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奥野、細道へ  作者: 白い黒猫


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24/25

良い同居人、悪い同居人

 次の日、朝イチで心配して訪ねてきた松尾に誘われ、朝食を下で食べるこちになった。

 クロックムッシュにサラダにヨーグルト。という俺からしてみたらかなり立派な朝食だ。

 なんか三里さんよりも凝った料理を松尾は出してくることに、ここ数日で気がついた。

 同じように心配して早起きしてきた百代も一緒に食べる。

 三階の元三里さんの部屋を見上げるが窓はまだしまったまま。

「二人には、心配かけて本当に申し訳なかった」

 謝る俺に二人は顔を横に振る。

「そんなこといいよ、で、身体の具合はどう?」

 百代の言葉に俺は身体を動かしてみる。身体が痺れているような怠さはかなりマシになった。

「もうかなり良くなった」

 俺の言葉に素直に嬉しそうな顔をする百代と、疑いの目を向ける松尾。

「昨日は本当に身体が動かなくてびっくりしたけど、もう普通に歩く分には問題ないから」

 俺は手を大きめに振って元気アピールをする。

「でも、今日は無理はダメだからね! 森にも行かないこと!」

 厳しめな声でそう言ってくる松尾に俺はコクコクと頷く。らしくなく言葉がキツ目なのは、それだけ心配をかけてしまったからだろう。

「大丈夫! 俺も見張っておくから!」

 百代が片手をあげて答えている。


 カチャ


 そんな時、上から音が聞こえる。松尾が立ち上がり上に視線を向け手を振る。


「春立さん、おはよう! 

 今日はこっちで皆んなで朝食を食べているんだ! 

 よかったら一緒に食べない? アパートの皆もいるし!」


 俺と百代も立ち上がり、窓の見えるところまでいく。

 ロングヘアーで色白な女の子が窓から下を見下ろしていた。

 十四か五といったところだろうか? 年齢が幼く見える。そんな子がこの世界にと思うと心が痛む。

 俺も笑みを作り手を振った。


「ぁ、はぃ」


 小さい声で返事して顔を引っ込めた。


 降りてきたのは身長が百六十もないくらいの小柄な子だった。

 髪は寝癖のようにあちこちよれて毛先が跳ねている、そしてサイドの髪がところどころ固まっている。何か甘い物でも触った手で髪を撫でたのだろうか。

 服も汚れている訳ではないが、どこか整っていない。


「春立霞で…誕生日は………」


 小さな声で、挨拶の後半は聞こえなかった。

 緊張からか、怖がっているのか少し震えている。


「初めまして、君の下の階の奥野です。よろしくお願いします」


 なるべく優しく挨拶をする。


「俺は奥野のお向かいの部屋の百代だ」


 百代は意外なことにあっさりとした感じで挨拶をする。


「春立さん、こちらにどうぞ。何か苦手な食べ物はない?」


 優しく松尾がキッチンエリアにあるテーブルに誘う。春立さんは松尾の言葉に返事もせずに下を向いたまま松尾に従い椅子に腰を下ろす。


 松尾の作った朝食を何も言わずに食べ始める。フォークの持ち方が何か変だ。グーで握ってそれで刺して食べている。四歳になる従姉妹の子供の食べ方みたいだ。

 食べたのはクロックシュシュの半分とヨーグルトの上に載っていたジャムだけ。しかもパンの耳の分は残している。なんというかグシャグシャと食い散らかしている感じ。

 サラダや付け合わせには全く手をつけていない。


「あのさ、朝食作ってもらっているんだから『いただきます』の挨拶くらいしたら? 後さ……」

「グレープフルーツジュースは苦手だった? 何が好き?

 後サラダは、近所の方から頂いた美味しいレタスなんだ食べてみて」

 少しキツい言い方をした百代に春立さんはビクリと怯えた顔をしたので、松尾が遮り優しく話しかける。

「松尾は同居人で、好意で朝食を作ってくれているの!

 そこんとこ勘違いしないで当たり前と思わないでよ」

 百代は言い足りなかったのか言葉を続ける。

 春立さんは、テーブルに座ったまま怯えたように百代を見上げている。瞳を潤んで泣きそうだ。どうしたらいいのか?

「君は一人暮らしって初めて?」

 俺は優しく聞こえるように話しかける。小さく頷く。仕草が幼い。まだ子供なのだ。ここにいる誰よりも。

「共同生活って楽しいけどみんなが快適に過ごせるように守ってほしいことはあるんだ」

 春立さんは身体を緊張させる。

「そんなに難しいことではないよ。

 まず、挨拶。別に畏まる必要はないよ、目が合ったらて手を振って『ヤァ』っていうくらいからでもいいから。その方がお互い楽しいだろ?

 後……」

 最初から、色々いうと恐縮してしまうだろうか? 俺は悩む。

「食事が終わったら、共有施設や街についての案内するね」

 松尾がそう言葉を引き取ってくれる。

「もう、食べた」

 食べ散らかした食器もそのままで、春立さんは立ち上がる。

「自分で使った食器は片付けろ! なあ、松尾が朝から作ってくれたんだぞ? ありがとうくらい言えよ!」

 百代が叱りつけられ、春立さんはびっくりしたように目を見開く。

 その瞳から涙が流れる。松尾が宥めるように優しく抱きしめる。

「今日は、俺達で片付けるから」

 そう言って俺は松尾と春立さんの二人を送り出した。松尾は玄関先で春立さんに花壇を見せている。



 百代と二人で後片付けをしている。

 カチャカチャと音を立てて皿を拭く百代は機嫌悪そうだ。

「あのさ、あの子、たぶん礼儀知らずとかではなくて……」「分かっているよ。それこそ奥野よりも良く分かっている」

 百代は視線を玄関の外の春立さんに向けてそう答えてくる。もう泣き止んだようで、口角をあげ小さく笑っている。涙も静かに流していたし、感情を大きく出さない子だなと思う。

「病院でああいう人間いっぱい見てきたから……。

 外の世界は危ないから、健康な世界見てしまうと傷つくから、そういった感じで閉ざされた世界だけで生きていた奴」

 俺から皿を受け取る時、俺の顔を見てくる。

「奥野は、あの子にあまり関わる必要はないよ。

 あの状況だと、すぐにいなくなると思うから」

 俺はその言葉に一瞬手元に戻していた視線を百代に戻してしまう。

「あの様子だと、現世で身体もほとんど動かせないままベッドで過ごしてきたんだと思う。だからベッドから見える範囲の世界しか知らない。

 俺よりも深刻な状況でコチラにきている。多分」

 そこまで言って言葉を切る。視線は春立さんに向けたまま。

「俺は本や映画をいっぱい楽しませてもらったし、ゲームしたり、それなりに色々できたから」

 厳しく見えた百代の言葉や態度。

 でも、それは怒りではない。

 春立さんに普通の世界を知ってほしい。そんな想いが透けて見えた。

「松尾は大体、優しい刑事やるから、俺は悪い刑事をやるよ!」

 俺の方を見てニヤリと笑う。取り調べかいな! 俺は笑ってしまう。

「悪いというか。厳しい同居人という感じ? 俺はどうしようかな」

 百代はうーんと悩む。

「厳しい同居人二人はキツいだろうから松尾側に行けば?」

 そう言って百代は笑った。

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