24話
扉の向こうに居るイグナシオに向けて意識を送る。
(イグナシオ、聞こえますか?レナです。)
『あぁ、あなたが…リューン様が言っていた…。』
(はい。今からあなたを元気にします。ここの扉を開けますね。)
頭に響いてくるのはこれまた声フェチの私にはたまらない良い声。ちょっとドキドキする。
私は両手で装飾されているドアノブを押して扉を開いた。
中は驚くほど真っ白の空間だった。部屋のあちこちに結晶のようなものが浮いていて淡い光を生み出している。
ひどく幻想的な空間に心を奪われそうになったがすんでの所で押しとどめて私は部屋の中央へと向かう。
そこには頼りなさげに揺らめいているひとつの炎のような光、そしてそれを取り囲むように大量の魔石が置かれていた。
この光こそがイグナシオなんだろう。
(それじゃあ早速はじめますね。)
『えぇ、お願いします…。』
(ヴァイス、シュヴァイツ。扉を見張っててね。)
『えぇ。』
『任せろ。』
肩から飛び降りた2人は元の大きさに戻って扉の前で構えている。
私はそれを一瞥してから目の前の今にも消えてしまいそうな光の前に手を翳した。ほんのりと温かい。
指先から糸を伸ばして繋げるように意識を同調させる。ゆっくりと慎重に力を流していくとイグナシオの震えた声が頭に響いた。
それは安堵に満ちた声で私はホッとする。このままの調子でいけば順調に回復していくだろう。
と、その時だ。部屋の扉をバンバンバン!!と勢いよく叩く音が聞こえてくる。
「おい!!開けろ!!さもないとお前は一生涯日の光を浴びられない地獄へと堕ちるぞ!!」
おっちゃんでも銀髪のお姉さんでもない物騒な言葉を飛ばしてくる男の人の声。扉を叩く音は止むことなく、むしろどんどんひどくなっていくばかり。
それでも扉がビクともしないのは私が扉に力を加えているからだ。生半端な攻撃じゃ打ち破られることはないだろうけど、そろそろイグナシオの浄化と両立するのが難しくなってくる。
実際に扉を見張っていたあの2人の金縛りは私がイグナシオの浄化に取りかかった時点でもうほとんど解けていたはずだ。
『レナ殿…。』
(大丈夫、まだ…いける…っ。)
『駄目、これ以上は無理だわ。レナ、扉にかけていた力を解きなさい。』
(でもっ。)
『大丈夫だ。俺たちが誰1人として近づけさせやしない。』
私自身も限界を感じて扉へと繋げていた意識をとぎれさせた途端、扉がぶち破られた。粉々に砕けた扉の残骸がパラパラと視界の端に映る。
ゾロゾロと部屋に入ってくるたくさんの足音が聞こえたが、そんなことを気にしている暇なんてない。
あともう少し…もう少しでイグナシオの中を蝕んでいた呪いを浄化できる。ラストスパートだ。
その時だった。肩に強烈な痛みが走ったのは。
「ッあ”…!!」
『レナ!!』
『クソ野郎!!どこの何奴だ!!』
反射的に肩に手をやると弓矢のような光る何かが刺さっていた。徐々に肩の奥を燃やすような痛みが溢れてきて完全にイグナシオとの同調が崩れてしまった。
しかもだんだん身体に力が入らなくなる。すると今度は腕や足がどんどん痺れていき私は文字通り崩れ落ちた。床に強く身体を打ち付けたせいか全身に鈍い痛みが走る。
ふと誰かの恐怖に満ちた悲鳴が聞こえて薄く目を開けてみると、騎士の人たち相手にヴァイスとシュヴァイツがその鋭い牙を覗かせ威嚇をしていた。
今にもその場にいる全員を喰い殺してしまいそうな2人に私は必死に意識を送った。
(だめっ…傷つけちゃ…駄目…!)
『主に傷を付けられて黙っちゃいられないわ!!』
『こいつら許さねぇ…!!』
(駄目ったらだめ!!私は大丈夫だから2人とも落ち着いて…!)
必死にそう伝えると分かってくれたのか2人から殺気が消えた。そして私の方へと後退してくる。
2人が後退し始めると部屋に入ってきた人たちがその分前へと進んでくる。
中央には輝かしい金色の髪をした男の人。その人を守るようにさっきのおっちゃんや銀髪のお姉さん、そしてエルヴィンさんともう1人騎士の人がいて、その更に後ろには何人もの鎧を纏った騎士の皆さんが居た。
エルヴィンさんは驚愕の表情で私のことを見つめていた。昨日とは違う張りつめた空気の中で視線が交わる。
また先に視線を逸らしたのは私の方だった。彼に会うかもしれないと覚悟はしていたけど、いざそうなるとやはりなんだか辛い。
気づけばヴァイスとシュヴァイツは私のすぐ隣まで下がってきている。2 人の喉からグルルルルルと低いうなり声が聞こえてきた。
金髪の人はどんどん私に近づいてきて腰に提げていた剣をスッと抜き取る。その刃を私に向けて突きつけてきた。
「お前は何者だ?」
「私は…。」
「答えろ。お前は何者だ。」
冷たく低い声で問いかけられる。私はなんて答えたらいいのか分からない。
ここで身体が動けば正面から強行突破できるのにそれができず、私はただただ彼を見上げることしかできなかった。
痺れを切らしたその人は突きつけていた剣をスッと構える。その時、シュヴァイツが大きなうなり声を上げた。
するとその人はその刃を私からシュヴァイツに向けようとした。とっさに私は叫んでいた。
「ダメッ!!」
その人の額に突きつけられる物。金と銀の装飾が美しいそれは私が出現させたマスケット銃の銃口だった。しかもひとつだけじゃない。9本全ての銃口が彼へと向けられている。
ほぼ衝動的だった。私自身がどうこうされるのは構わないけどヴァイスとシュヴァイツに傷を付けられるのは嫌だ。
その人も、後ろに控えている騎士の人たちも絶句していた。今はよほど使われていない銃がどこからともなく現れたんだから無理もない。
動くに動けない彼と、息を荒げて呼吸もままならない私の視線がぶつかる。
そんな時、部屋中に響き渡る声が聞こえた。
『そこまでです。王よ、その剣を下ろしなさい。彼女たちにそれを向けてはいけない。』
「ッ!?」
それはイグナシオの声だった。さっきまでの弱々しかった声ではなく、もっと凛とした反論を許さないような威圧のある声。
どうやら私の前にいる金髪の彼は現国王様だったようだ。国王様に銃口を向けている私…あぁ、人生終わったかもしれない…。
そんな彼は私の後ろへ視線を固定したまま目を見開いていた。私も首だけで後ろを振り返って息を呑む。
炎の鬣を揺らし真っ白の翼を広げそこにたたずんでいたのはペガサス。そう、イグナシオだった。
彼がバサリと翼を広げると辺りにキラキラと輝く綺麗な羽が舞い散る。まさに神獣と呼ぶにふさわしい輝かしさだ。
「イ、イグナシオ…?そんな、どうして。」
『この者たちが私の中を蝕んでいた呪いを取り除いてくれたのです。』
「なんだって…?」
信じられないとでもいう風に私を見下ろす国王様。私はもうほとんど意識が朦朧としていて声を出すことすらもできない。
ただ呼吸だけを繰り返していると頬にそっと触れるものがあった。イグナシオの鼻先だ。
『ありがとう。残りの呪いは取り戻した力でなんとかできます。あなたはもう、おやすみなさい。』
(そうさせて、もらうね。ありが、とう。)
最後にもう一度エルヴィンさんに視線を向けた後、私は包み込むようにやってくる暗闇に意識をゆだねた。
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玲那は相変わらず声フェチ。




