8話
バイトは、思っていたほど大変ではなかった。
僕の担当は、飲み物を作ることだった。
客によって好みが変わるため、飲み物に入れるミルクだけでも複数種類あることを知った。
注文を受けて、僕が飲み物を作る。
同じことの繰り返しだった。
「あのお客様は毎日いらっしゃるからね、覚えておいてね」
僕に仕事を教えてくれる佐藤さん。
彼女はやけに世話を焼きたがる。
「はい」
僕には客の違いがよく分からなかった。
昨日来た人も、今日来た人も、よく覚えていない。
ただ、僕は誰かを待っていた。
入り口のドアが開くたびに、誰かを探していた。
僕がバイトに慣れた頃にも、
毎月の新作が発表される頃にも、
夜の訪れが少し遅くなった頃にも、
来なかった。
そのうち忘れかけていた頃に、やってきたんだ。
僕はミルクピッチャーを洗いながら、顔を上げた。
ガラス戸が開き、まっすぐ注文口へ向かう制服の女の子。
髪型が少し違うけれど、すぐに分かった。
僕がカスミソウを見つけたあの日、窓際で勉強をしていた子だ。
「キャラメルラテで…あ、ホットでお願いします」
キョロキョロと席を見渡していた。
今日は来客が多く、席にも余裕がなかった。
視線を落とし、ミルクをピッチャーに注ぎ、温める。
温度計を差し込む。
白いミルクの中で、針がゆっくりと動く。
音はほとんどなく、湯気だけが上がる。
キャラメルシロップを入れ、静かにかき混ぜた。
甘い匂いがした。
「キャラメルラテでお待ちのお客様」
僕は彼女を呼ぶ。
ちょうど良いタイミングで、あの日座っていた窓際の席が空いた。
「ありがとうございます」
カップのふちに残った泡が気になった。
外をたくさん歩いたのだろう。
彼女の鼻や頬、耳は真っ赤だった。




