11話
ものの数分でそこに着いた。
そこは崖と崖の間にある広くゴツゴツとした岩ばかりの窪んだ場所だった。私達はその崖の上からひっそりと様子をうかがう。
暴れている魔獣らしきものは二足歩行で羊のような渦巻き状の角を生やしている。大きさはたぶん5mくらい。
その魔獣と戦っている人達はみんな鎧を身に纏っているからアレは騎士団の人達だろう。ざっと見て30いるかいないかくらいだ。
魔獣に近い位置にいる人達は剣や槍などの武器を構えて魔獣に挑み掛かり、それよりも後方にいる人達は両手を前に出して何かを唱えている。
するとその人達の足元に印が浮かぶ。その瞬間、前に掲げられていた両手から巨大な火の玉が魔獣目がけて飛んでいった。
「あれが魔法?」
『あぁ。にしてもまさか騎士団の任務中に遭遇するなんてな。』
「任務…?騎士団は魔獣を倒すのがお仕事なの?」
『そうよ。それ以外にも王族の護衛や宮殿の警備なんかもあるけれど、基本は中級~上級の魔獣を倒すのが仕事ね。』
『あの魔獣は上級だな。あの人数じゃキツイかもしれないぞ。』
シュヴァイツが眉間を顰める。確かに騎士団の人達はじりじりと後方に追いやられている。
巨大な火の玉は当たれば魔獣をひるませることはできても、たいしたダメージにはなっておらず、前衛の騎士達は中々攻撃に転じることができない。
それにヴァイスが言うには、騎士団の使っているあの火の魔法は中級魔法で詠唱も初級よりずっと長く魔力の消費も少なくはない。
このまま戦闘が長引けばまず間違いなく騎士団は全滅するだろうとのことだ。
私は小さい脳味噌をフルに回転させて考える。どうにかしてこの状況を打開する方法を作らないと。
「なんとかできないかな…!」
『そうだな…。少しでいいからあの魔獣の意識が騎士団連中以外に向けられれば…。』
そう言われて私は思いついた。私がここからマスケット銃で攻撃してこっちに気を引けばいいんじゃないか。
どうせここで爪を噛んで見ているよりは、たとえ危険でもなにかアクションを起こした方が全然マシだ。
私はさっそく身体を地面に寝ころばせマスケット銃を取り出した。狙うは魔獣の頭部。気分は正にどこかの暗殺者。
呼吸を止めてじっくりと様子をうかがう。まだだ。まだ。まだ。まだ…。
「………ッ!!」
魔獣が空を仰いで咆哮をした瞬間、私はトリガーを引いた。
-グオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ-
魔獣がもがき苦しむ声が大地を揺るがす。弾丸は無事に命中した。しかも魔獣の眼に。
ヴァイスとシュヴァイツがやるじゃないかと褒めてくれる。
私はホッと息を吐いた。いくら的が大きいとはいえ眼に命中したのは本当に幸運だった。
魔獣は片目を押さえながら悲痛な声で泣き叫んでいる。そりゃ痛いよね。しかも弾丸はたぶん眼球に埋まってるだろうし。
騎士団の人達は急に苦しみだした魔獣に困惑を示したものの、すぐに攻撃を開始した。さすがは騎士団。
片目を失った魔獣は明らかに攻撃の仕方がおかしくなっている。視界が良くないせいで狙いを定められないんだろう。
魔法組も詠唱を唱え始め、終わった者の手のひらからどんどん魔法が打ち出されていく。
前衛の武器組は「うお おおおおおおおおおおおお!!!!」と勇ましい雄叫びをあげながら四方八方から魔獣へと斬りかかっていった。
私はさらにマスケット銃を取り出した。今度はどこでもいいから一発当てることにする。
騎士団の人に当たらないように細心の注意を払いながら慎重に狙いを定めてトリガーを引いた。
-ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァァァァァァァァァァァ-
今度はどこに命中したのかは分からなかったけど、とりあえず弾が当たったことだけは分かった。
それにしてもたかが一発銃弾が当たっただけでこうも苦しそうにもがく魔獣の様子はちょっと大げさすぎないかと私は思う。
その疑問を2人に打ち明けた。
『その武器はリューン様がくださったんでしょ?ならその武器には浄化の力がやどってるんだわ。』
「浄化の力…?」
『魔獣の中に宿る負の感情。それが奴らの元なんだ。それを浄化して弱らせることができるのは神の浄化の力だけだ。』
私はまじまじと手に握られているマスケット銃を見る。たちまちそれは消滅して消えた。
戦場に目を向けてみればもう決着がついていた。後ろへと倒れ込んだ魔獣はたちまち光の粒となって消滅していく。
さっき消滅した私のマスケット銃のように。
しばらくして魔獣は完全に消滅したが、そこには何かが残っていた。
「あれは何?」
『あれは魔石だ。負の感情と違って魔力はあんな風に形を残していくんだ。』
『その魔石で人間は武器を作ったり強化したり、あるいは加工して自分の魔力を強める薬なんかを作ってるのよ。』
「へぇ~。」
私が頭の片隅でその薬とやらは飲みたくないなぁと考えているとそこへ1匹の立派な葦毛の馬がすごい速さで駆けつけてきた。
そこに乗っていた男の人の表情がなぜか驚愕の色に染まる。だけどすぐにソレを引き締めてその魔石を回収していた。
その他の騎士が顔も含めて全身鎧なのに対してその人だけは軍服の上に一部しか鎧を付けておらず背中に真っ赤なマントをはためかせていた。たぶん隊長さんなんだろう。
魔石はその人が両手で抱え上げるくらい大きかった。すぐに他の騎士達が「俺が持ちます!」と言わんばかりに集まってくる。
隊長らしき人は素直に騎士達に石を任せて、周囲をキョロキョロと見回しはじめた。
他に魔獣がいないか確認しているのかなと思いつつ様子を見守っていた ら、その人はこっちを見た。
そのままずっとこちらに頭を向けたまま動かない。あ、見られてる。たぶん。
その人はとても整った顔立ちをしていた。銀の髪に藍色の瞳。どっちも私が好きな色だ。羨ましいなぁ。
なんだか名残惜しさを感じながらも私はそのままそーーっと目を逸らしてそーーっとお腹を引きずりながら崖から離れた。
ヴァイスとシュヴァイツはいつの間にか森の中に戻っていた。私だけ置いていくなんてひどすぎる…。
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