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9話
「新しいミルク温度計、使いやすい?」
「…はい」
新しい温度計は、細くて軽かった。
ミルクに差し込む。
針がゆっくり動いた。
「前使ってたやつどこに行ったんだろうね〜」
・
あの時は不快だったな。
僕は泥酔していた女を、刺した。
雪も降らず、風もない静かな日だった。
バイト帰りに花屋へ寄り、白いカスミソウを買ったんだ。
痛いと騒ぎ、動き回り、抵抗され。
静かになるまで時間がかかった。
仕事終わりの女のブラウスはだんだん暗く染まり、徐々に静かになり、色を失った。
手のひらに残った温度は、冷たい外気によって冷えていく。
不快だった。
思っていたよりもにおいがあった。
靴の先に、暗い色が広がっていた。
僕はそれを避けるように、一歩下がる。
「知っていますか?カスミソウは、単体でも添え物としても使えるんですよ」
僕は、添え物のカスミソウの方が好きだ。
カスミソウがあるから、主役の花はより引き立つ。
でも、可哀想に。
このカスミソウは、主役にも添え物にもなれなかった。
「あなたに合う花ではないみたいですね」
・
僕は、温度計をミルクから引き抜いた。
白い湯気がゆっくり立つ。
「さあ、どこへ行ったんでしょうね」




