おかえり!
アパートに戻り、夕飯を松尾と二人で作っている。
と言っても手際よく作業を進めている松尾の横で、俺は鍋をかき混ぜているだけ。
松尾の言葉の流れで、何となく三人で夕飯を食べることになっている。
三里さんとの別れの寂しさ、百代のことも気に掛かり、誰かが横にいることは有り難かった。
松尾は慣れた手つきで玉葱を炒め、挽肉にチーズを混ぜ込んだハンバーグを次々と整形していく。そのハンバーグをトレイに入れて冷蔵庫にしまう。
「百代は、和食よりこういった洋食の方が好きなんだよね」
そう言いながら茹で上がったジャガイモを潰してポテトサラダに取り掛かる。
俺はコーンスープが焦げないようにかき混ぜている。
「松尾って、何者なの? 人間?」
松尾は丁寧にお芋を潰している。
「天部だよ」
天部ってどういうものだったっけ? 俺は考える。
「神様の一員ってこと?」
松尾は首を振る。
「いやいや、そんなえらいものではないよ。
神様に与えられた仕事をしているだけ。
そして元々は君と同じで人間だった」
「じゃあ、人間の時、料理人だったとか?」
松尾は首を傾げる。
「どうなんだろうね。人間だった時の事は覚えていないから。
料理はなんか趣味みたいなもの。
コンロで簡単に調理できるというのが衝撃でさ、色々教室行ったりして勉強したんだ!」
なんというか、松尾は年齢のわりに落ち着きすぎている。
囲碁や将棋が好きな感じだし……もしかして、かなり昔の人だったのだろうか。「本格インドカレーとかも作れるよ!
だからここに色々調理家電も揃えてもらったんだ」
そう言ってニコニコと笑う。
エアフライヤーの方に行き、トレーを引き出し振ってからまたセットする。
確かにここのキッチン、高級トースターからエアフライヤーとか調理家電が異様に揃っている。
「そういえば、どうだったの? 森で」
松尾が三つの皿にポテサラをアイスサーバーで盛り付けながら聞いてくる。
俺はどう応えるべきか悩む。言いたくないのではなくどう説明するべきか無難しいから。
「自分が目指していたものって、何だったのだろうか? というのを考えさせられた。
将来の夢って、そもそも何で目指していたんだろうって。
まあ色々考えて何となく折り合いはつけたのかな? と今回はそれだけだったけど」
「そっか〜。難しいよね、そういうの」
松尾はのんびり笑う。
「でも、悩めるってことは、ちゃんと生きてるって感じがして、俺は嫌いじゃないかな。楽しそうだし」
ニッコリと笑ってくる松尾の言葉はどこか惚けていて、それでなんか気が抜けて俺の心をより軽くしてくれた気がした。
松尾が何かに気がついたように顔を上げる。
フライパンをコンロに置き油を広げ火をつける。
冷蔵庫からハンバーグの入ったトレイを出し焼き始める。
俺は一旦火を止めて、ラウンジの方にいき上を見上げる。百代の部屋の明かりが点いてる。
「百代! 松尾が今ハンバーグ焼いているんだ! 一緒に食べよう!」
部屋に向かって叫ぶと、百代が窓から顔を出す。
そして俺の顔を見てフニャという感じで笑う。
「奥野! 森から戻って来れたんだね! おかえり!」
後からアパートに帰ってきた百代に、先にその言葉を言われてしまった、
すぐに降りてきた百代を交えて、三人でテーブルを囲む。
大きな皿にハンバーグとポテトサラダとサラダとカボチャのフライとナポリタンが添えられていて、それにご飯とコーンスープ。ハンバーグは大きいが、なんかお子様ランチのような感じで少し可愛らしい。
男三人で食べているのはなんか不思議な気もする。
百代が、料理を見た瞬間に嬉しそうに笑顔になったので正解だったのかもしれない。
降りてきた時、少し元気がなかったから。
「で、どうだったの? 森の中は」
百代は美味しそうにハンバーグを食べながら、そう聞いてくる。
「ウーン、家族との向き合い方を考えさせられたという感じかな?」
百代は首を傾げる。
「俺、プロのサッカー選手になる一歩手前まで行ってたんだ。
でも足をやってしまって、その道が絶たれた時、一番に思ったのは皆を失望させたんでははないかと。そして皆の期待を裏切り申し訳ないと]
俺はグレープフルーツジュースを一口飲みながら思い出す。
子供時代から、サッカーの応援に来てくれていた両親や家族の様子。
サッカーやっている子供の保護者は、ミスしたら罵声を浴びさせ、活躍しても褒めることはなく細かい改善点を投げるという鬼コーチ化した人も少なくない。
しかし家族は、俺の活躍をただ無邪気に喜び、敗戦を一緒に悔しがり、ミスしても笑顔で流してくれた。
「勝手に家族が期待しているからと気負っていたけど、家族はただ暖かく応援していただけで、俺が勝手にそれを重く受けてプレッシャーを受けながら過ごしていただけなのかな? と客観的に過去を見て思ったんだ。
まあ、家族や周りの応援が俺を成長させてくれたんだけどね。
そういえば、祖母にも、プロになれなかったこと謝ったら笑われた」
優しい目で黙って話を聞いている松尾と、なぜか目を輝かせる百代。
「奥野、お前って実はスゴい奴だったんだな」
俺は苦笑して顔を横に振る。
「スゴくなんて全くないよ。
ちょっとサッカーが得意だっただけ」
百代は笑う。
「スポーツができるだけでもスゴいよ。
俺、何もできないから!」
そのレベルでスゴいと言ってくれる百代の言葉に、なんかホッとして笑ってしまった。




