5話
僕の住む北海道は、気がつけばすっかり銀世界になった。
吐く息が白く、視界の端で雪がゆっくりと降る。
あの時の女の子は、死んだだろうか。
階段の途中で転がるように落ちていった背中を思い出す。
途中で手すりにぶつかる鈍い音、短い悲鳴。
その後訪れた静寂。
車の音。
人の気配。
あの時、振り返るべきだったのかもしれない。
死んだかどうか分からなければ、何も残らない。
足りない。
あの時もそう思った。
落ちていく姿は悪くはなかったけれど、ただそれだけだった。
それ以上は何も感じなかった。
ふと、通りの角に小さな花屋が見えた。
ガラス越しにいくつも並ぶ白い花が、雪のように見えた。
吸い寄せられるように店に入ると、鈴の音が小さく鳴った。
暖かい空気と、甘い花の匂いが混ざる。
「いらっしゃいませ」
奥から女性の店員が顔を出す。
雪のように見えた、小さな白い花の前で足を止める。
「これ、なんていう花ですか」
「カスミソウです。可愛いですよね」
近くで見ると、小さな白い花が集まって、ひとつのかたまりになっていた。
軽くて、柔らかそうだった。
あの時の、花壇に咲いていた花だとすぐに分かった。
「年中あるんですか」
「はい、結構人気なんですよ!単体でも、他のお花と合わせても使えますし」
定番の花束なんですよ、と近くにあった花束を見せてくれた。
「こんな風に、染めることもできるんですよ」
「へえ、可愛いですね」
ふっと、口元が少しだけ緩んだ。
足りなかったものは、これだったんだ。




