26話
短めです。
聞こえてきた声は女の人の声。
「エル、居るんでしょ?」
「…あぁ、居るぞ。」
「失礼します。」
入ってきたのは新堂の扉を守っていたあの銀髪の綺麗な女の人だった。
私たちの姿を見つけるとプッと笑い出す。何かおかしいことでもしてたっけ。
私が不思議に思って彼女を見上げていると長い銀髪を揺らしながら私のすぐ隣に腰をかけてきた。
「初めまして。私はエミーリア。」
「は、初めまして…レナといいます。昨夜は本当に申し訳ありませんでした。」
「いいのよ、あなたは神獣を助けに来てくれてたんでしょ?私こそ怪我を負わせてしまって本当にごめんなさい。」
「怪我…?あぁ肩の。」
「ちょっと見せてくれる?」
エミーリアさんがそう言うので私は素直に肩から毛布を下ろして彼女に左肩を見せた。
包帯が丁寧に巻かれているその肩をエミーリアさんがそっと手にとって少しだけ傷口を触ると奥からツンと引きつるような痛みが走る。
「痛い?」と聞かれたのでコクンと頷くと何かをブツブツと呟き始めた。日本語でも英語でもないなぞの言葉を数秒呟いた後、私の肩に温かい光が生まれる。
その光が消えた後、痛みはまだ残っていたけどマシになったのは確かなので私は彼女にお礼を言った。が、彼女の顔は曇っていた。
「やっぱり、魔法の効果が薄いわね…。」
「やはりレナには魔力がないのか。」
「そうなるわ。あれだけ高位の治癒魔法を施しても奥の傷が中々癒えなかったんですもの。今は包帯で隠されてるからどうなってるか分からないけどまだ痛いでしょ?」
「は、はぁ。でもさっきより全然マシになったので気にしないでください。」
リューン様が塞いでくれたって言っていたし傷はこれから自然に治っていくだろう。
そして私にあの矢のようなものを刺してきたのはどうやらエミーリアさんのようだ。
私としてはこの人が弓を使ってあれを飛ばしてきたのかどうかが少し気になるので勇気を出して聞いてみた。
「ひとつ聞いてもいいですか?」
「えぇ、なんでもどうぞ。」
「エミーリアさんはあの矢みたいなものを弓を使って飛ばしたんですか?」
「いいえ、あの矢は相手を動けなくする麻痺の効果を矢の形にした魔法で、それをあなたの肩の中に直接移動魔法でテレポートさせたのよ。」
「そうだったんですか。わざわざありがとうございます。」
なるほど直接私の肩に瞬間移動させたというならヴァイスやシュヴァイツが気づかなくて当然だ。
と、ここでヴァイスとシュヴァイツのことを思い出して心配になった。2人も私のことを心配してるだろうし早く会いたい。
「あの、私と一緒にいた白と黒の狼は…。」
「あの2匹ならイグナシオと一緒に新堂に居るって。大変だったみたいよ、イグナシオがなんとか説得してくれたおかげで今は落ち着いてるみたいだけど。」
「それはそれはご迷惑を…。」
あの2人が王様にこれ以上不敬なことをしていないかについての方が心配だ。
「気にしなくていいの。じゃあ体調も悪くなさそうだしそろそろ行きましょうか。そこの男も目のやり場に困ってるみたいだし。」
「おい、別に俺は…。」
「はいはい、言い訳しない。」
「姉さん!!」
「へっ、姉さん?」
「あ、言ってなかった?私はそこにいるエルヴィン隊長さんの姉です。」
座っていたエルヴィンさんを無理矢理立たせてエミーリアさんはにっこり笑顔でそう言った。
確かに髪の色は同じだし、瞳の色はエルヴィンさんが藍色でエミーリアさんは紫で違うけど、並んでみると2人はとても似ている。姉弟と言われて納得だった。
しっかりしている面倒見の良さそうなエルヴィンさんが実は弟というポジションに居たことが少しばかり意外だったけど。
私は美形姉弟に連れて行かれるような形で豪華な部屋を後にした。
「まずは着替えからね。その格好で王様に会うのは失礼だし危ないから。」
「お、王様に会うんですか…。」
「王様」というワードで私の心臓がギュッと締められて悲鳴を上げた。
もしかして今から王様が私に罰を下すんだろうか。だとしたらこの先に進みたくない部屋に戻りたい。
「大丈夫だ。王はお前のことを怒ってなんかない。むしろ感謝していたぞ。」
「そ、そうですか。だったら安心ですけど…。」
それでも不安は拭いきれない。なぜならあの王様の氷のような瞳が脳に焼き付くように残っているからだ。
生まれてから今この瞬間までにたくさん睨まれた経験はあるけど、その中でも一番怖くてたまらなかったのはぶっちぎりで王様だ。
ほどなくしてある部屋に入れられる。そこはたくさんのドレスが置いてある衣装部屋のようだった。
まさかこの中のドレスを着なければならないのだろうか。それは嫌だなぁ。
そんなことを考えているとエミーリアさんが振り返ってこう言った。
「それじゃあ服だけど。ドレスと軍服どっちがいい?」
「軍服でお願いします。」
即答でそう答えるとエミーリアさんとエルヴィンさんはあっけにとられた表情で私を見つめる。
ドレスなんて着たことないし、小説などの影響でコルセットというものを締めるのは苦しいことだという先入観があったから私は軍服を選んだ。
まぁそれを抜きにしてもドレスなんて似合うわけがないから軍服を選んでいたのは間違いないだろうけど。
「意外ね。女の子はみんなドレスに憧れる物だと思うけど。」
「ドレスなんて着たことないですし。まぁ軍服も着たことないですけどやっぱり軍服の方がいいです。」
「分かったわ。でもあなたに合うサイズがあるかしらねぇ…。ちょっと待ってて!」
エミーリアさんは部屋の奥へと駆けていき、その後ろ姿は部屋に溢れるドレスなどで見えなくなってしまった。
エルヴィンのお姉さん登場の巻でした。




