14話
騎士団のミニパレードもどきが終わって辺りも落ち着き始めた頃。
店のカウンターでヴァイスシュヴァイツと戯れているとアイナさんが駆け寄ってきた。
「レナちゃんは好きな食べ物とかは覚えてないの?」
「好きな食べ物…ですか?」
「もし覚えてたなら今日の夕食はレナちゃんの好きなものを作ってあげようと思って。」
ニッコリ笑っているアイナさんに言葉が出ない。アイナさんがめっちゃ良い人すぎて詐欺とかに騙されないかすごく心配です。
私はうーんと考える。主食が米だということは聞いたけど、まだ私はこの世界で料理というものを見たことがない。
迂闊に料理名を出して「なぁにそれ?」と言われると困るしなぁ。
「すいません覚えてないです。でも森で食べた紫とピンクの水玉模様の木の実はとてもおいしくて気に入りました。」
「フルールの実ね。じゃあ夕食はオムライスにしてデザートにフルールの実を食べましょう。」
アイナさんの言葉に私はピクリと反応した。オムライスは好きだ。
エプロンを付けながらアイナさんはパタパタと奥に消えていく。
私はカウンターにバタッと頭だけ突っ伏した。
(なんか、ここまで親切にしてもらえるなんて…罪悪感が…。)
『そこまで気に負わなくてもいいと思うわよ。あの2人からどんどん正の感情が溢れてるもの。』
(2人から…?てかちょっと気になったんだけど正の感情が溢れると何かあるの?)
『魔獣が負の感情から生まれることは知ってるな?正の感情はその反対で負の感情を打ち消す効果があるんだ。』
『私達神獣は生き物から溢れるその正の感情を増幅することができるの。あなたもリューン様の力を持ってるからできるはずだけど。』
(え、そうなの?でもやり方とか分かんないんだけど…。)
『やり方なんてない。俺達はそこに存在するだけで正の感情を増幅できるんだよ。』
恐るべし、というかさすがは神の力だ。だけどこれで私達の目的がだいぶはっきりとしてきたような気がする。
正の感情と負の感情はお互いがお互いを打ち消す。今スクライドではその均衡が崩れて負の感情が溢れ、それが強力な魔獣の出現という形で現れているのだという。
正の感情がたくさん溢れればそれだけで魔獣の出現をある程度阻止できるし、逆にこのまま負の感情が打ち消されないままだと魔獣は増える一方。
私がこの世界ですべきことは魔獣を倒して彼らの元である負の感情を浄化し、正の感情を増幅させること。
この世から恨み辛み悲しみが消えることはない。けど増やさないようにすることはできる。癒すことだってできる。
私達はその手助けをするんだ。
(だけどなんでアイナさんやグースさんから正の感情が…?)
『詳しくは分からないけど彼女たちからは「守る」という意思が伝わってくるわ。』
(守る…?)
『たぶんレナのことを守ろうとしてるんだろう。お前の伝えたことに多少の嘘が混じっているとはいえ身寄りがないのはまぎれもない事実だ。』
『私達からみてもそういう雰囲気がすごく出てるのよあなた。どうせ迷惑かけないようにさっさとここを出て行くつもりだったんでしょ?』
(…。)
なんでこう人間ってヤツは思っていたことをはっきりと言葉に出されると自分の言葉が出てこなくなるんだろうか。
私は溜息を吐きながら突っ伏していた頭を抱きしめるように抱え込む。
奥の部屋から匂ってくる美味しそうな料理の香りに鼻がツーンと痛くなった。
あの後私は少しばかり眠ってしまっていたようだ。
夕食の準備ができたとアイナさんが起こしてくれたのだ。せめて少しでもお手伝いしたかったのに何故寝てしまった私…!!
少しばかりボーッとする頭を持ち上げて一番最初に案内されたテーブルへと向かう。
そこにはおいしそうなオムライスと野菜のたっぷり入ったこれまたおいしそうなスープが並んでいた。
オムライスにはそれぞれケチャップで名前が書いてあった。
ヴァイスとシュヴァイツ用にミルクも用意されていた。ホント完全に子犬扱いだね君たち。
「それじゃあ頂こうか。あ、レナちゃん。食事をする前にな、やることがあるんだよ。」
「やること?」
「えぇ。食事を食べられることに感謝を込めてありがとうって心の中で言うの。お辞儀をしながらね。」
日本で言う「いただきます。」と同じような物だろう。目の前に座る2人に見習って私も心の中で「ありがとうございます。」と述べながらお辞儀をした。
まずは野菜スープに手をつけた。
私はいつも最初にメイン以外のサラダやスープを食べることにしている。なんでかって言われたら親がそうしていたから真似てそうしているだけだけど。
温かい野菜スープはコンソメ味だった。野菜によく味がしみ込んでとってもおいしい。
「どう?」
「とってもおいしいです。」
「そうだろうそうだろう!アイナの飯はめちゃくちゃ美味いからな!!」
アイナさんに笑顔でそう返せばグースさんが自分の事のように嬉しそうにアイナさんを自慢する。
その隣で恥ずかしいのかグースさんの肩をバシィッ!と叩くアイナはさんの顔は真っ赤だ。
そんなアイナさんはもうとっても可愛らしいのだが、思いっきり肩を叩かれたグースさんの目には若干涙が浮かんでいる。
綺麗な見た目によらずアイナさんはけっこう力の強い人のようだ。
コンソメスープを味わった後に私はメインのオムライスにスプーンを差し込み口に入れた。
言葉が出なかった。
私は夢中でオムライスを口の中に運んだ。めちゃくちゃ美味しい。このオムライス。
目の前の夫婦は私の食べっぷりに嬉しそうに笑う。けどしばらくすると困惑したような声で「レナちゃん…?」と私の名前を呼んだ。
「とっても…とてもおいしい、です。」
やっとそれだけ伝えて私はまたオムライスをひたすら口に運ぶ。アイナさんとグースさんはもう何も言わない。
母さんの作る味とそっくりのオムライスは気づけばちょっとしょっぱくなっていた。
※プチキャラ紹介
・グース
ザヴェードの町で暮らしている。アイナの夫。
町で彼女と雑貨屋さんを営んでいる。
変わった物が好きらしい。
・アイナ
ザヴェードの町で暮らしている。グースの妻。
町で彼と雑貨屋さんを営んでいる。
料理が得意で意外と力が強い。




