33話
最後に投稿してから5か月以上…少しずつ復活です。
エルヴィンさんが腕を振り下ろしたと同時にアルさんが木刀を構えて真っ直ぐにこちらに向かってくる。
普通ならここで受け止めるのがセオリーだけど生憎私が扱うのは短剣でリーチが短いうえに恐らく腕力も相手の方が上だ。ゆえにまともに受け止めれば純粋に力で負ける。
私はひょいっと左に体を傾けてすぐさま左拳をアルさんめがけて打つも彼の右手によってそれは阻まれた。
「剣があるのに拳を使ってくるとは中々に面白いな。」
「使えるものは使わないともったいないでしょう?」
それだけ言って私は後ろに飛んでアルさんとの距離を開ける。さっきアルさんは拳を受け止めたけど微かに眉間に皺を寄せたし私自身も少しではあるけど手ごたえを感じた。少なくとも一方的にやられるということは無さそうである。
そもそもこの模擬戦はどちらかが完全に動きを封じられた時点で終了。なら、お城に潜入した際にエミーリアさんと顎髭のおっちゃんに使った土嚢が上から降ってくるあのイメージを使えば一瞬で私の勝ちだ。でも相手はこの国の王様でしかも周りにはたくさんのギャラリーがいる。というか明らかにギャラリーが増えてるんですけど。エミーリアさんやカティアさんの姿まで見えるんですけど。
「2人ともー!頑張ってくださーーい!!」
「おう!」
カティアさんが精いっぱいこっちに手を振ってくれている。アルさんは拳を突き上げて返事を返していた。その顔が少しだらしなく見えるのはきっと私の気のせいだろう。
話を戻す。つまり何がいいたいかというと、王様がやられる姿を見せてしまうのはどうかということだ。
やられるにしても対した撃ち合いも無しに一瞬でというのはあまりにも面白みがなさすぎる。
それにこんなに間近で王様が模擬戦とはいえ戦う姿をじっくり見れる機会なんてないだろうし。できれば皆が盛り上がれるような模擬戦にしたい。
ちょっと余裕かましてムカつくと思われるかもしれないけど、私は誰かの楽しんでいる姿を見るのが好きなのだ。自分勝手で申し訳ないけどここはひとつ許してほしい。
「そっちが来ないならこちらから行かせてもらうぞっ!」
アルさんがまたもこちらに突進してくる。私とアルさんの距離がなくなるまで1秒ちょっとというところか。私は上空に高くジャンプすることでそれを回避した。
どれくらいの高さまで飛んだのかはよく分からないけどこの訓練場がだいたい見渡せるくらいだからもしかすると10mくらいだろうか。
私はそこでリューン様からもらった神の力を使った。
神の力は一言で言ってしまえば万能だ。力を使う私のイメージ力で何にでも化け、どんなことにも対応できるとリューン様は言っていたっけ。
左手に力を込めて光の玉を作る。私はそれを爆発させた。すると私の周囲がもくもくと煙で覆われて一時的だけど私の姿を隠してくれる。
そう、私が使ったのは煙玉というものだ。そしてその煙からたくさんの私がアルさんを取り囲むように着地する。
「さて、本物の私がどこにいるか分かりますか?」
「これはどういうことだ…!」
その途端にアルさんから余裕の表情がなくなってしまった。周りのギャラリーの反応も含めて考えるとどうやらこの世界で影分身というものはないみたいだ。
たくさんの私が全方向からアルさんに向かって木刀を振りかざす。だがさっきまで動揺していたハズなのにアルさんは次々と私の分身を木刀や体術で次々と消していってしまう。
私が作った分身たちは大きい衝撃を与えられるといとも簡単に消えてしまう。ポンッという子気味良い音と共に煙となり、そこから現れるのは小さな狸さん。昔から狸は人に化けるといわれているし、可愛いのでこういう形をとってみたのだ。これは完全に私の趣味。その狸さんもそれほどしないうちに消えていくだろう。
本物の私も分身に交じってアルさんに木刀を振り下ろした。私と分身では力が違いすぎるため、アルさんも本物の私に気付いた模様。
「まったく洒落た技を使うな。」
「私は魔法が使えないので。」
「じゃあこれが神の力か。俺が想像していたものとはだいぶ違うな。」
「平々凡々な私が使うと神なんて言葉は似合いませんね。」
そのまま私は身体を捻って左脚で蹴りを入れたけどアルさんはいとも簡単にヒョイっと避けてしまった。
「そんな平々凡々な少女がきっついパンチや蹴りを入れるかねぇ。」
その発言はごもっともだと思うけど、剣なんて持たなかった私には剣ブンブン振り回すよりパンチやキックの方がまだ馴染みがある。
私は人との争いは徹底的に避けたい空気系女子を目指していたので喧嘩にはあまり縁はなかった。だからこのパンチやキックは好きだったアニメや映画などの真似をしているだけだ。
契約による身体能力向上のおかげでまるでそのアニメのキャラクターのように戦えることに少しだけテンションが上がっていた。
短剣はぶっちゃけギルド契約におけるカモフラージュ目的で買ったもので実際にそれを振るおうという気は全くない。というか使いこなせる自信がないのだ。それでもこれはグースさんが買ってくれたものだし、デザインも中々に気に入っているので常に持ち歩くつもりだ。なんというか武器というよりはお守りみたいなものだろうか。
あ、でも確かバルドさんはこの短剣は魔石でできているから魔獣に対してよくダメージが通ると言っていたっけ。それなら一応少しは扱えるようになった方がいいのかもしれない。
「戦闘中に何を考えてるんだ?実戦なら死んでるぞ。」
「ですね。すみません。」
「あと周りに気を遣う必要はない。全力全開で俺にかかってこい!言っておくがこれは国王陛下からの命令だぞ?」
「…なら、陛下に失礼のないように全力全開で行かせてもらいます。」
さすがは王様、いつから私の思考に気付いていたんだろうか。まぁそんなことはどうでもいい。遠慮がいらないというならここからは変な小細工は無しにしよう。
模擬戦を始めてからどれくらいたっただろう…なんだか長いことアルさんと剣をぶつけあっているような気がするけれど頭の中に何か靄のようなものがかかっていて正確な判断ができないでいた。
でもそんな思考でも明らかに感じていることがひとつ。おかしい。なんかおかしい。さっきからずっと感じていたけど明らかに【私】がおかしい気がする。
どうしてこんなに興奮しているのだろう。確かにテンションが上がっているのは分かっているけれど、ここまで来るとただの興奮だ。
日本に居たころに運動神経皆無だったからだろうか。その反動からだろうか。
右へ左へそして上空へ。まるで水素のように重さがない。自分の思い通りに動く身体に私は言葉にできないほどの快感を感じているみたいだ。
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模擬戦をしようなんて言ったのはぶっちゃけただの好奇心だ。
もちろん、レナの現段階での力量を知りたかったことも事実ではあるがどっちかといえばそっちはオマケ的な意味合いが強い。
だが俺は後にこの選択をしたことを少々ばかり後悔する。そして自分が模擬戦の最中に放った言葉にも。
レナの戦い方はちょっと…いや、かなり変わっていた。
神の力を使っているようだがそこから神々しさは全くと言っていいほど感じられない。むしろそれは手品に近い印象を受けた。
レナが生み出したたくさんの偽物から小さな生き物が煙と共に出てきたときは表情には出さなかったがかなり驚いた。手のひらサイズのその生き物が短い脚を懸命に動かして場外に向かって歩いている姿はとても愛らしく、少しだけ俺の胸に罪悪感を残していく。ただの偽物であるというのにだ。
「戦闘中に何を考えてるんだ?実践なら死んでいるぞ。」
「ですね。すみません。」
彼女は薄く笑っていた。ただ笑っているだけだというのにどこか薄ら寒いものを俺はひしひしと感じていた。
そのうすら寒い感覚を堪えながら俺は遠慮はいらないとレナに伝えた。レナは周りを気にしてその場に応じた対応を的確に行うことができる人間だということはまだ短い期間しか一緒にいない俺でもなんとなく肌で感じ取ることができた。コイツは賢い。そして暖かいのにどこか冷たい不思議なヤツ。
しかしそんなイメージは次の瞬間に覆った。
「…なら、陛下に失礼のないように全力でいかせてもらいます。」
そう言って俺を見据えた彼女の目はさっきまでと全く違う光を宿していた。
そして動きも変わった。今までなにかパフォーマンスを見せるような動きをしていたものが、急に獲物に喰らいつくような獰猛な動きへと変化したのだ。
叩きつけられる剣から感じる重さは今まで俺が戦ってきた中でもかなり重く、横にいなすだけでもかなりの力を必要とした。
そもそも俺は動けないでいた。360度さまざまな角度、方向からすざまじい速度でぶつかってくるレナの剣に足はまるで地面と同化してしまったかのように。
剣と剣がぶつかりお互いの瞳がお互いを一瞬だけ映し合ったその時、俺の耳にはっきりと聞こえたのはレナの小さな笑い声と苦しさとはどこか違う荒い息遣い。
そして俺の瞳が捉えたのはとても嬉しそうな狂った色をした彼女の黒い瞳。
ほどなくして模擬戦は終わった。決着を完全につけたわけではなく、突然のエルヴィンからの制止によるものだった。
俺に何か言いたげな視線をよこしてくるエルヴィンを見て、アイツがこの試合を途中でやめた意味を悟る。エルヴィンも俺と同じことを離れた場所でも感じていたようだ。
もう一度視線をレナに向ける。もうその瞳に狂った色は見当たらなかったが、彼女の口元はさも嬉しそうに弧を描いていた。
怜那、戦闘狂に目覚めるの巻。
神となる以前、怜那がどれだけ運動神経が皆無だったかというと…またいつかのお話で。




