10話
フルールの実をたらふく食べた私はシュヴァイツに背中を預けて一服をしていた。
ほんとはこんなにタラタラしている暇なんてどこにもありはしないのだが、私はご飯を食べてすぐに動くことができないのだ。許して欲しい。
ちなみに金欠の時のご飯はここのフルールの実がいいと2人に言ったら別にいいよと許可を貰った。やったね。
「ねぇ、ひとつ聞いても良い?」
『どうした。』
「なんであのとき、2人はあそこにいたの?」
『あの時って?』
「ほら、私と初めて出会ったときだよ。」
なんとはなしに聞いてみた。
今からしてみればそんなこと別にどうだっていいんだけど私が動けるようになるまでの時間潰しには丁度良い。
『音が聞こえたのよ。たぶんあなたが首から釣り下げてるソレ。』
「あ、オカリナか。」
そうだあの時私は自分自身を落ち着かせるためにオカリナを吹いていたんじゃないか。そして二人と出会ったんだ。
聞けば2人はあの時このオカリナの音に引き寄せられるような感覚になったそうだ。うん、よく分からない。
私は暇を持てあましていた手をオカリナへと持って行き、そっと撫でた。
父さんと母さんはどうしているだろう。清花は元気だろうか。いきなり行方をくらました私をきっと心配してるだろうなぁ。
「…。」
考えるのを止めた。ホームシックになったらきっとやっかいだ。
私はこの世界で成すべきことがある。大切な親友の願いを叶えるために私は目の前のことに集中しなければいけない。
うーんと背筋を伸ばして私は立ち上がった。そろそろ出発せねば。
私は今度はシュヴァイツの背中に飛び乗る。あれ、なんかすごい身体が軽いような気がするんだけどなんでだろう。
『契約の効果がそろそろ出てきたようだな。』
「契約の効果?」
『さっき異常に身体が軽いと思わなかったか?。』
おや、なぜそれを。
私がそういう視線を送っていると首だけ少し振り返ったシュヴァイツが言った。
『神獣と契約を交わすときに体液を交換するだろ?契約時に交換した神獣の体液には身体能力を向上させる効果があるんだよ。』
「へぇ~そうなんだ。じゃあ私がシュヴァイツの背中に軽々と飛び乗れたのもそれのおかげってこと?」
『そうだ。』
『それにも相性があってね。相性が良ければそれだけ身体能力も向上するし、あまり相性が良くなければ精々足が速くなるくらいの恩恵しか受けられないのよねぇ。』
2人の説明に「へぇ~。」と納得していたが少しだけ考える。
リューン様の力を半分授かって、さらに神獣×2と契約を交わした私の身体って実はとんでもないことになってるんじゃなかろうか。
ヴァイスが相性が~とか言ってたけどたぶん私と2匹の相性は良い方だろう。直感だけど変な確信がある。
だけどこれは嬉しい効果だ。実は私はからっきしの運動音痴でして。スポーツテストの結果はお察しください。特に持久走が大嫌いだったよ。
持久走をさせられる冬の外での体育ではなにかと理由を付けて見学をしていた。たぶん先生には嘘だってバレてただろうなぁ。
それでも私が先生に怒られなかったのは、一度だけ先生に尻を叩かれ仕方なく走った結果ぶっ倒れて気を失ったからだろう。
目を覚ましたときに先生にすごく謝られた。どうも3時間くらい目を覚まさなかったようで同じクラスの生徒達もみんな気が気でなかったとか。
ちなみに私はぶっ倒れている時に例の夢の花畑でリューン様に膝枕してもらいながら花冠作ってました。ふへへ。ごめんなさい。
とりあえず自分の身体能力がどれくらい上昇したのか確かめてみたくなった。
ジャンプ力は欲しいなー。腕力はちょっと女子として気になるけどまぁ多少増えていても仕方ない。
もし日曜の朝に活躍中の世界を守るために戦う伝説の戦士くらいまでになってたら小さい頃の夢が叶うぞ私。
「……ん?」
ふと何かの声が聞こえた。ヴァイスとシュヴァイツも足を止めて耳をピクピクと動かしているから気のせいではないはず。
できるだけ神経をとぎすませて必死に音を拾った。昔から聴力と視力だけは良い方なのだ。
しばらくして聞こえてきたのは怪物みたいな何かの鳴き声だった。さっきよりは大きくはっきりと聞こえる。
『魔獣だ。』
シュヴァイツが一言そう言った。そのすぐ後に大きな爆発音が聞こえてきた。
どうやらどこかで魔獣が暴れているようだ。さっきまでのどかな森だったのに急に空気が重苦しくなる。
ザヴェードの森の出口はもうすぐ。でも爆発音が聞こえてきた所はもう少し西の方角。
『どうする?様子、見に行ってみる?』
「私、まだ戦えないと思う。」
『魔力の気配がする。たぶん、どっかの冒険者か騎士団の連中が戦ってるんだろう。』
また爆発音が聞こえた。さっきの音も今の音も戦闘による音なのか。
私は悩んだ。今の私は神の力を持っているとはいえ戦闘に関しては素人。
だけどこれから嫌というほど魔獣と戦うことになるだろう。なら一度実戦の様子を見ておいた方が良いと私は思うわけで。
でもでも様子を見に行ってもし冒険者や騎士団の人達に迷惑をかけてしまったらどうしよう。
頭の中で2つの思考がグルグルと駆けめぐる。ああああああもう!優柔不断!!それダメ!!
「行こう!とりあえず行こう!!」
とりあえず行こうって何だよ、と自分で思いつつもそれしか言えなかった。
けど、2人は私を見てコクリと頷く。私はしっかりとシュヴァイツにしがみついた。
私達はその爆発音が聞こえたところへと一直線に駆けだした。




