29話
1週間ぶりです。こんばんわ。
その後アルさんに言われて新堂に向かうことになった。イグナシオがまた直接お礼を言いたいと言っていたそうだ。
アルさんが先頭を歩き、その後ろに私が。そんな私を囲むように隣をエルヴィンさんとエミーリアさんが歩く。やはりこの世界の人は育ちが良い。見上げる私の首が少しだけ悲鳴を上げている。
アルさんの部屋から新堂まで5分もしないうちに辿り着く。新堂の扉を開けて奥を見やると、イグナシオと一緒にヴァイスとシュヴァイツもいた。
私は思わず駆けだしていた。2人も私にすぐに気づいて駆け寄ってくる。
「ヴァイス!シュヴァイツ!」
『レナ!』 『レナだ!』
「あ、まって、ちょっぁうわっ!!」
一目で2人が飛びついてくるのが分かったので私はすぐに速度を落としてストップをかけたというのに2人はそのまま私を押し倒してきた。
視界が白と黒だけで埋まり、頭の中ではヴァイスとシュヴァイツの声が大音量で響いてくる。
顔中をベロベロと舐められて挙げ句の果てには首元や胸元まで舌が這ってきたので慌てて2人の下を脱出した。軍服の下はお恥ずかしながら下着だけでシャツとかは何も着てないのだ。
「こら!そんなとこ舐めないで!!」
『せっかくの再会なのに相変わらずケチねぇ。』
『心配させたお詫びにデザートをくれてもいいんじゃないのか?』
「私はデザートじゃない!!でも、2人とも無事で良かった。」
両手をいっぱいに広げて私は2人にギュッと抱きついた。モフモフの毛に顔を埋めるとどんどん身体から力が抜けていく。
2人もスリスリと擦り寄ってきて、私たちは感動?の再会を果たすことができた。
『あ、そうそう。レナの大切な物、あっちにあるわよ。』
「っ!オカリナに剣にブレスレット!!」
ヴァイスが向けた視線の先には私の大切な物が3つとも綺麗に並べられて置いてあった。
私は2人の間をすり抜けてそれらを回収する。ブレスレットを手首に填めてオカリナを首から釣り下げ、短剣を腰に提げた。
そこまでして私はふぅーっと長い安堵の溜息を吐く。後でまたエルヴィンさんにお礼を言っておこう。
と、その時だ。頭の中に記憶に新しい綺麗な声が響き渡った。
『レナ殿…またお会いできて嬉しいですよ。』
「イグナシオ…。」
私の目の前に立っている美しい四肢と翼を持つイグナシオを私は見上げる。燃えさかる炎の鬣は私の目を焼き尽くすかのように綺麗でずっと見ていたいくらいだ。
背中にある翼の美しさと燃えさかる鬣のかっこよさが見事にマッチして1つの芸術と化している。
この美しさを音で表現できるだけの実力が私にあれば良かったのに!と思わずにはいられない。
『ふふ…そんなに見つめられると照れてしまいます。』
「とてもそんな風には見えないけど?」
『そうですか?これでも照れているのは事実なのですが…まぁいいでしょう。先日はどうもありがとうございました。』
「体調はどう?」
『この通りスッキリです。これで問題なく力を使うことができますよ。』
私に対してイグナシオが頭を下げる。その姿は契約時のヴァイスとシュヴァイツを彷彿とさせた。
私は下げられているイグナシオの頭にそっと触れる。上目遣いにイグナシオが私のことを伺うのでニッコリと微笑み返した。
それを合図にイグナシオが私の手のひらに頭を擦りつけてくる。ヴァイスやシュヴァイツとはまた違ったしっとりとした手触りだ。
「お取り込み中よろしいかなおふたりさん。」
「アルさん。」
『アル。ちゃんと彼女には謝りましたか?』
「言われましたとおりちゃんと謝ったさ。優しい化身様は許してくださったよ。」
『レナ殿の優しさに甘えないように。』
「へいへい。」
そう返事を返しながらアルさんはイグナシオの頭をわしゃわしゃと撫でる。その時に手が鬣の炎に大胆に突っ込まれていたけど、アルさんの反応を見る限り熱くはないようだ。
すると私の触ってみたいという意図に気づいたのか、イグナシオがまた頭を差し出してきた。ゆっくり鬣に手を近づけてみる。…熱くない!
なんというか加湿器から出る煙と似たような感触が手にあるけど、熱くないというかほんのりと温かい。
あまりペタペタ触るのも失礼と思ったので私はすぐにイグナシオから手を離した。と、その時、彼が言った。
『私の翼を触りたくはありませんか?』
「へ?」
『実はレナ殿が来る前にリューン様の声が聞こえたのですよ。』
リューン様の準備の良さに私は長いため息を吐いた。だって相手に自分の思っていることがバレバレなんて恥ずかしいじゃないか。
それでも私は遠慮無く彼の翼に顔を埋めさせて貰った。
ヴァイスやシュヴァイツはモフモフふかふかだけど、イグナシオの翼はさわり心地抜群のフワフワの毛布のような感触。
うっとりしながらずっと感触を楽しみ、満足したところでイグナシオから離れた。
振り返ると後ろで拗ねたヴァイスとシュヴァイツがエルヴィンさんとエミーリアさんにちょっかいを出しているのを発見。
とても2人が困っていたので急いで止めに行った私はまた視界を白と黒に埋め尽くされたのだった。
それから私はお城の中を適当にブラブラと歩いていた。なぜかと言えばやることがないからである。
だったら街の外に出て魔獣でも倒しに行けばいいだけの話なのだが、現在アルさんから外出禁止令を言い渡されているためそれもできない。
私はアルさんにある話を持ちかけられていた。それはファーレン王国の騎士団に入らないかというもの。
騎士団に入るか冒険者になるかの選択で私は冒険者を取った。なぜなら騎士団に入るためには3年間学校に通わなければならない。しかし神の化身としての役割を果たすためにそんな学校などに通っている暇などあるわけがなかった。
だけどここにきてこの話だ。アルさんによれば私の力が魔獣相手に絶大な効果を示すのは分かりきっているうえに身体能力 面においても神獣2体と契約を交わしているのであればいちいち学校に通う必要などないとのこと。
正直に言っておいしい話ではあると思う。だけど私も考える時間くらいは欲しいし、お城の方も新しい騎士を迎える準備というものがあるそうだ。学校で言う始業式みたいなものなんだろう。
「とは言ってもどこに行けばいいのやら。」
『お庭は?ほら、城の真ん中にあるあそこ。』
『俺なんか眠くなってきたぜ…。』
「寝てないの?」
『あなたのことが心配で寝てる余裕なんてなかったわ。』
『そういうこと。』
「そっか…じゃあ誰も居ないみたいだしあそこでお昼寝でもしよっか。」
私たちはコの字型のお城の真ん中にある大きな庭で休息を取ることにした。
あの時は夜目が利いていたとはいえはっきりとは見えてなかったけど、昼の太陽に照らされた庭は言葉にするのが難しいほど綺麗だった。風に乗って草花の安心する香りが鼻をくすぐっていく。きっとお城の侍女さんや執事さんが丹誠込めてお手入れをしているんだろうなぁ。
「ッ~。気持ちいい…。」
花があまり植えられてない芝生を選んでそこにゴロンと寝転がった。私のすぐ傍にヴァイスとシュヴァイツも寝転がったので私は少しだけ頭を動かしてシュヴァイツのお腹を枕にする。すると枕にされなかったヴァイスが甘えるようにその大きな頭を私の伸ばした太股の上に置いてきた。
『レナの太股って柔らかくて気持ちいいわねぇ~。』
「…あまり擦りつけないでくれるかなぁ。」
今はニーソックスなど履いてないため生足状態である。ヴァイスの毛がダイレクトに当たってくすぐったいったらありゃしない。
それでも気持ちよさそうに目を細めている彼女の様子に私はそれ以上何も言えなくなった。心配をかけてしまったことへのお詫びとでも考えればいい。
シュヴァイツはよほど眠たかったのかもうスピーっと寝息を立てていた。その黒い毛を優しく撫でつけてやる。
『私にも。』
「はいはい。」
物欲しそうに真っ赤な瞳をよこすヴァイスの頭も左手で撫でてあげる。しばらくして彼女も夢の世界へと旅立っていった。
2匹の獣の寝息に囲まれて、それに誘われるように私もそっと瞼を閉じる。
「あら…これはこれは…。」
どこからか声が聞こえたような気がしたけれど夢に落ちていく私にはそれが本当かどうかも分からず、最終的には深い眠りについた。
スクライドにて玲那、初のお昼寝。
白と黒は相変わらずの変態です。
あと今回騎士姉弟が完全に空気でしたねすいません。大丈夫また出番あるから。




