番外編1
※本編とはあまり関係のない怜那と清花のお話です。
あたしがその子と初めて会ったのは高校の入学式の時だった。
新しい制服に身を包んであたしはその日、晴れて中学生から高校生へとなった。
あたしの受験した高校は特にレベルが高いわけでもなく、かといって校則が厳しいなんてわけでもなく、非常に自由な校風が目立つ学校だった。
地元から電車に乗って30分ほどのその学校に通うにあたって不安なんて感じなかった。
なぜなら同じ地元の子も何人かいたし、今までも友達を作るにあたって困ったことなどなかったからだ。
「新入生のみなさん。ようこそ…~。」
校長先生の話を聞き流しつつあたしはこれから始まる高校生活に心を躍らせていた。
「清花。ちゃんと先生の話聞いてた?」
「あーなんとなくは覚えてる。」
「もう!ちゃんと聞かなきゃ!これから教室移動なんでしょ?ほら行きましょ。」
ピシッとスーツを着こなして髪をまとめ上げているお母さんがあたしの前を進んでいく。
周りの生徒や親たちがズンズン歩いていくお母さんを視線で追っていた。うちのお母さんは昔は雑誌のモデルをしていただけあってものすごく美人だ。
そんなお母さんの遺伝子を受け継いでるあたしも決して不細工ではない。ん?自分で自分のこと美人なんて言うわけないじゃない。
それからは教室で担任の先生から自己紹介と4月中の予定と学校のことについて言われたのちに解散となった。
めでたく同じクラスになった地元の子たちに挨拶をしてお母さんが待っている廊下に出ると、お母さんは誰かと話をしていた。
その人はお母さんに負けないくらい綺麗な人だった。でも美人というよりは可憐という言葉が似合いそうな女の人。
そしてその女の人の後ろでボーっとどこかを見つめているあたしと同じ制服を身にまとった女の子がいた。
「あ、清花。お疲れ様。」
「あら、清花ちゃん。随分と見ないうちにお母さんに似て美人になっちゃって~!」
「もー聡美ちゃんったら~!!」
とりあえず近づいてみたらお母さんに「聡美ちゃん」と呼ばれた女の人があたしに話しかけてきた。どうやらあたしのことを知っているみたいだけど、あたしはこの人らしき人物に会った記憶がない。それでも軽く会釈だけはしておいた。
「清花覚えてる?って最後に会ったのは10年以上前だから覚えてないわよね。」
「う、うん…。」
「改めまして私は龍崎聡美です。あなたのお母さんの百合子さんとは従妹関係なの。」
「そうだったんですね。あたしは荻原清花です。」
「丁寧にありがとう。ほら、怜那ちゃん!挨拶しましょう。」
するとさっきまで聡美さんの後ろでボーっとしていたその子はフッと意識を戻してあたしに向き直る。
肩にかかるくらいの黒に近いこげ茶色の髪に華奢な体躯の彼女はどこか不思議な、言葉にしにくい雰囲気をまとっていて思わず魅入ってしまう。
彼女は私に左手を差し出して言った。
「初めまして、龍崎怜那です。」
「あ、初めまして。これからよろしくね。」
これがあたしと怜那のファーストコンタクトだった。
入学式が終わった後、龍崎怜那という自身と同じ血の通った(まぁかなり薄いけど)存在を知ったあたしはどこかくすぐったい気持ちになっていた。たぶんそれはあたしが一人っ子で兄弟姉妹がいないからだろう。あの日は結局お互いに挨拶をして終わりだったから翌日の休み時間に彼女のいる隣のクラスにあたしは向かうことにした。もう少し話がしたいし、仲良くなりたいと思ったのだ。
ゆっくり話がしたかったからお昼休みに突撃することに。一緒にお昼を食べていた地元友達が一緒に行きたいと申し出てきたけど、あたしは断った。怜那と2人で話がしたかったからだ。
お母さんお手製の冷凍食品詰め(お弁当)を素早く食べ、あたしは隣のクラスを覗きに行った。隣のクラスにも地元の友達が居て、みんながあたしを見つけると「清花だ!」と駆け寄ってくる。あたしはみんなに挨拶をしながら怜那がどこに居るかを聞いてみた。
「龍崎怜那って子いる?」
「龍崎?」
「えっとちょっとこげ茶っぽい肩までの髪の女の子なんだけど…。」
「あ~あのちょっとボーっとしてる子かな?ほら、自己紹介で音楽が好きだって言ってたおとなしそうな子!!」
「あ、たぶんそれだ!!」
「その子なら昼休みに入った途端にお弁当みたいなの持って出て行ったけど。」
「そっかぁ~うん。ありがと!」
自分のクラスに戻りながらあたしは「やられたなぁ~。」と少しだけ悔しさを感じていた。放課後は絶対に捕まえてやる。
放課後になってあたしはリュックを背負って大慌てで廊下に飛び出した。そして思わずガッツポーズ。なぜなら隣のクラスはまだ帰りのHRが終わってなかったからだ。教室のドアは閉まっていて中から先生と思われる男の人の声が聞こえる。どうやら明日に行われる身体測定について事細かに説明してるみたいだ。
廊下の壁にもたれかかって待つこと数分。ガラッと教室のドアが開いて勢いよく男子が数人飛び出していく。それに倣ってぞろぞろとたくさんの生徒がドアから出て行った。あたしは目を光らせて龍崎さんを探したけれど彼女は出てこない。おや?と思い教室を覗けば彼女はのんびり肩掛けの鞄に教科書を詰めていた。
「おーい龍崎。鍵は職員室に持っていくから施錠頼んだぞー。」
「あ、はい。」
彼女のクラスの担任は自分の荷物を抱えてとっとと出て行ってしまった。新学期ということもあって先生も色々と忙しいんだろう。
やっと鞄の用意が終わったらしい彼女は椅子にひっかけていたブレザーを着ようとしている。あたしは教室内に足を踏み入れて彼女に近づいた。
あたしの姿を見た龍崎さんは少しだけ驚いたような表情をしたけどすぐにどこかトロンとしたちょっとおマヌケな顔に戻る。
「えっと、荻原さんだよね?」
「うん。龍崎さんだね?」
「うん。そういえば昼休みに来てくれてたんだって?ごめんね、中庭で食べてたもんで…。」
「気にしないで、あたしが勝手に押しかけただけだし。でも入学して初のお弁当を中庭で食べるなんて度胸あるのね。」
「広くて日当たりもいいし昼寝場所にも最適かなぁって思って。」
「昼寝って昼休み40分しかないのに?」
「目覚ましセットすれば大丈夫だよ。」
そう言ってスマホをチラつかせる龍崎さんを純粋に面白いなぁとあたしは感じた。
それから数十分くらいあたしたちは誰もいない教室で色々な話をした。中学はどこ出身か、好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きな教科、嫌いな教科、趣味、そして。
あたしたちの関係性についても。
「入学式の時はビックリした。はとこがいるなんて全然知らなかったし。」
「私も驚いたよ。しかも私とは全然似てないし。」
「似てないってどの辺が?」
「可愛くて綺麗。あとオシャレだなって。」
「あ、ありがと…。」
こうやって真正面から可愛いとか綺麗とかオシャレなんて言われたのはいつ以来だろう。少しだけ恥ずかしかった。
お世辞に聞こえないのだ。だって龍崎さんの瞳はあまりにも真っ直ぐでまるであたしの心を見透かしてるかのように少しだけ細められている。
「そういう龍崎さんだってなんというか…不思議な雰囲気纏ってて魅かれるものを感じたよ?」
「独特な雰囲気があるとはよく言われるかな。不思議ちゃんキャラっていうの?あと無口だと思われることが多いなぁ。」
「あたしも最初はそう思ってた。でもこうやって話してみれば全然そんなことないね。」
「話しかけられさえすりゃいくらでも喋るんだけどね。やっぱ自分から話しかけないとダメかな?」
「積極性って大事だからね。これからは高校デビューということでどんどん話しかけてみれば?」
「うーん…ハードル高いなぁ。」
「頑張りなよ~!せっかくの高校生活だよ楽しまなきゃ!!アタックあるのみ!!」
「ん~…それじゃあ頑張ってみようかな…。」
すると龍崎さんはいきなり深呼吸をしだした。数回ほどスーハーと繰り返してあたしのことを見上げてくる。龍崎さんの方があたしより数cmほど背が低いのだ。
そして彼女は恥ずかしそうにこう言った。
「わ、私と友達になってくれませんか…?」
龍崎さんの言葉は正にあたしが今朝から彼女に言おうと胸の中に秘めていたものだった。まさか向こうから言ってくれるなんて思ってもなかったあたしは驚きで固まってしまって、龍崎さんは「あ~やっぱ恥ずかしい無理…。」と左手で顔を隠してしまう。
ふつふつと胸にこみ上げてきたのはまぎれもない嬉しさ。友達になろうって言われただけなのにどうしてこんなに嬉しいんだろう。決まっている。あたしが彼女と友達になりたくてなりたくて仕方なかったからだ。
「龍崎さん。ううん、怜那!」
「え…?」
「あたしもあなたと友達になりたい。これからよろしくね!」
「うん…!よろしく…さ、清花。」
左手で頬を掻きながらたどたどしくもあたしの名前を呼ぶ彼女がどうしようもなく可愛く見えた。
本編でもちょくちょく名前が出てくる清花ですが、覚えてくれている人がいるのかどうか…。
番外編は基本的にこの2人の話となっていきます。
時間軸としては怜那がスクライドに飛ばされる以前のものになりますね。
※プチキャラ紹介
・荻原百合子
清花の母親。元モデルの美人さん。
怜那の母である聡美とは従妹関係でとても仲良し。




