22話
エルヴィンさん達を見送ってから数時間後。昼食も食べ終わり、軽く荷物を抱えた私はエルヴィンさんたち騎士団が潜った門の前にいた。
あらかたの準備は整った。グースさんやアイナさんが持たせてくれた物は薬に食べ物にあとはタオルなど日用品が少し。
後ろを振り返る。2人が手を振ってくれていた。
必ずまた戻ってくる。だからその時まで待ってて欲しい。
そう言えば2人はギュッと抱きしめてくれた。私もそっと抱きしめ返した。
振り返った私は精一杯2人に向けて手を振った。どうか、お元気で。
町を出て舗装されていない道をヴァイスの背中に乗って歩きながら今後の事を考える。
とりあえず最初の目的通りにファーレンの王都に向かうことにしたけど、その後のことを考えないといけない。
「ねぇ、これからどうするべきだと2人は思う?」
『そうねぇ…。魔獣を倒して廻るのもいいかもしれないけど、もしレナがよければお願いしたいことがあるの。』
「お願いしたいこと?」
『ヴァイス。もしかしてイグナシオのことか?』
『えぇそうよ。』
「イグナシオ…?」
『イグナシオ…。ファーレンの王族と代々から契約を交わしている神獣よ。』
イグナシオ。容姿は真っ白の身体に赤く揺らめく炎の鬣。一本の美しい角と背中に大きなこれまた美しい羽が生えているという。
たぶんペガサスのような感じだろう。ペガサスに角が生えていたかどうかは忘れてしまったけど今は置いておく。
そのイグナシオの力が何故か急激に弱まっているのだという。
だからファーレンの現国王様は必死に魔石を集め、その魔力でどうにかこうにかできないかと頑張っているらしいけど大した効果は無し。
そのイグナシオを私に元気にして欲しいということだ。
「私にできるかな?」
『あなたはリューン様の力を持ってるのよ。創造主の力を直接受け取れば間違いなく元気になるわ。』
『俺たちだってレナと契約を結んでからすごく調子が良いんだぜ?きっとイグナシオに気に入られるなお前。』
「まぁ気に入られるとかは別にいいんだけど、どうやってイグナシオに会うの?」
問題はそこだ。王族と代々契約を結んでいるのだとすればたぶん最高のセキュリティでイグナシオは守られているに違いない。
そんなところまで直接会いに行くのは難しいし、もし捕まってしまえば私は牢屋へ放り込まれるかも…。
と、悩んでいたその時だった。
-私からもお願いするわ。-
『この声…!リューン様!?』
『リューン様!!俺たちの声が聞こえますか!!』
波紋のように空気を震わせて聞こえてきたのはリューン様のお美しい声だった。
すぐにヴァイスとシュヴァイツが耳を立てて反応する。リューン様に話しかけている2人は少し余裕を持っている普段からは考えられないほど興奮している。
私のすぐ後ろでブンブンいわせている尻尾で一目瞭然だ。
-えぇ、聞こえているわ。久しぶりね元気にしてた?-
『私たちはいつでも元気です!』
『あぁ…でもまたリューン様のお声が聞けるだなんて…!俺たちは幸せだ!!』
-うふふ。そう言ってもらえるのはとても嬉しいけど、レナが驚いているわよ?-
「え、あーそんなことないよ?」
いや、そりゃちょっとは驚いたけどヴァイスとシュヴァイツはリューン様から創られたんだから2人にとってリューン様は親みたいなものだろう。
それに2人の反応を見るに長い間声すらも聞けてなかったみたいだし、これだけ興奮してしまっても仕方あるまい。
こういう感動の再会ってやつは私も結構好きだから、驚きよりも「良かったね」って気持ちの方が大きかった。
「それよりイグナシオのことだけど。」
-そうだったわね。彼は今、王都の城で実態を保てないほど力を消耗しているわ。恐らく魔獣のかけた呪いの力のせいね。-
「呪いの力…。私なら、その呪いを解くことができるの?」
-できるわ。神の力は浄化の力だもの。あなたにはイグナシオの力で浄化しきれなかった呪いを解いて欲しいのだけど、やってくれる?-
「もちろん。リューン様のお望みとあらば、親友として力になりましょう。」
-素敵な親友を持って私は幸せだわ。こちらからサポートもするから、頑張ってね。ヴァイス、シュヴァイツ、玲那のことをしっかり守るのよ。-
『かしこまりましたリューン様。』
『レナには指一本誰にも触れさせません。俺たちに任せてください。』
-それじゃあ、またお城に着いたときに。-
それを最後にリューン様の声が聞こえなくなった。
ヴァイスとシュヴァイツによれば、近道を使い今から全力で走れば日が暮れる前には王都へ着くことができるらしい。
私はその提案に乗ることにした。たどり着く前にイグナシオの力が尽きてしまっては元も子もないし。
しっかりとヴァイスに捕まる。ほどなくして2人が全力疾走し始めたが風圧がすごすぎて正直目を開けていられない。
『レナ、大丈夫?』
「んんん…!目っ、開けらんないっ…!!」
『ヴァイス。薄く結界を貼ろう。』
『そうね、その方が良さそうだわ。レナ、ちょっとだけ待っててね。』
ヴァイスがそう言ったそのすぐ後、私を襲っていた風圧はなくなった。
白い毛にしがみついていた身体を起こすと2人はものすごいスピードで走っていた。たぶん車の時速50~60キロくらい。
そりゃ風圧もすごいはずだ。下手したら私は勢いよく吹っ飛ばされていたかもしれない。
といっても完全に風圧がなくなった訳ではなく、目をちゃんと開けていられる程度の風は感じられた。
不思議な感じだった。周りの景色は認識する前に後ろへ流れていくのに頬をそよ風が撫でていくのだから。
だけどまるで自分自身が風になっているような気分になる。すごく気持ちいい。
気づけば私は歌を歌っていた。走っている2人の背中に乗っているから音程はめちゃくちゃになりそうだと思っていたけ ど、これまたビックリするくらい音程が取れていた。
もしかして神の力のおかげだったり…するのかな?
私がさっき思った感想と同じ曲名の歌をアカペラで歌う。
私の傍にいるのは猫じゃなくて狼だし、乗っているのも自転車ではないけど、歌っているとさらに風になれるような…そんな気がした。
そろそろ夕陽が沈もうする頃、私たちは予定通りファーレンで一番大きな街、王都に到着した。
王都の入り口より離れたところでヴァイスから降りて小さくなった2人を肩に乗せる。
上着のフードをしっかり被って私は門の前まで歩いていった。
「おぉ…。でかい…。」
私の目の前にそびえ立つのは大きな壁だった。そう、王都は周りを大きな分厚い壁で覆われているのだ。
この壁には魔獣をなるべく寄せ付けないように魔除けの魔法がかけられているそうで、王都に籠もっていれば魔獣に襲われることはまずないんだとか。
もし私が何の力も持っていない日本に居た頃のままだったら間違いなく王都に引き籠もってるだろう。
ひとつ深呼吸をして王都に足を踏み入れるとまるで全く違う世界に足を踏み入れたような感覚に陥った。
外からはほとんど何も聞こえなかったのに、入った途端に私の周りはたくさんの人の声が、音が溢れた。
生まれたときから田舎で暮らしていた私はその街の大きさや溢れる音の多さに少し気後れしてしまう。
(すごいね…)
『どこの国も王都はこんなもんだ。年に何回かある祭りの時なんかはもっと凄いぞ。』
(うわぁ~なんかここの空気に馴染める予感がしない…。)
『とりあえず宿を探しましょ。夜が更けるまで待機しておかないと。』
(そうだね。その辺の人に聞いてみよっか。)
その後、私は人の良さそうなお爺ちゃんに宿までの場所を教えて貰い無事に部屋を確保することができた。
宿の部屋は思っていたよりも綺麗で広く、ヴァイスとシュヴァイツが元の大きさに戻ってもそれほど狭く感じない。
私は2人にもたれ掛かって夜まで眠ることにした。ベッドがあるじゃないとヴァイスに言われたけど2人のモフモフの方が全然気持ちいい。
そう言うと2人は嬉しそうに目を細めてよりいっそう擦り寄ってきた。その様子は大きな身体の癖にとても愛らしいけど、どさくさに紛れて割ときわどい所を舐めようとするのは止めていただきたいです。
「こら、ニーソから出てる太股舐めようとしない!」
『あらまぁケチんぼさんね。』
『ケチだな。』
いったいこれのどこがケチだというのか。
たくさんのお気に入り登録ありがとうございます。作者は跳んで喜んでいるようです。
玲那はこれからもちょくちょく歌を歌ったりします。
歌っているのがなんの曲かなるべく皆様に伝わるように書いてるんですが難しいです←




