20話
※エルヴィンside
俺はその日、魔獣討伐のために部下を連れてザヴェードの町へ向かった。
ザヴェードの町と言えば徒歩で20分というそう遠くない所にザヴェードの森と呼ばれる魔獣が多く出現するとても深い森がある。
そんな危険な森の近くだから当たり前だが町は小さく、人口もそう多くはない。この町に住んでいるのはここに住み続けると決めた地元愛の深い者達だ。
町に入れば快く住民が迎え入れてくれる。他の町でも訪れればまるで救世主のように扱われるが、この町は少しだけ違う。
実際に言葉では言われてはいないが「おかえりなさい。」とでも言われているようなそんな気がするのだ。その小さな温かさが俺は好きだ。
だからザヴェードの森の魔獣討伐は他の部隊に取られないように常に気を配っている。
まぁ、そんなことはしなくても小さい町で出てくる料理も待遇もそんなに豪華じゃないという理由だけでザヴェード周辺の依頼はただでさえ残り物のような扱われではあるが。
話を戻す。その日の討伐対象はどれも中級の魔獣だった。俺の部隊は全員で30人と少しほどで、中級魔獣ならよほど大きなトラブルがなければ問題なく倒せる。
だから俺は部下達にもう一方の魔獣を任せて、自身は他の中級魔獣の相手をしていた。
俺の愛用している剣は上級魔獣から生み出される強力な魔石を大量に加工していて、その力は魔獣相手に絶大な威力を持つ。
だから俺はひとりでも中級魔獣1匹相手ならなんとかできる。初級であれば10匹以内なら退けることができるだろう。
相手をしていた中級魔獣を倒して愛馬のカイザーに跨ったとき、通信が入った。つい最近開発されて運用され始めた無線から聞こえてきたのは部下の悲鳴だった。
「たっ、隊長!!大変です!!」
「どうした!?なにかあったのか!」
「ま、魔獣が急に進化して上級にっ!!」
「なんだと!?すぐに行く!頑張って持ちこたえろ!!」
思ってもいない、最悪のアクシデントだった。
俺はカイザーを全力疾走させる。すると遠方でその魔獣と思わしき地を揺るがすような咆哮が聞こえてきて俺の心臓が早鐘を打つ。そのまま心臓だけ前へと飛び出していきそうなくらいだ。
だが、そこで俺は気づく。だんだん魔獣の声がもがき苦しむような物へと変わっていることに。
まさか部下たちが上級魔獣相手に張り合っているとでもいうのか。部下たちには申し訳ないが彼らには上級魔獣を倒すだけの力はない。精々足止めをするのが精一杯のはずだ。
上級魔獣と戦うときは騎士団の各部隊長を筆頭に精鋭メンバーを集め、必要なら国で管理されているドラゴンをも連れて行く。そして初めて勝利を可能とするのだ。だから俺は駆けつけたときの 光景に驚きをせなかった。
「こ、これは…。」
俺が駆けつけたときには戦闘は既に終わっていた。普通なら俺たちが負けて全滅しているはずなのだが、部下たちは皆無事だった。
上級魔獣相手に勝利を納めてアドレナリンが大量分泌しているのかテンションがハイだ。
俺は彼らを通り抜け奥に転がっている強力な魔力を放つ魔石を回収する。すぐに部下たちが「俺が持ちます!」と声をかけてきたのですぐに受け渡した。
(一体俺が駆けつけるまでに何が…?)
上級魔獣を倒し、仲間も失わずに済んで喜びを分かち合う部下たち。結果としてこれは良い方向に進んだ。最悪俺も含めて全員死んでいたかもしれない。
これは正に奇跡というものだろう。その奇跡をもたらした原因がどうしても気になった。
俺は周囲を見回す。その時だ。
崖の上に少女がいた。
黒に近い焦げ茶色の少しフワッとした髪に、クリッと円い真っ黒の瞳。顔立ちは可憐であどけなく、歳は10代前半といったところか。
高い崖の上から俺のことをジッと見つめていた。俺と目が合うとあからさまに肩をピクリと震わせる。
俺は不思議に思った。なぜこんな危険な深い森に女の子がひとりで魔獣と戦闘が行われた場所の近くにいるのか。
今ここで俺が彼女のもとへ駆けつければ良かったのだが、俺は縫い付けられたかのように彼女から目線が離せなかった。
それはたぶん向こうも同じだっただろう。黒い瞳は俺を写して離さない。
やがてフッと視線を反らしたのは彼女の方。そのまま伏せていたお腹をまるで芋虫のように引きずりながら森の奥へと消えていった。
「隊長!…隊長?」
「…!?あ、あぁ。なんだ?」
「魔石の回収が終わりましたが…。あっちの崖上に何か?」
「いや…。子猫がいただけだ。」
「こ、こねこ?」
こんな森の中に猫など居るわけがないが、彼女を例えるなら子猫が一番しっくりくる。
呆けている部下を置いてカイザーの元へと戻った。それからしばらく魔獣を倒しながら部下と森を歩き回る。忙しなく周囲に視線を泳がせる俺に「どうしたんだ。」とでもいうようにカイザーが鼻を鳴らした。
俺たちは夕方頃に町へと戻った。
出迎えてくれる住民の間を歩いている気分はさながら小さなパレードのようだ。
そこでも俺は住民へ感謝の言葉をかけつつ目線を四方八方へ巡らす。
結局森でも町のミニパレードでも子猫を見つけることは出来なかった。
やっと子猫を見つけたのは夜の緑の広場だった。
宿で部下たちと魔獣退治終了のパーティをしていた時、ふと外の空気を吸いたくなった俺は外に出た。防寒性があるとはいえ3月の夜は軍服だけではやはり少し寒い。ほとんどの店が営業を終えた町はとても静かで王都では味わえないこの静寂を空気をたっぷり吸い込みながら味わう。
「…?」
その時、音が聞こえた。笛か何かの音だろうか。俺は気になって耳に神経を集中させる。
気づけば俺は音の出処を求めて足を進めていた。だんだん音が近くなっていくと共に奏でられるそのメロディーに何故か心が締め付けられる。
音楽になぞ全く興味も沸かなかったのに、この音が、メロディーが、気になって気になって仕方ない。
数分で音の出処へとたどり着いた。そこに居たのは朝に森で見かけたあの子猫だった。
子猫は目を閉じて両手に包んだ楽器から器用に音を奏でていた。自分の世界に浸りきっているのだろうか。こちらに気づく気配がない。
結局子猫がこちらに気づいたのは彼女の奏でている音楽が止まった頃。それをきっかけに彼女の目の前まで歩いていく。俺を見上げた彼女の目 からポロリと涙が零れた。俺が狼狽えるより先に彼女が何故か可笑しそうに笑うため、俺は首をかしげた。
「なぜ笑う…?」
「いや、上を向いていてもやっぱり涙は零れるんだなぁと。」
それは当たり前のことだが、彼女の纏うなんともいえない雰囲気に触れて俺は言葉が出なくなる。
すると今度は彼女が俺に「ここに何か用事があるのか?」と訪ねてきた。俺は音を辿ってきただけでここに用事は無かったが丁度いい。
俺はどうしてザヴェードの森に居たのかを聞いた。すると彼女は「分からない。」と返す。
なんと彼女は自分の名前と両親が亡くなっていること以外は覚えていないそうだ。あんな崖の上に居たのも足がすくんで動けなかったかららしい。
事情が事情だから仕方ないとはいえ、もしかしたら命の危険もあったかもしれない。俺はこれからは森に入らないように釘をさしておいた。
そして彼女に聞きたいことはあともう一つあった。
「じゃあ2つ目。さっきの曲は何ていう曲だ?」
「さっきのですか…?聞いてどうするんです?」
「俺は別に音楽に興味があるわけじゃないが、あの曲は気に入った。」
自分でも本当に不思議だった。
別に音楽が好きなわけでも嫌いなわけでもない。ただ興味がないだけ。
だが、彼女の奏でる音色に確かに俺はどうしようもなく惹かれた。無意識に身体が求めていたのだからそれは間違いないだろう。
気に入ったと言われた彼女は少しだけ頬が緩んでいた。まるで野良猫を手懐けているような気分に陥る。
「星の帰り道という曲名です。私が作りました。」
「君が作ったのか。となるとその曲はどこにも売ってないんだな。」
「その通りです。」
「それは残念だ。」
自分で作ったというのか。記憶がないまま。
ここで俺は1つ疑問を抱いた。音楽のことなぞてんで分からないが、記憶がないのにこんなに心に響く曲を作ることはできるのか。
それに彼女はスラリと曲名を口にした。まるで元々知っていたかのように。
まだ確信はできない。だから改めてちゃんと曲を聴きたいと俺は思った。
「もう一度、聞かせてくれないか?星の帰り道。」
夜空を見上げながらそう言った。
これからしばらくテストなので更新が止まります。それでももしかしたらテストにうんざりして投稿するかもしれませんが…←




