28話
しばらく歩いてたどり着いたのは他の部屋よりも綺麗で豪華な装飾を施されている扉の前。
ここは王様のお部屋だそうだ。どこか大きな謁見の間みたいな所に連れて行かれると思っていた私は少し拍子抜けしたものの扉を前に気を引き締める。
エルヴィンさんが扉をノックした。
「王。彼女を連れてきました。」
「あぁ、入って良いぞ。」
エルヴィンさんとエミーリアさんがそれぞれ片方の扉を掴んでグイッと押し開けてくれる。私はドクドク脈打つ心臓の音を痛いほど感じながらゆっくりと足を進めた。
部屋の奥でテーブルに肘を突いてこちらを見つめていたのはあの金髪の男性。けど、その瞳に氷のような冷たさは宿っていなかった。
ええっとこういう時って私が膝を突いて顔を下げるんだっけ。私はおぼつかない動作でゆっくりと彼の前に跪いた。
「ほう。初めて見る姿勢だな…。顔を上げてもいいぞ神の化身よ。」
「か、神の化身…?」
なんだかよく分からないけどもしかしなくてもその「神の化身」というのは私のことだろう。
恐る恐る顔を上げるとなんと金髪の彼は優しく微笑んで私を見つめていた。昨日とのあまりの違いに私は逆に怖くなって声が出せなくなる。
自分の身体が小刻みにプルプル震えているのが手に取るように感じられた。この笑顔の裏に一体何があるというのか。
「おい、お前に言われたとおりに優しく微笑みかけたのになんか震えられてるんだが。」
「それは昨日のお前とのギャップに怯えてるんじゃないのか?」
「昨日のあなた、ホントに怖かったわよ。こんな小さい子に刃を突きつけて睨み付けたんだからトラウマになっててもおかしくは…。」
「あ、あの時はまさかイグナシオを元気にしてくれてたなんて思ってもなかったんだよ…。」
机に突っ伏して王様は溜息を吐いている。その様子を見た姉弟は呆れたようにやれやれと首を振っていた。
私は私でその想像してもみなかった光景にまた言葉が出なくなっている。
なんだかこの3人やたらと親しげに会話していたけど、もしかして身分などをすっ飛ばした仲だったりするんだろうか。
いや、それよりも随分と落ち込んで顔すら上げられない王様のフォローをしなくてはいけない。
「あ、あの…王様…?怖がってしまい申し訳ありません。」
「やはり怖かったのか…。」
「…!いえ、あの!!言葉の綾といいますか…。元々は私が勝手にイグナシオと接触したのが悪かったのですから落ち込まないでください。」
「俺の方こそ怖い思いをさせて悪かった。あの後イグナシオにめちゃくちゃ怒られちまったよ。」
ハハハと苦笑する王様に対してもう恐怖は沸き上がってこなかった。エルヴィンさんやエミーリアさんとの会話からも察するに、本来はとても気さくな人のようである。
王様といえば自分のやりたい放題に独裁政治を行う人も歴史上に居たけれど、この人はそんなことしなさそうだ。
「自己紹介が遅れてしまいました。私はレナです。」
「俺の名前はアルフィート・ファーレン・エッフェンベルクだ。是非アルと呼んでくれ。」
「で、ではアル様。お聞きしたいことがあるのですが構いませんか?」
「いいぞ。あと様はいらないしその堅苦しい敬語もやめてくれないか?なんだか落ち着かねぇし。」
と、言われても私は王族相手にタメ語で話す度胸など持ち合わせてないのでせめてアル様からアルさんに変えるだけにさせてもらう。
聞きたいことというのはズバリ、彼が言った「神の化身」という言葉についてだ。
「アルさん。さっき私のことを神の化身と言いましたが…。」
「あぁ。イグナシオが言ってたんだ。レナはこの世界の神の代わりにその力を授かり地上に降り立った化身だと。」
「神…!?」
「レナちゃんは神様なの!?」
後ろで2人が驚いているけどそこまで分かっててアルさんは2人に話してなかったみたいだ。
まぁだいたい間違ってはいない。でもそんな大層な呼称で呼ばれるほどこの世界で何かをしたわけでもないのでこっちとしては首を傾げてしまう。
ところでそこの王様は私のことをどれくらい知っているのだろうか。
「あの…私のことをどこまで?」
「君がこの世界の人間じゃないことは知っている。」
「そうですか。」
「だから本名を教えてくれないか?さっきはレナと名乗っていたがそれは真名じゃないんだろ?」
真名と言われても苗字を省いてるだけなのでレナだけでも特に問題はないはずだけど、王様のお願いに逆らうなんて事はできない。
「…龍崎玲那といいます。この世界ではレナ・リュウザキということになるんですかね。」
「ほう…レナの世界では苗字を先に名乗るのか。苗字を名乗るということはそれなりの身分だったのか?」
「私の住んでいた国ではみんな苗字を持ってます。それに貴族や王族という身分もありません。」
「実に興味深い。また今度色々と話を聞かせて貰おうか。」
「あまり期待しないでくださいね…。」
テレビなんてほとんど見なかったし流行もよく分かってなかったのでそういう話は自信がない。
その後、ザヴェードの森でのことでもまたお礼を言われた。あのまま戦っていたらエルヴィンさんの部隊は間違いなく全滅していたそうでさすがの私も背筋に嫌な物が走る。本当にあのとき勇気を出してマスケット銃を握って良かった。
と、私はとっさに自分の右手首を確認してサッと血の気が引いてしまった。リューン様からもらったブレスレットが…ない。それにグースさんが買ってくれた短剣も、父さんから貰ったオカリナもない。寝ぼけていたのと緊張ですっかりそれらのことを忘れていた自分を殴りたい衝動に駆られる。
服はこの際もうどうでもいいけどブレスレットと短剣とオカリナだけは駄目 。絶対に手放したくないというか手放せない。
「あ、あの!!私のブレスレットと短剣とオカリナ…!!あのっ、お、オカリナ、ブレスレっ…剣…!」
「おい、どうした。」
「レナちゃん…?」
アルさんとエミーリアさんが訝しげにこちらを見つめてくるが、大切なものをなくしてしまったショックで上手く呂律が回らない。
心臓がドクドクと早いスピードで脈打って口から飛んでいきそうだ。
そのとき頭に温かい重みが重なった。見上げればエルヴィンさんが私に小さく微笑みかけていてこう言った。
「それらはレナと一緒にいた白と黒の神獣に預けている。何も心配することはないから落ち着け。」
「よ、良かった…。」
張りつめていた何かが一気に切れて私は自然とエルヴィンさんの方に寄りかかっていた。とっさにエルヴィンさんが肩を支えてくれたので転けることはなかったけどいきなりだったので彼も驚いているようだ。寄りかかった体温はひどく安心できて早く退かないとという思いと、いやもうちょっとという思いが頭の中でぶつかる。
ほどなくして私は身体を離した。
「ごめんなさい。ありがとうございます。」
「いや、気にしなくていい…。」
どこか硬い声色。迷惑かけてごめんなさい…。
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