を着ていた。
髪の毛は結構凝った三つ編みにされていて、可愛らしく整えられている。
「へぇ、似合ってるね。可愛いよ」
「馬子にも衣装だな! いいじゃん」
俺と百代の言葉に、唇を少し突き出して照れた顔をする。
「カズちゃんがこないだ縫っていた浴衣ね! 素敵!」
「可愛いわ〜。お人形さんみたい!」
一気にお婆ちゃんたちのアイドルとなっている。
俺と百代はその熱気に押し出されてしまう。
さっき最初に春立さんに近づいてきたお婆ちゃんが、話し合いをしている松尾たちのところへ行く。
「よかったら、だけど。あの子、此処で暮らした方がいいのでは?
此処だと目も多くて、皆んなで面倒見られる
それに男三人暮らしでは、なかなか大変なのでは?」
松尾は悩む。
「しかし、アパートの仲間とも少し馴染んできたところではあるし……」
「それはそれで良いじゃない。交流は続ければ。
此処には人生経験豊富な人たちがいるしね。任せて頂戴!
それに、あの子をお風呂に入れていてなんか感じたの。若い子と触れ合うのって楽しくて」
孫を構うみたいに春立さんを構うお婆ちゃんたち。
その愛情に少し戸惑っているものの、恥ずかしそうにはにかんでいる春立さん。
お婆ちゃんから何かお菓子を受け取り、春立さんはそれを食べて嬉しそうに笑っていた。




