23話
あの後無事にじっくり熟睡することもでき、時刻は丁度0時をまわったところ。
私は宿屋の部屋で最終確認をしていた。
まず第一にお城への潜入。お城の前や城内の警備は全て騎士団の人が請け負っているらしく一筋縄ではいかなさそうだが、いざというときは神の力でなんとかしてやろう。夢の中でリューン様から力の使い方もある程度教わったことだしね。
第二にイグナシオの元へと向かう。城の構造はおおむね把握できていた。なぜかというとこれもまたリューン様が教えてくれたからだ。
道を覚えるのは基本的に苦手だったけれど頭の中にしっかりと地図が残っている。後は私がこの地図通りに間違えず進んでいけるかが問題だけど。
そして最後にイグナシオを蝕んでいる呪いを浄 化する。リューン様いわく一番の難関がここだという。
イグナシオが保護されているのは城の一番奥にある「神堂」と呼ばれる所で王がイグナシオと契約を交わすときに使われる神聖な場所らしい。
もうイグナシオにはリューン様から話をしているそうなので入ることができないなんてことはないんだけど、私が足を踏み入れたと同時に城の中の人に私の存在がバレてしまうそうで。
扉を開けて足を踏み入れた瞬間に警報が鳴ってその警報はもちろんお城中に響き渡る。
きっとすぐに城に居る騎士やもしかしたら国王様までやってくるかもしれない。しかしすぐに来られると非情に困るのだ。
イグナシオに私の浄化の力を流し込むのはかなり繊細な作業で集中力がいる。しかもイグナシオ の力がかなり弱っているから私がイグナシオに合わせないと余計に彼に負荷がかかってしまうらしい。
そこの対策は一応考えてはあるけど上手くいくかは正直分からない。
失敗すれば私は牢屋へ連れて行かれ、イグナシオはいずれ力を使い果たして消滅してしまう。
だからこそ失敗は許されない。私のためにもイグナシオの為にも。そしてリューン様のためにも。
「じゃあ、行こうか。」
『えぇ。』
『了解。』
動きにくい上着は脱いでおき腰に短剣を提げる。私はそっと玄関から宿屋を出て行った。
宿屋から歩いて10分もかからないうちに城のすぐ近くまでやってきた。私は真っ暗闇の中その城をジッと見上げた。
お城の構造は某夢の国にあったようなのとは違ってちょっとシンプルなコの字型をしている。道を覚えるのが苦手なはずの私が割とすんなり城の地図を覚えられたのはこのシンプルな構造のおかげだろう。真ん中に大きく開いているスペースは綺麗な花々が並んでいるお庭になっているようだ。
余談になるけどどうして私がこんな暗闇の中はっきりと城を見ることができるのかというと自分の目を猫の目のように変えたからだ。もちろん神の力で。本当になんでもありだこの神の力って奴は。
(正面から入るのも面白くないよね。)
『そうね。じゃあ裏側から入ってみる?』
(うん。あ、でもどこの扉も開いてないんじゃないかな。こんな夜中だと。)
まさか戸締まりもせずに寝てしまうなんて事はないだろう。たとえ城の中で騎士の人が警備をしていたとしてもだ。
『大丈夫だ。レナの力をもってすれば鍵くらい開けられる。』
(なんか申し訳ないなぁ…じゃあ裏口から入っちゃおう。)
こそこそと裏口にまわって質素なドアノブに手を掛けようとしたとき、私はふと気づいてしまった。
これじゃあただの泥棒じゃん!!いや、泥棒はなんかダサくて嫌だからこの際かっこいいイメージの強い怪盗がいいな。
でも怪盗はこんなコソコソ裏口から忍び込むようなことはしなさそうだ。
ドアノブにかけた手に少し力をこめる。手からドアノブへ流し込むように力を加えるとやがてカチャリと控えめに鍵が開く音がした。
少しだけ扉を開けて中の様子をうかがう。昔清花と一緒にプレイしたホラーゲームの主人公もこんな風にドアを開けていたのだ。
(人はいない…ここは食事を作る所かな?)
『みたいだな。だったらここから食事を取る広間に出てそこから廊下に出られるはずだ。』
『廊下を出てからが勝負所ね。』
(よし…!)
後ろ手に扉をそっと閉めて調理場を進んでいく。扉を開けて向こう側の広間を抜けて廊下へ続く扉の前まで来てしゃがみこむ。
耳を扉に押し当てて神経を研ぎ澄ませる。どこからも足音は聞こえない。
今は安全だと確認した私はドアノブに手を掛ける。やっぱりここも鍵がかかっている。こんなものはすぐに解除だ。
扉を開けて廊下に出る。と、ここで私は思わず「え?」と情けない声を出してしまった。
なぜなら廊下の壁にでかでかと矢印が書いてあるのだ。さも「こっちへ向かってくださいねー」と言わんばかりの巨大な矢印が。
(なにこれ。)
『たぶんリューン様ね。レナのために道しるべを置いてくれたんだわ。』
『良かったな。これで道に迷う心配は無くなったぞ?』
(そうだけど…。まぁリューン様に感謝しないとね。)
ご親切なはからいではあるけどなんだかこっちの気が少し抜けてしまった。まぁ変に緊張しすぎるのもあまり良くないけどね。
その矢印の通りにゆっくり足音を立てずに進んでいく。たまに巡回をしている騎士の人たちと遭遇しかけたこともあったけど、真面目なのか騎士の人たちはなぜかみんな室内だというのに頭まで鎧を纏っていた。そのせいかあまり視界は広くないらしく壁の隅で息を殺してしゃがみこんで「あ、見つかる。」と思っていても華麗にスルーされることが何度かあった。それではいけないと思うよ騎士の皆さん。
そんなこんなでどこかのスパイみたいな気分になりつつ進んでいくこと数十分。とうとう目的の部屋の近くまでやってきた。
部屋の前にはエルヴィンさんみたいに最小限 にしか鎧を纏っていない男女が2人。
1人は顎にチクチクと痛そうな髭を生やしたおっちゃん、もう1人はエルヴィンさんと同じ銀色の髪をしたこれまた見事なボンキュボンの身体を持つ女性。
私は今、神堂へと続く扉のある廊下の曲がり角に身を潜めている。つまりここから神堂に入ろうと思ったらおっちゃんの前を通らないといけないわけで。
『どうするつもり?』
(あの2人には申し訳ないけど上から負荷をかけて身体を動かなくさせる。もちろん顔も上げさせない。)
『おぉ、こりゃまた大胆に行くんだな。嫌いじゃないな、そういうの。』
あの2人の上に巨大な土嚢でも落ちてくるようなそんなイメージを湧かせる。
そのイメージが固まった後、私は勢いよくその意識を2人の頭上へと振り下ろした!
「っ!?!?な、なんだこれは!?!?」
「か、身体がっ…動かない…!?ぐうっ…!!」
2人はガクンと勢いよく膝を突き、そのまま四つん這いの状態から動かなくなる。
俯いて苦しげに息をしている2人に心の中でごめんなさいと謝りながら私は扉の前まで歩いていった。
扉の前までやってくると俯いたままおっちゃんが話しかけてくる。
「貴様っ…!!何者だっ!!こんな、ことをしてタダで…すむ、と、思っている…のかっ!!」
「これはっ、なんなの…!?魔法…?でも、魔力、を…感じ、ない…。」
女性が訳が分からないとでもいうように唸っている。
そもそも私はこの世界の人間ではないから魔力そのものが無い可能性だってあるわけだけど。
私はチラッと2人を一瞥してから扉に手を押し当てた。




