6話
「プレゼント用のお花をお探しですか?」
一瞬、言葉に詰まった。
渡す相手など、もちろんいない。
それでもなぜか否定する気にはなれず、むしろそれがいいと思った。
「はい。そうなんです。もうすぐ、記念日で」
答えると、店員は笑った。
「きっと、喜ばれますよ」
…そうか、花を贈ると喜ばれるのか。
店員の腕の中にあるカスミソウの花束は、少し寂しく感じた。
主役が必要だと思った。
「今日は見るだけにします」
「またいらしてくださいね、お待ちしております」
僕は軽く頭を下げた。
「また来ます」
小さな鈴の音を鳴らし、店を後にする。
雪が静かに降っていた。
今日は冷える。近くにチェーン店のカフェがあったな。
雪は静かなのに、周りはうるさい。
雪を踏む足音、車の排気音、人の話し声、笑い声。
道の端には踏み固められて黒くなった雪が積もっている。
今年は雪の量が多いみたいだ。
上着のコートに手を入れたまま、ガラス張りの店を見上げた。
ーーアルバイト募集
そう書かれた紙が、店の入り口に貼られている。
カフェの中は暖かそうで、白い湯気がガラスの向こうにぼやけて見えた。
いずれ、花を買う予定だ。
その時に自由に使えるお金があった方が良いと思った。
ドアを押し開けると、コーヒーの良い匂いがした。
「いらっしゃいませ」
店員が顔を上げる。同世代くらいの女の子だった。
少し間を置いてから言った。
「あの、バイト募集していますか」
「あ、はい。まだ募集していますよ」
女の子は少し嬉しそうに笑った。
「今、店長お呼びしますね」
僕は頷き、店内を見渡す。
数人の客が静かに座っていた。
ひとりで本を読んでいる人、スマートフォンを見つめている人。
友人と雑談をしている人。
しばらくして、奥から男性が出てきた。
「君がバイト希望の子?」
「はい」
「…いつから入れる?」
僕は少し考えてから答えた。
「いつでも大丈夫です」
店長は軽く頷き、近くの席の椅子を引いた。
「じゃあ、簡単に面接しようか」
僕は静かに椅子に座った。
カウンターの奥で、コーヒーの香りが広がる。
とても心地よいと思った。




