15話
読んでくれてる皆様に感謝感激です。
これからものんびりよろしくお願いします。
デザートのフルールの実もありがたく頂いた後、私は散歩をすることにした。
夫婦はいきなり涙を流しながら無心にオムライスを頬張っていた私に気を遣ったのか、夜の営業は休みにしてくれたのだ。
別にそこまでしなくても良かったのに…という少しの罪悪感と、少しだけひとりになりたい気分だったからありがたいと思う感謝の気持ちが混ざってなんともいえない。
上着のフードを被って外灯に照らされた町をフラフラと宛もなく歩き続ける。小さな町だからかほとんどの店が営業を終えていて、歩いている通りは私の鳴らすブーツの音が響き渡るくらい静かだ。
その様子は私の故郷によく似ている。田舎だから夜はいつもこんな感じに人気があまり無かったのだ。
時々空を見上げなが らゆっくり噛み締めるように、いや、踏み締めるように歩く。自然と鼻歌を歌っていた。
私がこの曲と出会ったのはテレビのCMで有名な芸能人たちが歌っているのを聞いたとき。そのすぐあと音楽の授業でこの曲を歌って好きになった。
ちょっと突っ込ませてもらうと、上を向いていても涙は零れると思うんだけどそこんとこどうなんでしょう。
「~♪~~♪…あ、いい場所発見。」
ふと見つけたのはベンチがいくつか並んでいる緑豊かな小さな広場だった。
広場に入って改めて見回してみるとベンチ以外は何もないとてもすっきりした場所で、たぶんちょっとした休憩に使われてるんだろう。
私は広場の中心辺りにあるベンチに腰をかけた。首に吊したオカリナを手に取る。
探し求めていた場所はここだ。自分の心を音にしてさらけ出せるまるで切り取られたような場所。
誰かに聞いてもらえるのはもちろん嬉しいんだけどやっぱり恥ずかしいからね。
「うーん…。」
何の曲を吹こうか考えながら空を見上げると綺麗な星と月があった。
日本と違って星座らしき並びをこの世界の星はしていない。まぁ私はオリオン座しか自力で見つけたことないんだけど。
月は綺麗な三日月の形をしていてなんだか月が星を飲み込もうとしているように私には見えた。
コンペイトウ…食べたいなぁ。
(そうだ、あの曲にしよう。)
曲名は「星の帰り道」。もちろんこれも私の自作だ。
家族が待っている家への帰り道。星がキラキラと輝く夜道を歩きながら1日を振り返る。そんなイメージの曲だ。
目を閉じて曲の世界へと入り浸る。
別にこの世界が嫌な訳じゃない。でも故郷に帰りたくないわけでもない。答えのない真ん中。
でも別に今出さなくても良い。これから生きていくこの世界でまた新しい音を見つけて、その時に答えを出そう。
そんな感じですっかり自分の世界に頭までどっぷりと浸かっていた私は気づくことができなかった。
ゆっくりと目を開けると視界に映るのは銀色と藍色。
まだ記憶に新しい黒の軍服を身に纏った騎士さんが広場の入り口にいた。
私が彼を認識すると、まるでそれを待っていたかのように彼はゆっくりと私の方へ歩いてくる。
私のすぐ目の前で彼の足は止まった。私は喉を反らして彼を見上げる。
その拍子にポロリと涙が頬をつたった。私はフフッと笑う。目の前の整った顔はとても不思議そうにしていた。
「なぜ笑う…?」
「いや、上を向いていてもやっぱり涙は零れるんだなぁと。」
私の答えによく分からないという表情をする彼。そりゃそうでしょうな。
でも私にとってよく分からないのはなんで彼がこんな所に居るのかということだ。
グースさんから騎士団の人達は町の一番良い宿で魔獣討伐成功のパーティをすると聞いていたけどもう終わってしまったのかな。
「騎士団の人ですよね。こんな所に何かご用事が?」
「特になかったが、今できた。」
今度は私がさっきの彼と同じ表情をする番だった。今できたってなにソレ。
ジッと深い闇のような藍色に見つめられて身体が少しだけ強ばる。妙な威圧感を放たないで欲しい…。
「君に聞きたいことが2つある。1つ。なぜザヴェードの森にいた?」
「そんなこと私も分からないです。」
「…どういうことだ。」
やはりそれを聞いてくるか。ミニパレードもどきの時にカウンターに引っ込んでて正解だったなと少しだけホッとする。
もしあんな人の多いところで「ちょっと来てもらおうか。」とか言われたら周りの女性方に殺されてしまうかもしれない。あー怖い。
私はアイナさんとグースさんに話したこととほぼ同じ内容のことを彼に話した。
「記憶がないのか?」
「ないというか…まぁ例えるならパズルのピースが8割どっかいっちゃったみたいな感じです。」
「なるほど。でもなんで魔獣に近づいた。あの魔獣は上級でヘタをすれば命を落としていたはずだ。」
「音がしたから誰かいるかもと思って…そしたら大きな化け物がいたので足がすくんじゃいました。」
「そうか…。これからはあの森に入らないように。」
それっぽい嘘の理由をつらつらと並べていく。私は今日、嘘を言う辛さを身をもって思い知った。
目線を反らしたくなる衝動に必死に耐えてボロが出ないように頑張るけど、たぶん見透かされてるような気がする。
ところでそろそろ首が痛い。
「じゃあ2つ目。さっきの曲は何ていう曲だ?」
「さっきのですか…?聞いてどうするんです?」
「俺は別に音楽に興味があるわけじゃないが、あの曲は気に入った。」
彼はフッと笑いながらそう言った。
もちろんその気持ちはとても嬉しい。今までだってそう言ってくれる人は少ないながらも居た。
だけどその人達はだいたいみんなこう言ってきたのだ。「CD買いたいから曲名教えてくれない?」と。
そして私はいつも心の中で「申し訳ない…。」と謝っていた。
「星の帰り道という曲名です。私が作りました。」
「君が作ったのか。となるとその曲はどこにも売ってないんだな。」
「その通りです。」
「それは残念だ。」
すると彼は私の隣にサッと座ってきた。そして背もたれに背中を預けて全身の力を抜き取るような溜息を吐く。
私はまじまじと横目で彼の様子をうかがった。夜空を見上げている彼はさすがは美形というかかなり絵になっている。
私も彼と同じように空を見上げた。スーッと通り抜けていく夜風は冷たい。だけど冬の空はやっぱり綺麗だ。
「もう一度、聞かせてくれないか?星の帰り道。」
空を見上げたまま彼はポツリと呟いた。
私は素直に頷く。これくらいのお願いなら別にどうってことない。
深呼吸を1つした後、私はさっきと同じようにオカリナから音を奏でる。
こんどは涙はこぼれなかった。
※どうでもいい捕捉
主人公の音楽の才能は目を見張るものですが、本人にとって音楽は感情や思いの表現方法と趣味程度でしかないのでその道に進む気は全くないそうです。




