32話
「私、騎士団に入ります。」
「そっか。その返事が貰えて嬉しいぜ。」
お城潜入大作戦が終わって2日後。
私は朝からアルさんの部屋に来ていた。騎士団に入るか否かの答えを彼に伝えるためだ。
私の返事を聞いたアルさんはニヤリと笑みを浮かべている。こういうところはあまり王様っぽくないよなぁアルさん。
「それじゃあ、早速どこの隊に所属するか決めてもらうか。」
「確かファーレンには4つの隊があるんですよね?」
「あぁ、そうだ。つってもレナは女だからほぼ決まってるようなもんかな。」
「と、いうと?」
「騎士って主に戦いがメインではっきり言ってしまえば物騒な職業だ。そんなものに進んでなる女なんて早々居ないからうちの国の女騎士は2番隊に所属している。ほとんどは魔法メインの魔術師だけどな。」
そういえばそんな感じの話をグースさんと話したなぁと私はそんなことを思いながらアルさんの話を聞いた。
2番隊は確かエルヴィンさんのお姉さんであるエミーリアさんが隊長の部隊だ。女だけで構成されているというならまさに華の部隊なんだろう。
確かに男に囲まれるよりかは同じ同性の人の方が幾分か気が楽かもしれない。
「じゃあ、2番隊で…。」
「あ、でも待てよ…。そういやエルヴィンの奴がレナが騎士団に入るならぜひ俺の所にって言っていたな。」
「…エルヴィンさんが?」
「あぁ。なんでかは俺も知らねぇけど。」
「………じゃあエルヴィンさんの所に行ってもいいですか?」
「いいのか?アイツはとっつきにくいしエミーリアとの方が肩の荷も軽いと思うが…。」
「エルヴィンさんとは前からお知り合いですし、私としてはそっちの方が肩の力を抜けるかもと思って。」
お知り合いと言ってもお互いに少しだけ言葉を交わしただけだ。でも私は確かにエルヴィンさんが居ると安心することがある。
お城で目を覚ました時だって一番最初に入ってきたのがエルヴィンさんじゃなかったらきっとかなり焦って混乱していただろう。
それに私の大切なものをちゃんとヴァイスとシュヴァイツに渡してくれていた。きっとあの2人と接触するのも大変だったろうに…思えば私は彼に迷惑をかけっぱなしだ。
初めて会ったときは少しだけ心が弱ってて彼を心配させてしまったし、せっかく再開したと思ったらあまり喜ばしくない状況だったし。
とりあえずどんな形であれ彼の力になれるのなら私は喜んで力になろうと思う。
「分かった。それじゃあエルヴィンに伝えてくっけどレナも来るか?」
「いいんですか?」
「ちょうど今は訓練でもしてるんじゃねーか?正式に部隊に入る前に雰囲気だけでも実際に感じ取っておいて損はないと思うぞ。」
「それもそうですね。それじゃあ一緒にお邪魔させてもらいます。」
私はアルさんと並んで城の裏側にある訓練場へと足を進めた。
訓練場に着くとそこは熱気に包まれていた。鎧をまとった騎士たちがお互いに剣を打ち付けあっている。どうやら模擬戦というものをやっているみたいだ。
勇ましく叫びながら火花を散らし合う騎士たちをジッと見つめているのはエルヴィンさん。その眼差しは全てを射抜いてしまいそうなくらいに鋭い。
ほどなくして右側の騎士の首元に刃が突き付けられたと同時にエルヴィンさんの制止の声が上がる。そのタイミングで私たちは訓練場へと足を踏み入れた。
「よ!相変わらず頑張ってんな。」
「陛下。それにレナも。こんな所までどうしたんですか?」
「レナがお前の部隊に入ることになったからその報告もかねて訓練を見学ってところだな。」
「俺の部隊に…。本当か?」
「はい、騎士団のこととか何にも分からないですけどこれからよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。」
挨拶と共に下げた頭をエルヴィンさんの大きな手が優しく撫でてくれる。このナデナデは気持ちよくて癖になりそうだ。
だけどずっと撫でられている状態では下げた頭を上げることができなくて少し困ったことに。
「いつまで撫でてんだよ。」
「あ、あぁ、すまない。」
「いえ、気にしないでくださいよ。」
申し訳なさそうに眉を下げるエルヴィンさんをフォローする。実際アルさんに言われなければ私自身しばらくあのままだったような気がしないでもないし。
顔を上げて分かったけど周りの騎士さんたちの視線が一斉にこっちに向いていた。さながら季節外れの転校生みたいなものだろうか。
とりあえずこういうのは一発目の挨拶が肝心だ。私はエルヴィンさんの前に出て騎士さんたちをしっかり見渡しながら再度頭を下げた。
「これからよろしくお願いします。」
少しの静寂の後、あちらこちらから「よろしく。」という声が上がっていく。とりあえず歓迎されていないということはなさそうなのでホッとした。
よくよく見れば本当に男の人ばっかりだ。異性だらけの空間でちゃんとうまくやっていけるか心配になってきたけど今更引き下がるのはカッコ悪いし迷惑になる。
それに女の人がこの城に居ないわけじゃないし女性同士でしか話せないようなことはエミーリアさんやカティアさんの所に行けば問題ないか。
下げた頭をよいしょと持ち上げたときにアルさんが「おぉ!そうだ!」と両手をポンッと叩いた。
「レナも今から訓練してみたらどうだ?」
「ええ!?今からですか!?」
「おぉ。お前が今どれだけの実力を持っているのか見てみたいし。いいよなエルヴィン。」
「……まぁいずれは訓練にも参加するんだから今やってもそこまで変わりはないと思うが。」
エルヴィンさんがチラッと私に視線を向けてくる。「大丈夫か?」と聞いてきているのが一目でわかった。
戦闘に関しては確かに夢の中でいっぱい特訓してきたけれど現実では初めてだからちょっと不安だ。
でもいい機会だと思う。夢の中と同じように現実でも動くことができるかどうかというのは少し気になってはいたのだ。
「分かりました。やってみます。」
「相手はそうだな…。俺でいいか。」
「え!?!?アルさ…アル様がですか!?!?」
「おう、最近あんまし動いてなかったしな。何か不満か?」
「不満か?」って不満も何も王様を相手にとか普通に考えてできないでしょうよ。一度銃口を向けた私が言えることじゃないかもしれないけど、周りの騎士さんたちだって顔を青くしてなにかを呟いてる。「…俺なら絶対に無理だ。」とか「…王直々から言われちゃ断れないよな…。」とか。
うん、私も絶対に無理だと思うしでも断れるとも思わないよ…。
しかし現実はそうはいかない。アルさんはやる気満々とでもいうようにさっそくさっきまで模擬線が行われていたところへ配置についてしまっている。
私は助けを求めるようにエルヴィンさんを見上げたけど彼は申し訳なさそうに首を横に振った。どうやらもうアルさんを止めることはできないらしい。あきらめて私は不安だけを抱えてアルさんと向かい合う位置につく。彼の表情がどこか楽しそうなのがなんだか癪に触るなぁ…。
「ではこれから陛下とレナによる模擬戦を行います。どちらかが完全に動きを封じられた時点で試合は終了です。では2人ともこれを。」
説明をしていたエルヴィンさんから渡されたのは木刀だった。私のは短めでアルさんのは私よりも長い。私が短剣を持っていたことを覚えてくれていたのかエルヴィンさん。
私が木刀を一振りして感触を確かめているとまだ傍にいたエルヴィンさんが「無理はするな。」と声をかけてくれた。
無理もなにもここまできたらとことんやってやろうではないかと私は意気込んでいた。私はエルヴィンさんに「大丈夫です。」と力強くうなずき返した。
しんと静まりかえった訓練場で私はアルさんのキッと睨み付けてやった。アルさんはその私の視線に随分驚いている様子。こういうのは気迫で相手を負かせるといい方向に戦いをもっていけると清花が教えてくれたのだ。まぁ、こんな模擬戦のことじゃなくて喧嘩のことだけど。
「では、はじめ!!」
エルヴィンさんが腕を振り下ろした。
一応国王陛下のアルですがその正体はただのやんちゃ坊主か。
登場人物一覧に挿絵を追加しています。汚くて申し訳ないです。
しゃーねーな見てやんよという超親切な方はよろしければ見て行ってください。




