16話
今回かなり短めです。
曲が終わってホッと深呼吸。やっぱり誰かに聞かれていると緊張する。
やがて隣からパチパチと拍手が聞こえてきた。彼は微笑みながらこちらを見ている。
なんだかとても恥ずかしかったが、それよりも相手が喜んでくれていることへの嬉しさの方が勝っていた。
「素敵だな。これはどういう曲なんだ?」
「これは星空の下で1日を振り返りながら家族の待っている家へと向かう帰り道がイメージの曲です。」
「そうか。実はこの曲を聴いて俺も久しぶりに実家のことを思い出した。すごいな、聴いた人が本人の作った曲のイメージと同じことを思うなんて。」
そんな美声で褒められるとどうしたらいいか分からない。アイナさんの時もそうだったけど私はあまり褒められ慣れていないんだ。
別に周りが厳しかったとかそういうわけではないけど、基本的に私が褒める側だったから逆の立場に戸惑っているだけだ。
しかも実は私かなりの声フェチでぶっちゃけるとこの人の声はドストライクだったりする。
顔も良くて声も良くてしかも騎士団の中で上の立場とかもう人生勝ち組だなこの人と私は心の中で溜息を吐いた。
「お褒めいただいて光栄です。でもちょっと過剰すぎやしませんか。」
「俺は思ったことにしか口にしない。それよりも他にも君の作った曲はあるのか?」
「ぅえ?まぁ、ありますけど…。」
「ほぅ。聴かせて貰っても?」
「は、はい…!どど、どうぞ…!」
彼は不適に笑いながらズイッと顔を近づけてくる。その目はまるで獲物を目の前にした猛獣のようで私は冷や汗をかき始める。
ここでNoと言ってしまうとあまりよくないことが起こりそうだと思った私はコクコクと頷いてオカリナを奏でた。
1曲吹き終わる度に彼は曲の内容を質問してきた。私もそれに律儀に答える。
彼はそれだけじゃなくちゃんと聴いた感想を言ってくれるから私もすっかりやりとりに夢中になってしまった。
そして私の吹いた曲が2桁に突入しそうなときのことだった。
「少し聞きたいことがあるんだが…。」
「はい、なんですか?」
「君は確か記憶がないと言ったな。自分の名前と両親が亡くなったこと以外はほとんど覚えていないと。」
「は、はい。」
「それ、嘘だろう。」
息が止まった。まるで頭をトンカチかハンマーで思いっきり殴られたみたいな衝撃が走る。
まだここで「なんのことです?」としらばっくれる手もあるにはあるのだが、ここまで直球に言われてしまうと取り繕う前に狼狽えてしまう。
というかもう狼狽えてしまっている。だから私は素直に答える他なかった。
「なんで分かったんですか?」
「じゃあホントに記憶が無いわけではないんだな。」
「あ…。」
私は彼の言葉に何も返せなくて深く俯いた。
ふと頭に重みが乗る。彼の掌だ。そのまま私の頭をゆっくりと撫でてくれる。
「別に怒ってなどいない。ただ、記憶がないのにあんなに心に響く曲が作れるとは思えなかったんだ。それに何か事情があるんだろう?」
「はい…。」
「無理に答えろとは言わない。だが、抱え込むのも良くないと俺は思う。」
「そこまで深刻な問題じゃないですよ。」
なんだか完全に子供扱いされているみたいで私は思わず苦笑する。男の人に頭を撫でられたのなんてお父さんや親戚以外だとこの人が初めてだ。
一定のペースで撫でてくれる大きな手はとても気持ちよくて思わずうっとりと目を細めてしまう。
すると手の動きが一瞬止まって最後にポンポンと頭を優しく叩いていく。そして離れていった。
「引き留めて悪かった。送ろう、家はどこだ?」
「家…。大丈夫です、自分で帰れますから。」
「…そうか。」
あっさりと彼が引き下がってくれたことにホッとする。あの夫婦の家をここで言ってしまうのは何か違うと思った。
だけどそろそろ帰らないと心配されそうなので私もベンチから立ち上がる。
私は彼にお礼を言った。なんだか彼と話をしたことで少し沈んでた気持ちが軽くなったし、私の作った曲をちゃんと熱心に聞いてくれたことも本当に嬉しかった。
ただ、彼に嘘がバレたときのあの罠に嵌った感は少しだけ悔しいけど。
「ふふっ…。」
「どうした?」
「いや、私達お互いの名前すら知らないまま話し込んでたんだなぁと。」
「…エルヴィンだ。」
「私はレナです。じゃあ、さよなら。」
あの時と同じなんともいえない名残惜しさを感じながら私はエルヴィンさんに背中を向けた。
ちなみにこの後、帰り道が分からなくなってヴァイスとシュヴァイツに念話で助けを求め、迎えに来て貰ったのはここだけの話。
頭ナデナデが大好きな主人公です。




